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Ils ne passeront pas (They shall not pass). (Marshal Petain)

 

 Bloomsbury Thematic Dictionary of Quotations セクション determination のなかで、以下の文が私を惹きました。

    He who hesitate is lost.

    Proverb

 
 hesitate たる状態は hesitant で、hesitant の反対語は decisive な状態で、decisive な行為が decide です。decisive は、一旦決断したら問答無用という断固たる状態を暗示する語です。従って、decide は、決断までに至る検討・躊躇 (ためら) いを打ち切る行為です。decide は、action (外見上の行為)を重視する語です。たぶん、hesitate と decide との間の、決断に至る心的確信(様々な資料を判断した確証)が determine ではないかしら――私は英語の native speaker ではないので、この辺の ニュアンス を実感できないのですが、類語辞典(1) を読んだら、そういう語感である事を知りました。

 重大な決断を迫られた時に、微塵も hesitate しない様な人物はいないのではないかしら。hesitate の意味を英英辞典は次のように説明しています (COLLINS COBUILD English Dictionary)。

  If you hesitate, you pause slightly while you are doing or saying
  something, or just before you do or say it, usually because you are
  uncertain, embarrassed, or worried about it.

 したがって、hesitate そのものが臆病である事にはならないでしょうね、素朴な果敢さ (naive?) に較べたら、hesitate になるほうが正直だと思う。問われるのは、hesitant になった時の対応でしょうね。躊躇ったままで終われば、惑乱が生じた他に事態は変わらない。事態をそのままに放置するか、それとも、事態に対して対応するかを判断しなければならないのですが、事態を放置するという判断を下した状態と、躊躇ったまま事態を見過ごした状態では、外見上、相違はない様に見えるのですが、本人の心的状態は全然違うでしょう。しかし、それは本人にしかわからない。

 決断を下そうが、躊躇ったままでいようが、事態の成り行きが同じになっても、もし、なんらかの後悔を覚えるのであれば、「行動しないで後悔するよりも、行動して後悔したほうがいい」という箴言が生まれたのでしょう――行動する事に因って得られる情報は多い、と。まあなんとでも言えば言えるものですが、後悔は要するに後知恵でしょう。いずれの対応であれ、終わってしまった後悔に後戻りするのは不毛だと私は思っています。教訓が後々の先入観になる事だってあるのだから。私は、事態が ぎりぎり決着に至るまで眺めて待つほうです。無論、後悔する事が多いけれど、愚痴を言わない様にしています。アラン氏曰く(2)、「人間には自分は考えていると反省すると同時に充分に考えることはできないものだ。自己修練とか努力とかではなく、むしろ暫時の逃走、あるいはすべての物からの超脱、万事を抛棄して一事に専心する必要もここに生じるので、真の観察家は放心したように見えるといわれるゆえんである」と。そして、「真の思想家は、むしろ試練のうちに睡眠がくるようにあるいは喜悦と快活とが得られるようにと沈黙して祈念する」と、──これを果たして hesitant と云うか。

 
(1) 「英語類義語活用辞典」、最所 フミ 編著、研究社出版。

(2) 「精神と情熱とに関する八十一章」、アラン 著、小林秀雄訳、東京創元社。
   第六部 道徳、第八章 知恵。

 
 (2012年 8月 8日)

 

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