2023年12月 1日 「3.6 多値を排除する」 を読む × 閉じる


 「意味」 には次の二つの内容があります──

    (1) 文脈 [ 構造 ] のなかで内容を有する (他の記号との聯関においてもつ内容)。

    (2) 一つの記号が一つの値をもつ。

 (1) の考え方を 「意味の使用説」 と云い、(2) の考え方を 「意味の対象説」 と云います。そして、(1) の 「意味」 は meaning と呼ばれ、(2) の 「意味」 は sense と呼ばれています。事業分析・データ 設計では、モデル の入力となる文字列は、ユーザ が事業のなかで使って共有している (1) の 「意味」 を指しますが、それらの文字列を モデル (形式的構造) として構成すれば (2) の 「意味」 を実現しなければならない、すなわち モデル では、一つの記号は一つの 「意味」 (真とされる値) をもつとされています。

 (1) の 「意味」 では、一つの記号が多値になっている事象が起こり得ます──たとえば、「商品単価」 という記号について、二つの値 (正価格と割引価格) が存在するという事象です。多値は、一つの記号が複数の値をもつ事象です、コンピュータ 領域では 「配列」 と云われている事象です。したがって、モデル では多値を一価になるようにしなければならない。

 多値は、コッド 正規形では、第1正規形で排除されます──「排除」 というのは、多値を当初の タプル から外して、べつの タプル にして、多値を それぞれ 一価の タプル (row) にするということです。TM は、コッド 正規形を基本的に遵守していますが、TM の 「『関係』 文法」 のなかに 多値を排除する文法を規定していない。多値は、「『関係』 文法」 とは べつの規則としています。べつの規則にした理由は、「『関係』 文法」 が個体指定子に関する文法 (T字形の左側についての文法) であって、その文法のなかに アトリビュート (T字形の右側の項目) に関する文法を混在させるのは 構文論上 妥当ではないという理由に因る。そして、さらに、意味論上、多値は次の二つの事象をふくんでいて、それら二つの事象に対して それぞれの文法 (構文論) を用意するのが妥当であると考えたからです──

    (1) OR 関係

    (2) AND 関係

 OR 関係というのは、排他的 OR 関係のことを云います──たとえば、先ほど例示した 「正価格と割引価格」 のように、或る一時点で並立は起こり得ないという事象です。AND 関係は並立が起こる事象です──たとえば、one-header-many-details のように 或る一時点で並立が起こる事象です。多値についての具体的技術は、第 7章で説明します。本節では、TM が多値を 「『関係』 文法」 のなかで扱わなかった理由と、多値に対応するための構文論・意味論の配慮点を述べました。 □

 




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