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A living dog is better than a dead lion. (Bible, Ecclesiastes 9:4)

 

 Bloomsbury Thematic Dictionary of Quotations セクション Life の中で、次の文が私を惹きました。

    Life begins at forty.

    Proverb

 
    Life is the art of sufficient
    conclusions from insufficient premises.

    Samuel Butler (1835-1902) British writer.
    Notebook

 
    Life is a tragedy when seen in close-up, but
    a comedy in long-shot.

    Charlie Chaplin (Sir Charles Spencer C.; 1889-1977)
    British film actor.
    In The Guardian, Obituary, 28 Dec 1977

 
    The world is a comedy to those who think,
    a tragedy to those who feel.

    Horace Walpole (1717-97) British writer.
    Letter to Sir Horace Mann, 1769

 
 Life の セクションには多く (54篇) の引用文が記載されていました、それらの一つ一つが味わいのある名言だったのですが、それらすべてを本 エッセー に記載する訳にもいかないので、上記の 4篇を敢えて選びました、選ばなかった引用文も それぞれ 私の人生に照らしてみて私の思いを述べたい興趣ある文でした。

 さて、引用文の 1番目、「人生(生きていること)は 40歳にて始まる」。「諺」 として語り継がれてきたので──人々が見逃していることを天才がその才知を以てして改めて見定めたのではなくて──、多くの人々が体験してきて納得してきたのでしょうね。私 (今月で 68歳) の人生を振り返っても納得しました、私は 37歳で独立開業して 40歳になったときに 「独自の」T字形 ER法 (TM の前身) を作ることに取りかかった時期でした──尤も、「独自の」 モデル 技術というふうに当時は自惚れていたのですが、60歳になったときに はっきりと自覚したのは、先人の天才たちが遺してくれた技術のなかで基本技術を いくつか寄せ集めて体系化したにすぎないということでした (苦笑)。

 私が就職した年齢は比較的遅くて 26歳でした、正確に云えば、25歳で大学院修士課程 (博士前期課程) を終了して訳あって一年間 無職をしていて (無職とは云っても生活費を稼がなくてはならなかったので、塾講師をやっていましたが) いわゆる 「会社員」 となったのは 27歳のときでした、しかも私は大学の入試では一浪しているので、したがって大学を卒業した人たちに比べて、4年あとに就職した次第です。私が 31歳くらいになるまでの 5年間には転職を 6回ほどしています、転職したいずれの会社においても仕事 (および人間関係) が嫌で嫌で転職を くり返していました。当時の日本社会は、年功序列・終身雇用が常態であって転職は普通ではなかった、実際 私が大学院を出てから 一年間 無職をしたあとで就職するために 20社ほど応募したのですが、すべて不採用でした──当時は、ただでさえ文系大学院の修了生は企業では使いものにならないと云われていて (ただし、私が応募した 20社の多くは文系大学院生を受け入れてくれていたのですが)、私が 「新卒ではないのですが」 と言ったとたんに不採用にされました。20社も不採用になれば、ずぶとい私でも さすがに めげた──「社会の正規の レール から脱落したな」 と。現代は フリーランス・独立開業・転職が普通になっていますが、当時は私のような状態は ドロップアウト (落伍者) と見做されていました (苦笑)。そういう当時の社会にあって、私の人生が転機を迎えたのは、ビル・トッテン 氏と出会ったときでした──仕事を初めて面白いと思ったし、人間関係に煩わされることもなかった (その辺の事情は、前回の 「反 コンピュータ 的断章」 で述べているので、ここでは割愛します)。 したがって、私は、ビル・トッテン 氏と会う以前の 24歳から 31歳までの時期を 「黒歴史」(笑) として封印していて、今まで 一切 口外していない。

