このウインドウを閉じる

Plan the work, work the plan.

 
 前回述べたように、システム・エンジニアは、まず、会計学を勉強してください。
 そして、会計学を勉強したら、次に、生産管理を勉強してください。

 生産管理の体系 (基本形) は、1970年代に完成しています。
 生産管理システムの目的は、工場の情報体系を整備・運用して、製造を合理的におこなえるようにすることです。生産管理システムでは、様々なツールが用いられていますが、以下のツールが代表的なツールでしょう。

 (1) MRP (Manufacturing Resource Planning)
 (2) コンピュータ・ネットワーク (LAN)
 (3) データベース管理システム
 (4) エキスパート・システム
 (5) シミュレーション・ツール

 システム・エンジニアは、まず、(1) および (3) を勉強してください。
 コンピュータ・システムが、多大な貢献を示した典型的例の1つが生産管理でしょうね。
 たとえば、多量のデータを扱う資材所要量計算は、コンピュータを使うようになって、はじめて、実現できた領域でしょう。所要量計算のように、人手でやれば、数日を費やすような計算を、コンピュータを使えば、数秒で こなすことができます。

 生産管理システムでは、1970年代、コンピュータは、資材所要量計算のように、アルゴリズムが成立していて、多量のデータを扱う計算構造に対して多大な貢献をしたのですが、さらに、オリヴァ・ワイト氏をはじめとするコンサルタントたち (および、理論家たち) が、「計画 (マスター・スケジュール)」の大切さを訴えて、生産管理システムが、単なる資材所要量計算を越えて、製造資源計画という理論的・制度的な体系を整えました。そして、資材所要量計算 (Material Requirements Planning) のことを略称して MRP といいますが、製造資源計画 (Manufacturing Resource Planning) のことを--略称すれば、同じ MRP になるので--MRP II と云います。MRP II では、マスター・スケジュールが重視され、生産管理システムは、スケジュール・システムとして拡張されました。つまり、「なにを、いつ」製造するか、という計画が重視され、計画に従って製造される--いわゆる「Plan the work, work the plan」という言いかたがされていますが--、priority を重視するシステムになりました。現代の生産管理システムは、基本的には、当時の MRP II の考えかたを前提にしています。

 そして、1980年代になって、データベース管理システムとして、 RDB が導入され、さらに、1990年代になって、PC-LAN が導入されて、CIM (Computer-Integrated Manufacturing) の体系が、制度として整いました。

 現代では、MRP は、単なる (資材の) 発注技法ではなくて、従属需要品目に対するスケジュール・システムになっていますし、スケジュールは、「タイムフェーズ (time-phased)」という考えかたが導入されて、計画は、時間系列に分割されて管理され、LAN (コンピュータ・ネットワーク) を使って、製造に関与する人たちが、マスター・スケジュールを共有しているシステムになっています。
 「計画」を共有すれば、「なにを、いつ」製造すれば良いか、という点を合意して実施することができるので--さらに、キャパシティも計画されるので、「いくつ」も計画されるので--、在庫の削減や工場稼働率の維持・増大を実現する体制になっています。

 ただ、「計画」を正確に実施するためには、正確な「リード・タイム」が論点になります。「リード・タイム」は、在庫の逆関数です。「リード・タイム」が2週間であれば、2週間以上の安全在庫が保有されているはずです。したがって、在庫の削減は、言いかたを変えれば、「リード・タイム」の削減と同値です。生産管理システムを再構築する際、「在庫削減とリード・タイム削減」という言いかたがされますが、実は、同じことを2つの観点から言っているにすぎないのです。
 したがって、もし、「リード・タイム」として、「最長リード・タイムと平均リード・タイム」というデータをデータベースのなかに定義していれば、おそらく、計画 (スケジュール) は、的確には実施されていないでしょうね。なぜなら、「リード・タイム」が増大すれば--在庫切れを心配して、最長リード・タイムを使えば--、安全在庫が増大しますし、在庫の精度が落ちれば、マスター・スケジュールの精度が下がるから。

 最近では、POS (Point of Sales) や EOS (Electric Order entry System) が導入されて、セールスの観点から実際需要が迅速に正確に入手できるようになっていますし、ECR (Efficient Consumer Response) や QR (Quick Response) という考えかたが導入され、消費者の購買を起点にして、小売り店から入手された販売情報を使い、「製造--卸し--販売」のチャネルが逆流して、販売を起点にして、流通チャネルや製造計画の全体効率化を実現できるようになってきました。
 そうすれば、ますます、「計画」の共有が重視されます。生産管理システムは、現代では、一言でいえば、「購買--製造--卸し--販売」の事業過程のなかに関与している人たちが、1つのマスター・スケジュールを共有している、ということに尽きます。

 さて、以上の理論的・制度的な構造を前提にして、MRP の技術的構造を検討してみてください。資材所要量計画の計算体系を知っていることが、生産管理システムを知っていることではない。

 
 (2004年4月21日)

  このウインドウを閉じる