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So many places, so many manners.

 

 TM (T字形 ER手法の改良版) は、世間では、数学的 モデル のように思われているようですが、それは間違いです。たしかに、TMは、(数学的 モデル の) コッド 関係 モデル を基底にして生まれましたし、私は、1999年まで、コッド 関係 モデル に 「悩まされていました」。ただ、私は、コッド 関係 モデル と縁を断ち切るために、2000年に 「論理 データベース 論考」 を執筆しました。「論理 データベース 論考」 は、数学の技術を棚卸してみて、TM (当時のT字形 ER手法) と数学が どの程度に違うのかを比較した著作でした。そして、TM は、たしかに、数学的技術を使っていますが、TM の基底を 「言語哲学 (『自然言語に対して形式的構成を与える文法』 を考えること)」 に置きました。

 というのは、数学の モデル が、どれほど抽象的に構成されても、自然言語で 「解釈」 されない形式的構成は言語ではない、というのが私の考えかたです。したがって、抽象的な構成は、(数学の純粋な対象を除けば、) かならず、自然言語で翻訳 (あるいは、解釈) されなければならないでしょうね。

 そして、私は、コッド 氏が示した関係代数を一切使っていない。というのは、コッド 関係代数は、「現実的事態の意味」 を 「正確に」 記述するには 「強引すぎる」 と感じていたからです。ここで 「正確に」 という意味は、数学的・構文的な正確性ではなくて、「意味論的に」 という意味です。そのために、「論理 データベース 論考」 では、数学の技術を棚卸して、「あとがき」 で、それらの技術を データ 設計で根底に置くことに対して──ただ、迷いながらですが──「疑義」 を提示しています。そして、私は、コッド 関係代数の代わりに、TM の関係文法を整えました。その関係文法は、コッド 関係代数の 「意味論的」 弱点を補強したつもりです。

 「関数」 という語は汎用的で、さまざまな意味で使われていますが、コッド 氏は、数学の 「直積」 を使いました。でも、私は、「直積」 を使うことを嫌って、「関数」 を もっと緩やかな意味で 「文法」 くらいの意味でしか使わなかった。そして、私が モデル の文法でこだわった点は、「関係の対称性・非対称性」 であって──もし、数学的用語で言うならば、閉包・外点に対する特性関数の適用であって──、数学上の 「関係」 (直積の部分集合) そのものではなかった。

 私が数学を学習したのは──ちなみに、私は数学が嫌いで文系を選んだのですが──、あくまで、「数学の モデル」 というのが どういう物なのかを調べるためでした。というのは、モデル という技術を作った学問領域が数学基礎論 (現代集合論) なので。 数学基礎論を学習するのは、頭の悪い私にとって地獄の連続でした──頭のいい (あるいは、数学が好きだ) というひとには想像できないくらいの苦しさでした。いまとなっては、そういう苦労はどうでもいいのですが、或る意味では、数学の面白さを知ったのも事実です。もし、私が高校生のとき、数学の面白さを学校で教わっていたら、私は、たぶん、数学者になったかもしれない──私は、数学の テスト では、100点満点中 6点という惨めな点数をとったこともありました(苦笑)。

 私の考えかたの根底を形成したのは文学・哲学であって、シロート であっても、そうとうに丁寧に それらの領域に身を置いて学習してきて──この点は 本 ホームページ の 「読書案内」 を ご覧ください──、そして、文学・哲学をやってきたおかげで、数学 (あるいは、数学の専門家) に対して萎縮することが全然なかった。たぶん、小説家や画家は、数学を知らないことなど全然気にしないでしょう。

 たしかに、私は数学の技術を使いますが、それは数学の技術を使っても良い領域に限られていて、モデル に対する私の接近法は、どこまでも、「自然言語に対して形式的構成を いかに与えるか」 という文法を考えることが主題です──したがって、コッド 関係代数とは違う接近法をとっています。この主題を追究するために、私は、「日本科学哲学会」の会員になりました。

 私が数学を学習したのは、数理 モデル とは どういう物なのかを学習するためであって──そして、数学の技術が使える領域では、勿論、数学の技術を使いますが──、TM は数理 モデル ではない点を ご理解いただければ幸いです。TM は、コッド 関係 モデル を基点にしましたが、TM が歩んできた道は、コッド 関係 モデル とは べつの道です。

 ちなみに、近日出版される拙著 「モデル をもとめて (モデル・言語・意味)〜論理的に考えるための 12章」 は、モデル を本格的に学習したいと思っていても数学が嫌いで数学基礎論を正規に学習してこなかった人たちとって、数学基礎論の専門書を読むための手ほどき (梯子の役目) として執筆しました。数学基礎論を学習しないかぎり、モデル の本来の形が見えないでしょうし、そうなれば、単なる 「画法 (diagramming)」 を モデル であると思いこんでしまう危険性が高いでしょうね。ただ、数学が嫌いで文系を選んだ私が モデル を学習するために数学基礎論を独学した同じ苦労を味わってほしくないので、これから モデル を学習する人たちが、なんとか、数学基礎論の書物を読めるようになってほしいという切なる思いで執筆しました。12月か年明けに出版されると思うので手にしていただき、モデル を真摯に考えるようになっていただければ幸いです。

 
 (2008年10月23日)

 

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