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Fear to let fall a drop and you spill a lot. (Malay Proverb)

 

 Bloomsbury Thematic Dictionary of Quotations の セクション caution のなかで、以下の文が私を惹きました。

    Don't put all your eggs in one basket.

    Proverb

 
    He that fights and runs away, may live to
    fight another day.

    Proverb

 
    Keep your weather-eye open.

    Proverb

 
    Chi Wen Tzu always thought three times
    before taking action. Twice would have been
    quite enough.

    Confucius (K'ung Fu-tzu; 551-479 BC) Chinese
    philosopher.
    Analects

 
 caution は 「用心」 ということでしょうね。上に引用した それぞれの文に対して註釈は要らないでしょう。孔子の言を除けば、「ことわざ」 (Proverb) が多いので、かつて一度は耳にした言い伝えでしょう。したがって、これらの文を読んで、わかりきったことだと感じて素通りしてしまうかもしれないのですが、果たして、われわれは 「実感」 として覚えているかどうかが問われるのかもしれない。

 さて、私は、孔子の言を考えてみたい──「考えを巡らすには三回は多い、二回で充分だった」と。逆に言えば、二回は思案したほうがいいということでしょうね。英語には、a second opinion という言いかたがありますが、私の好きな表現の一つです。例えば、ask for a second opinion とは 「(一人の専門家に相談した後で、) べつの専門家の意見を求める」 ということ。a second opinion を求めることは、perfectly ethical です (職業倫理上、疚 (やま) しいことじゃない)。

 エンジニア を職業にしている私は、自分の定見を説いた後で、「他の人たちの意見も聴いてみて下さい」 と勧めることがあります──いかなる状況であっても、たった一つしか しかた がないという事態を私は嫌悪しています。エンジニアは、職業柄、一つの アウトプット を生成するには、無矛盾な アルゴリズム を幾つも作ることができることを知っているし、さらに、或る アルゴリズム を構成するには 「場合分け」 (網羅性) を配慮します。そして、debate を学んだ人も、それを実感するでしょう、きっと。「これしかない (I have no choice)」 という口調は、すべての可能性を吟味し逐 (お) えた 「覚悟」 であって、前以ての狂信じゃない──少なくとも、或る意見に対しては、その論理的否定 (補集合) を考えることもできる。そういう態度であれば、自説に便宜のいい資料のみを集める偏向に陥らないでしょう。私は、人物 (相手の才識・力量) を判断する際にも、賛否両論を fair に扱うことのできる人物かどうかを観察します。

 決断力の立派な人物のように見えて、実は、「早 (はや) 出来 (でか) すという心発 (おこ)る」 (色道小鏡) 性急 (せっかち) な・隙だらけ (vulnerable) の人を私は多く観て来ました──始めは意気がいいが、ついには、萎んでしまった人たちを多く観て来ました (私は、疑いもなくそのなかの一人です。私は、賛否両論を吟味して、行為では慎重なほうなのですが、時折、「片意地」 を張ってしまう [ 苦笑 ])。

 「無垢 (むく) にして抜からず」 (艶道通鑑)、この気位が 「用心」 の神髄かもしれない。勿論、「無垢」 とは 「世間知らず」 という意味じゃないでしょう、浮世の波に攫 (さら) われない・とても強 (したた) かな性質であることは間違いない。

 
 (2011年 9月 1日)

 

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