このウインドウを閉じる

Politeness, n. The most acceptable hypocrisy. (Ambrose Bierce)

 

 Bloomsbury Thematic Dictionary of Quotations セクション courtesy のなかで、以下の文が私を惹きました。

    Civility costs nothing.

    Proverb

 
    If a man be gracious and courteous to
    strangers, it shews he is a citizen of the world.

    Francis Bacon (1561-1626) English philosopher.
    Essays, 'Of Goodness and Goodness of Nature'

 
 一番目の引用文は 「ことわざ」 (言い伝え) で 、「礼儀正しくしている事は、なんら損はしない」 という意味でしょう──礼儀正しい事を似非紳士とか俗物とか窮屈だとか色々と非難する事もできようが、礼儀正しくしていて失うものはないので、礼儀正しくしていればいいじゃないか、という意味でしょうね。私には耳の痛い ことわざ です。二番目の引用文は フランシス・ベーコン の エッセー から抜萃されていて、私は その エッセー を読んでいないので、この引用文が for (賛同) の立場で綴られているのか against (反感) の立場で綴られているのかを判断できないのですが、礼儀正しい事は社会の一員たる証しだという意味でしょうね。

 私が子どもの頃 (昭和 30年代 [ 1960年代 ]) に 「英国紳士」 という語が使われていて 「上品さ」 の意味でしたが、今では もう聞かなくなったので、死語 (廃語) になったのかもしれないですね。私は 30才代まで 「英国紳士」 の生活を憧れていました──森が近くにあるような郊外の家に住んで、リビング・ルーム には暖炉があって、書斎には壁一面を覆う本棚の中に多くの書物を収められていて、地味だけれど高級な生地で仕立てられた服を着て、安楽椅子に身を任せて ゆったりと パイプ で煙草を吹かして書物を読む、という生活に憧れていました。しかし、私の現実生活は、ウサギ 箱と揶揄されるような アパート の中で手狭な書斎に閉じ籠もって パソコン の キーボード を叩いて 「世界中の情報が fingertip で入手できる」 と燥 (はしゃ) いでいる。

 現代のように テクノロジー が進んだ社会では、生活は忙 (せわ) しくなるようですね──我々が、テクノロジー の便益を獲たいと思うなら、我々の生活を テクノロジー のほうに合わせなければならない。生活を便利にするために我々は テクノロジー を作りだすのですが、テクノロジー は作られた機械なので、それを動作するには定められた使用手続きに我々は従わなければならない。その テクノロジー を生活の中で いかに応用するかは それぞれの人の工夫次第ですが、少なくとも使うためには誰もが同じ [ 画一的な ] 動作手続きに従わなければならない。そこには個性などはない。テクノロジー の恩恵を獲ようとすればするほど、それぞれの人の生活が同じように [ 均質に ] なるのは当然と言えば当然なのでしょうが、私は エンジニア を職にしていながらも、割り切れない気持ちを抱いています。

 そういう現代生活の中で、「英国紳士」 たらんと希 (ねが) う事は諧謔になるのかもしれないですね、あるいは、snob として厭味になるかもしれないですね。私は、今では もう 「英国紳士」 的生活に憧れを抱いていないのですが、そうかといって、現代の テクノロジー を賛美している訳でもない──寧ろ、私の 「文学青年」 的な気質が テクノロジー に対して反抗を覚える。それと同時に、「善良な社会人」 たることにも反感を覚える。テレビ 番組や ラジオ 番組のなかで、出演者たちが 「善良な社会人」 を演じているような臭味を感じたとたんに私は電源を落とす [ コンピュータ 的な言いかたですね (笑)]──「生理的」 な嫌悪感 [ 鳥肌が立つ現象 ] が走って我慢できない。偏屈さ (常識外れ) が私のほうにある事は重々承知していますが、「善良な社会人」 たる事を白々しいと感じてしまう。「文学青年」 的疾患でしょうね (苦笑)。だから、一番目の引用文が私の耳に痛い。

 
 (2012年 4月 1日)

 

  このウインドウを閉じる