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Like fanning the sun with a peacock's feather.

 
 エンジニアの「定義」を調べてみました。オックスフォード大辞典を使って調べました。オックスフォード大辞典は、言葉の意味を、歴史順に配列しています。

 エンジニアの意味は以下のように変化してきたそうです。

 (1) 当初、軍事製品を設計したり作ったりした人のことを云っていた。
     One who designs and constructs military works for attack or defence

 (2) 次ぎに、民間の「インフラ産業」の設備を設計・構築する人たちを云うよう
    になった。(軍需産業のengineer と切り離して)「civil engineer」と言う
    ようになったようです。そのうちに、「mechanical engineer」という意味も
    成立したようです。

     One whose profession is the designing and constructing of works
     of public utility, such as bridges, roads, canals, railways,
     harbours, drainage works, gas and water works, etc. From 18th c.
     also civil engineer, for distinction from 2 b. Not in Johnson
     1755 or Todd 1818; the former has only the military senses, to
     which the latter adds' maker of engines' citing Bullokar. In the
     early quots. the persons referred to were probably by profession
     military engineers, though the works mentioned were of a 'civil'
     character. Since 2 b has ceased to be a prominent sense of
     engineer, the term 'civil engineer' has lost its original
     antithetic force; but it continues to be the ordinary designation
     of the profession to which it was first applied, distinguishing
     it from that of 'mechanical engineer'(sense 4).
     Other phraseological combinations, as electric (now usu. electrical),
     gas, mining, railway, telegraph engineer, are used to designate
     those who devote themselves to special departments of engineering.

 (3) 「mechanical engineer」は、「engine」を設計し作成する人のことを云う
    ようです。(スチーム・エンジンや重工業系のエンジンを設計・作成する
    技術者のこと。)機械仕掛けの「構造」を設計・作成する人たちも
    「engineer」というようです。手工業系(伝統工芸など)の職人(working
    artisan)も「engineer」というようです。

     A contriver or maker of 'engines'. The precise sense has varied
     from time to time in accordance with the development of meaning
     in engine n.; in present use the engineer in this sense (specifically
     mechanical engineer) is a maker of steam engines or of heavy
     machinery generally. In this sense (but not in 3) the term is
     applied to the working artisan as well as to the employer of labour.

 
 ということは、正確に言えば、「属人性」のつよい仕事でも、「engineer」ということです。したがって、エンジニアリングだけでは、「属人性」を排除したことにはならないようです。
 ということは、機械仕掛けの構造や物のからくりを設計したり作ったりする人たちは、なんらかの意味で、「engineer」ということですから、「engineering」は、「engineer」が使う技術だから、「engineering」だけでは、「属人性」の排除にはならないようですね。

 ちなみに、「科学(sciense)」を、オックスフォード大辞典で調べたら、以下の定義でした。

     In modern use, often treated as synonymous with 'Natural and
     Physical Science' and thus restricted to those branches of study
     that relate to the phenomena of the material universe and their laws,
     sometimes with implied exclusion of pure mathematics. This is now
     the dominant sense in ordinary use.

 
 「科学」というのは、「自然および物理に関する科学」が同義語のようです。材料の本質的な構成とか法則に関する研究領域のことをいうようです。ただし、純粋数学は「自然および物理に関する科学」のなかには入れないようです。

 引用したオックスフォード大辞典の定義を前提にして、科学の歴史を振り返ってみれば、20世紀初頭までは、形而上学的なアプローチが科学のなかで使われていて、20世紀初頭以後、純粋数学が、公理系として、「科学の前提」になってきました。つまり、純粋数学は、科学のなかで使われる思想・技術(あるいは、前提)であって、科学そのものではない、ということでしょうね。

 以上の諸点をまとめてみれば、以下のようになるでしょう。

 (1) engineering は、機械仕掛けの構造を設計・作成する技術である。
 (2) 「科学」は、材料の本質的な構成とか法則を探る研究領域をいう。
 (3) 「数学」は「科学」の領域のなかにはない。

 つまり、「engineering」と「科学」は、べつべつの概念であり、「engineering」は、「科学」を前提にしなくても、だれか(個人)が設計して作成しても、それと同じモノを作ることができればよいので、「属人性」自体は論点にはなっていない、ということですね。

 したがって、「engineering」のなかから「属人性」を排除するためには、「科学」的なアプローチをしなければならない、ということです。  「芸術は『私』であり、科学は『我々』である」という言いかたがあります。「アルゴリズム (定式化された一定の手順)」が成立していることが、芸術の技法と科学的な工法の違いなのでしょうね。そして、「必然的な因果関係」を証明するには、数学のように、(完全性を示す) モデルを作ればよい、ということですね。

 さて、事業というのは、「必然的な因果関係」が成立しない現象が多い。事業のなかでは、「選択的 (偶然的) な因果関係」が多い。そういう現象を対象にしたとき、どの程度まで、「科学的アプローチ」を実現できるか、という点が論点です。この点が、事業を対象にしたシステム・エンジニアリングのむずかしい点でしょうね。
 ただ、1つだけ確実に言えることは、「選択的 (偶然的) な因果関係」が多い現象を対象にするなら、現象をモデル化すること (定式化された構造を作ること) は、ほとんど、できないことであって、「現象を精確に記述する」ほうが効果的である、ということです。

 ただし、「現象を精確に記述する」ためには、手法として、以下の点を提示しなければならない。
 (1) モノを認知するための判断規準
 (2) モノとモノとの間に成立する関連を認識するための判断規準

 
 以上の2点を提示しないような手法を使えば、「不意打ち」が起こるでしょう。すなわち、「私には、或るモノ (entity) が見えるが、あなたには、それが見えない」というような恣意性が忍び込む。事業および (事業のなかで使われてきた) 情報は、一人のエンジニアの価値観 (あるいは、認知力) によって揺らぐ対象ではない。

 
 (2004年3月2日)

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