このウインドウを閉じる

Self-praise is no praise.

 
 10年間も、同じ仕事をやっていれば、どんな不器用な人でも、それなりの成果を出すことはできるでしょう。熟練の十分条件の1つは、年季でしょうね。ただ、年季を重なれば、自然に、身に着く技術を、自らの才能が、もたらした成果だ、と勘違いさえしなければ。

 小生は、データベース技術 (mechanism と technique) を、20年間、ひたすらに、研究してきました。20年間も、一事に専念すれば、それなりの成果を示すことはできます。その成果の1つが、T字形ER手法です。

 数学の証明式は、公表した時点で、無矛盾性と完全性が検証済みになっています。いっぽう、エンジニアリングの技術・方法は、着想した時点では、検証がされていない。したがって、技術・方法は、着想したあとで、実地に使いながら、無矛盾性・完全性を整えていかなければならない。T字形ER手法を整えるために、小生は、10年を費やしました。
 しかも、環境 (技術環境および事業環境) は変化するので、環境変化と対比しながら、(理論的な無矛盾性・完全性を覆すような事象が起こっていないかどうかを、つねに、検討しながら) 方法・技術の単純性・実効性も改善していかなければならない。

 1つの方法・技術を着想するという「生みの苦しみ (生まれいずる悩み)」も大きいのですが、生まれたあとで、大きく育てるという「育児」も、(地味ながら) 大切な作業です。方法・技術は、実地に使いながら、改善しますので、組織的な協力 (クライアントの協力) がなければ、技術改善を実現できない。T字形ER手法の改善に対して、積極的に協力してくださったクライアントに対して、感謝しております。クライアントの協力がなければ、T字形ER手法は、理論的に完全性を証明しても、実地の技術として、単純性・実効性を改善することはできなかったでしょう。
 ゴツゴツした粗い石 (整っていない体系) を、円やかな球 (整合的な単純な体系) にするためには、多くの年数と大きな根気を費やさなければならない。

 新しく出てくる技術を、次から次と、習得していくことは、知性にとって刺激的ですし、そういう技術を、事業のなかで使って、実効性を調べることは、エンジニアにとって、愉しい仕事です。1つの技術しか知らない、というのは、エンジニアとして、未熟です。
 熟練というのは、一事に専念することを前提にしています。しかし、自らの知性・技術を注ぐ一事を選ぶためには、様々な技術を知っていなければならない (体験していなければならない)。小生自身も、プログラマとして、いくつかのコンピュータ言語を使って、プログラマを経験してきましたし、アプリケーション・パッケージ の技術を担当してきましたし、データベース技術 (DAの仕事およびDBAの仕事) を経験してきました。そして、最終的に、データベース技術のエンジニアになりました。

 20歳代・30歳代では、様々な技術を体験することが大切でしょうね。自らの専門を選ぶ時点は、30歳代後半が良いでしょう。それまで、様々な技術を習得してください。

 技術は、時代の流れのなかで、古くなる運命に晒されています。30歳代後半になって、専門領域を選んだら、自らの技術が、事業のなかで、どのようなソリューションを提示できるのか、という点を、環境変化と対比して、常に問い続けて、既存の技術を改善し続けて、技術を常に最新状態に保つことも、エンジニアの仕事として愉しい仕事です。
 技術というのは、現実の問題点に対するソリューションを提示する手段ですから、環境が変化すれば、問題点も変化しますので、環境の変化に対応して、技術を改善しなければ、技術は錆びついてしまいます (陳腐化します)。

 技術を改善し続けるためには、現実の問題点を感知する才識がなければならない。言い換えれば、コンピュータ技術しか知らないというのでは、事業を対象としてシステムを作るエンジニアとして落第ということです。なぜなら、現実の問題点を、はっきりとした形にして定立しなければ、問題点に対するソリューションを提示することができないから。
 そして、自らの技術が「最高である」と自惚れていれば、事業のなかに潜んでいる問題点を感知する才識は鈍るでしょうね。
 専門領域を選んだあとで、常に注意していなければならない点は、事業のなかに潜む問題点を感知する才識を養い、潜在的な問題点に対して、技術が的確なソリューションを提示できるのかどうか、という点を問い、技術を錆びないようにすることです。

 10年間も、同じことをやっていれば、それなりの成果を出すことができます。しかし、10年前と比べて、自らの技術が、どれくらい、改善されてきたのか、という点を検証してみれば良いでしょう。システム・エンジニアの仕事は、現実の問題点に対して、ソリューションとなる技術を提示することですから、くれぐれも、「訓練された無能」あるいは、「生きた化石」にならないようにしてください。

 
 (2004年3月27日)

 

  このウインドウを閉じる