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To an honest man, it is an honor to have remembered his duty. (Plautus)

 

 Bloomsbury Thematic Dictionary of Quotations セクション duty のなかで、以下の文が私を惹きました。

    Do your duty and leave the rest to the Gods.

    Pierre Corneille (1606-84) French dramatist.
    Horace, U:8 U

 
    When a stupid man is doing something he is
    ashamed of, he always declares that it is his duty.

    George Bernard Show (1856-1950) Irish dramatist
    and critic.

 
 引用文の一番目は、日本語の ことわざ では、「人事を尽くして天命を待つ」 という事でしょうね。その逆の状態が引用文の二番目で述べられています。

 「人事を尽くして天命を待つ」 というふうに宣言できる仕事は、現代社会では、(スポーツ や芸術、そして科学の発見を除いて) 殆ど存しないのではないかしら──現代社会では、組織の中で (リーダー を除いて) 仕事 [ 果たすべき役割 ] の手続きが明文化されていて、それらを指示された様に履行したかどうかが問われる仕組みになっていて、指示された役割を たとえ高い品質で実現したとしても、勤務評定として 「達成度」 を測るくらいが関の山であって、そういう仕事に関して 「人事を尽くして天命を待つ」 と云うのは御愛敬でしょう。現代社会では、寧ろ、引用文の二番目が常態となっているのではないかしら──だから、引用文の二番目の中で a stupid man という語は、rank and file と置き換えてもいいかもしれない。そういえば、「Criminal Minds」 という テレビ 番組を観ていたら、FBI 潜入捜査班の一人が次の セリフ を言っていました── I'm just spendable pawn. (使い捨て、捨て駒) 「Criminal Minds」 の他の エピソード [ To hell...And Back (2) ] では、BAU チーム (主人公の profiling チーム) が任務を成功裡に終えた時に、やりきれない結末になった事を悔やんで Exactly right, but feel failed. と吐露していた場面があった(*)。do something he is ahamed of なんかじゃない、proud of と言える任務だったにもかかわらず、そういう虚無感を吐露していました。テレビ・ドラマ の セリフ にすぎないと言えばそうなのですが、それでもそういう セリフ は ドラマ を観ている人たちに実感として迫ってくるでしょう [ 少なくとも私にはそうでした ]。

 技術が分業化・専門化された制度は縦割りの官僚組織になるのは当然の現象でしょうが、人間の心理が知・情・意の統一物であるのならば、そういう組織の中で専門家として役割を果たしても充足感を覚えるのは現代社会では難しい状態でしょうね。或る一事に関しての天才が俗物であるという現象も普通に起こる。マネジメント のできる (あるいは、リーダ となる) エンジニア は滅多にない──だから、Manegement of Technology という学科が話題になるのでしょうが、マネジメント を製造できると思い込んでいるのが私には茶番に見える。有能な エンジニア が有能な リーダ になるとは限らないし、リーダ が具 (そな) えていなければならない資質を列挙する事など簡単ですが、リーダ が出現するというのは一つの事件でしょう。1980年代初頭の米国大統領選で、THE TIME 誌が cry for leadership という Cover Story を組んだ事を私は (朧気ながら) 記憶しています。

 私は エンジニア です──しかも、ユーザ 企業から傭われる エンジニア です。「人事を尽くして天命を待つ」 などという大言壮語はしない、プロフェッショナル としての技術を最高度に駆使する事しか考えていない。もし、果たすべき役割が はっきりしている時に、「人事を尽くして天命を待つ」 などと嘯 (うそぶ) いて自分の使命を糊塗する様な エンジニア がいれば、その時こそ私は引用文の二番目を其奴に向かって言ってやる──技術の拙さを言葉で繕うな、と。

 
(*) 連続誘拐殺人事件。その事件の実行犯は知的障害の巨体男性だったが、その事件を指示していた人物は四肢麻痺でベッドに寝たきりの元医師だった。元医師は実行犯の兄である。妹を誘拐された元陸軍軍曹は、BAU の捜査に協力する。BAU の捜査は、誘拐殺人事件の犠牲人数が八十数名に及んでいた事を明らかにしたが、元陸軍軍曹は殺された人たちの中に妹がいた事を知る。そして、元陸軍軍曹は、四肢麻痺でベッドに寝たきりでいた元医師を射殺した。

 
 (2013年 1月 1日)

 

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