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Man's destiny lies half within himself, half without. (Philip Wylie)

 

 Bloomsbury Thematic Dictionary of Quotations セクション destiny のなかで、以下の文が私を惹きました。

    What must be, must be.

    Proverb

 
    Drink! for you know not whence you came,
    nor why:
    Drink! for you know not why you go, nor
    where.

    Edward Fitzgerald (1809-83) British poet.
    The Rubaiyat of Omar Khayyam, LXXIV

 
 一番目の 「ことわざ」 の意味は、「納まる所に収まっている」 という事。
 マルクス・アウレリウス は、同じ意味を次のように綴っています。

    Everything that happens happens as it
    should, and if you observe carefully, you will
    find this to be so.

    Marcus Aurelius (121-180 AD) Roman emperor.
    Meditations, Bk. X, Ch. 5

 
 「そうなるものは、そうなる」──そうなる理由 (あるいは、原因) があるという意味にも読めますね。以前、本 ホームページ のどこかで綴った記憶があるのですが、「運命」 というのは、私には、「(その人の) 性質」 と同義の様に思われます。すなわち、「運命」 というのは偶然事じゃなくて、その人が そういう運命に出会う前に、自分でそれを作っている様に思われます──言い替えれば、その人の性質がそういう 「運命」 を作った、と。芥川龍之介は、次の文を綴っています (「侏儒の言葉」)。

    運命は偶然よりも必然である。「運命は性格の中にある」 と
    言う言葉は決して等閑に生れたものではない。

 今時、「運命」 などという前時代的な語を恥じらい無く口にする人は殆ど居ないでしょう。ちなみに、「運命」 を キーワード にして本 ホームページ を ググってみたら、名言集から引用した文の中で綴られている他には殆ど (「運命」 という語を) 私は使っていない。「運命」 という語には、自分を超えた力 (ちから) の存する事を否が応でも認めざるを得ないという語感があるので、私はそういう意味では運 (天運?) の作用する事を認めているのですが、「決定論」 を思わせる様な使いかたをされると私は反感を覚えます。ただし、私は、「決定論」 に対して 「自由 (意志・行為の自由)」 概念を対比するつもりも更々ない──というのは、非決定性と自由とは同じ範疇ではないので (「客観的な偶然」 も存する)。非決定性に思いを廻らして、「私は、いかなる理由で、どこから来て、どんな理由で どこに行くのか」 などと考えはじめると眠られなくなってしまう、だから Drink! 考えても埒の明かない事を考えるのが哲学じゃないでしょうw。日本では、1300年くらい前に、太宰の帥大伴の卿 (旅人) の酒を讃むる歌十三首の中で次の歌が詠まれています。

    験(しるし)なき 物を思(も)はずは
    一坏(ひとつき)の 濁れる酒を
    飲むべくあるらし

 私は、この歌が大好きです。ただ、大伴旅人は 「泣き上戸」 だったようですが。そういう相手といっしょに呑むのは御免蒙りたいw。

 「運命」 という語は、たいがい、不幸な境遇について使われる事が多い様ですね。しかし、そういう時の 「運命」 という語の使いかたは、まるで病人が病気を自慢しているのと同じで、私は嫌厭 (けんえん) を覚えます。「運命」 を作るのが自分であるならば、衆諸狎 (な) れ侮 (あなど) っても、自分を信じていればいいではないか。大伴旅人の歌を先に引用したので、「万葉集」 から もう一つ引用します── 十年戊寅、元興寺の僧の自ら嘆く歌一首 (1018番)

    白珠は 人に知れえず 知らずともよし
    知らずとも
    われし知れらば 知らずともよし

   (訳)
    ここに真珠があるのだが、人に知られていない。
    だが、人は知らなくってもいいさ。
    知らなくったって、、、。
    自分がその価値を知っておれば、人は知らなくってもいいさ。

 私くらいの程度の凡人でも、これくらいの面目は持っていたい──他人の眼前で、そういう事を口にさえしなければ自惚れにはならないでしょうw。「納める所に収めて」 おけばいい。「運命」 に噛みつかれても、その歯をへし折るだけの (矜持の) 硬さは持っていたい。

 
 (2012年 8月 1日)

 

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