 私の 30歳代のときの仕事は ほんとうに面白かった──その時の私の仕事は、日本には先例のない アプリケーション・パッケージ (MRP U、RDB、UNIX を事務系で使用するための ソフトウェア、PC を事務系で使用するための ソフトウエア) を日本に導入普及する仕事でした。日本初の仕事をいくつもやって、様々な技術を学習して マーケット 動向をつくるという仕事をしてきました。その時に習得した技術が、それ以降の私の仕事の基礎を作った。そして、私は 37歳で独立して 40歳で 「独自の」 モデル 技術をつくる旅に出た。今振り返れば、30歳代は仕事の基礎技術を習得した時期でした──おそらく、多くの人たちにとっても、20歳代・30歳代というのは仕事の基礎技術を学ぶ時期でしょう、そして この時期に基礎技術を習得していなければ 40歳になって一人前の仕事をすることはできないでしょうね。そして、20歳代・30歳代の仕事を我流で (あるいは、場あたり的なやりかたで) 以てやりすごしてきたら、その後の 40歳代では いずれ 行き詰まるでしょう。30歳までの見習い仕事が基礎となって、40歳から 「仕事」 という名に値する力量をあらわすことが始まる、そして それに応じて生活が拡充していくのでしょうね。

 そして、仕事でも生活でも、未来のことなど──たとえば、3年先の状態など──誰にも断言することができないのだから [ who knows? ]、われわれは 「不十分な前提のうえで充分な結論を導いていかなければならない、それが生きるという技術なのである」(引用文の 2番目)。そういうふうにして、われわれは自らの実績を積み重ねていく。20歳代には才量あるふうを装っていても 「できる ヤツ」 という評判・噂が立つかもしれないけれど、30歳代・40歳代にもなれば実績のない ヤツ は もう相手にはされない──それが 「仕事」 の厳しい掟です。

 実世界は運動が連鎖した延長ある時空です。一つの事態は単独で [ 他の事態との関係を切り離されて ] 運動している訳ではない、自ら意志で以て為した言動が必ずしも自らの望む成果となる訳ではないでしょう、なぜなら 一つの運動 (あるいは、関係) の成立には様々な因子 (環境条件 [ 周囲の状況 ]と構成条件 [ 相手の反応 ] ) が関与しているから。だから、自らが信じることを貫徹したとしても、その評価は──他人が下す評価は──酷評になることもある。正しい情報であっても、環境がそれを否定し、その環境に属する人たちには信用してもらえないという事態も起こる──実際、私が RDB を日本に導入普及する仕事をしたとき、世間 (勿論、コンピュータ 界隈のこと) が下した評価は 「こんな子どもの オモチャ は多量 データ・多量 ドランザクション には向かない」 という非難だった、そして 「RDB は世界最高速」 と言明する私 (当時、35歳くらい) に対する評判は 「あの若造がえらそうに なにを言っていやがる」 という言いがかりだった。「一つの事態や自らの一つの振る舞いが悲劇として思われるときもあるけれど、多くの運動が連なった一連の流れのなかで観れば、その事態・振る舞いは滑稽にさえ見える」 (引用文の 3番目)。RDB は世界中に普及した、今になって私は世間に対して どうこう言うつもりなどないし、当時の自らの主張を自慢するつもりなど 毛頭 ない、ただ今の私から観れば当時の私の (世間に対する) 挑発的な態度および世間の RDB に対する迷妄は滑稽にしか見えない (苦笑)。

 最近読んだジョーク 集のなかで私の気に入った ジョーク の一つ──「人間が猿から進化したという (ダーウィン の) 進化論は正しいと私は思うようになった、人間を観ていたら そう確信するようになった」。大衆が醸す群衆心理・集団行動──すなわち、周囲の人たちに暗示されやすく衝動的な言動をとる傾向──を指して大衆は衆愚であると嘲笑うのは喜劇でしょうが、大衆を そういうふうに笑っている私は その大衆のなかの一人であるというのは悲劇なのでしょうね、それとも大衆のなかに私は属していないと言うのであれば喜劇でしょう (笑)。「思索家にとって世間は喜劇であって、もの思う [ 感受性の豊かな ] 人にとって世間は悲劇と うつる」 のでしょうね (引用文の 4番目)──それら両方の性質 (思想 [ 散文精神 ] と詩魂 [ 詩的情趣 ] ) を最もよく表している作家 (小説家) は、私が今まで読んできた作家のなかで、芥川龍之介 氏です。非合理的な・情念の渦巻く世の中は、芥川龍之介 氏の見えすぎる眼にとって思考と感情の均衡を喪った阿鼻叫喚の巷と化したのかもしれない。彼は、「危険思想」 について次の文を遺しています (「侏儒の言葉」)──

    危険思想とは常識を実行に移そうとする思想である。

 
 (2021年 6月 1日)

 

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