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Art for art's sake. (Victor Cousin)

 

 Bloomsbury Thematic Dictionary of Quotations の セクション art のなかで、以下の文が私を惹きました。

    The object of art is to give life a shape.

    Jean Anouilh (1910-87) French dramatist.
    The rehearsal

 
    Art has to move you and design does not,
    unless it's a good design for a bus.

    David Hockney (1937- ) British painter, draughtsman
    and printmaker
    Remark, Oct 1988

 
    Art is not a special sauce applied to ordinary
    cooking; it is the cooking itself if it is good.

    W. R. Lethaby (1871-1963) British architect
    Form in Civilization, 'Art and Workmanship'

 
    Art is not a handcraft, it is the transmission
    of feeling the artist has experienced.

    Leo Tolstoy (1828-1910) Russian writer.
    What is Art?, Ch. 19

 
    All art constantly aspires towards the
    condition of music.

    Walter Pater (1839-94) British critic
    The Renaissance, 'The School of Giorgione'

 
 私は エンジニア であって芸術家でもなければ芸術批評家でもないので、芸術について論を述べるほどの知識をもっていない。したがって、私が これから述べることは、芸術を愛する ひとりの愛好家の独白にすぎない。私は、(上で引用した文の ひとつを綴った) Leo Tolstoy の 「芸術とは何か」 を かつて読んだのですが、いまでは もう 中身を覚えていない──芸術に対する私の知識など その程度に粗末です。

 芸術に対して私が いかなる意見を抱いているかは、本 ホームページ の 「反文芸的断章」 で綴ってきた エッセー を読んでいただければ明らかなのですが、私が六年半も徒然に綴ってきた エッセー (320篇強) を いまさら読み返す暇など 本 ホームページ の読者にはないでしょう。

 私は エンジニア を職としていますが、いっぽうで 文学に魅せられた 「文学青年」 です。私は、高校生の頃に たまたま 手にした小説 「カイン の末裔」 (有島武郎) に魅せられて以後、文学の虜 (とりこ) になった──「カイン の末裔」 は、弟が読書感想文の宿題を綴るために読んでいて、彼の机に置いてあったのを私が目にして、(当初、本気で読もうとは思っていなかったのですが、) 興味半分で読み始めたら引きこまれて一気に読破した次第です。以後、有島武郎は私の好きな作家になって、私は彼れの作品全集 (初版) を所蔵しています。いまでも、有島武郎は私の好きな作家です。有島武郎の作品を起点にして私の読書遍歴は 40年くらいになっていますが、文学に限っていえば、私が読んできた作品は いわゆる 「純文学」 に属する作品です。

 いわゆる 「純文学」 と言われている作品が 「芸術作品」 とされていて、「純文学」 の作品には、上に引用した言説の指している性質があると私は感じていますが、そういう性質を直示できないし、そういう性質を感じた読者の精神が いかなる感動状態を体感したか述べることも難しい。そういう性質・状態を 「事実」 として験証するためには、じぶんの精神を じぶんの精神でもって正確に凝視するしかないでしょうね──だから、パラドックス 臭さがある。そのために、芸術は胡散 (うさん) 臭さを与えるのでしょう。

 しかし、行為という点で観れば、そういう性質は 「思考」 でも同態であって、じぶんの思考を じぶんの思考で確かめるしかない。そして、思考の産物であれ、精神の産物であれ、それらの産物が計量の対象になる。思考の場合には、「論理法則」 という規則があるので、たとえ、じぶんの思考を じぶんの思考で確かめるとしても、思考の産物に対して論理法則の物指しがある。しかし、芸術には、物指しがない──芸術の唯一の拠り所は、「共感」 しかない。

 さて、業務分析において、ER 図 (Entity-Relationship Diagram) と称する産物が 「論理法則」 を前提にしないで 「共感」 をもとめるのであれば、精神の領域で論じられるべき産物でしょうね。しかしながら、ER 図は芸術的な抽象画に値しない──というのは、上に引用した性質を すべて欠落しているので。では、ER 図は 「設計図」 か。じぶんの 「精神」 で ER 図と称した 「設計図」 を描きたがる人たちに私が言いたいことは、David Hockney が言うように、「Art has to move you and design does not, unless it's a good design for a bus」──この皮肉を 彼らは わかるかしら :-)

 
 (2011年 5月 8日)

 

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