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Like a cushion, he always bore the impress of last man who sat on him.
(David Lloyd George)

 

 Bloomsbury Thematic Dictionary of Quotations セクション Impressionability の中で、次の文が私を惹きました。

    She had
    A heart -- how shall I say? -- too soon made glad.
    Too easily impressed.

    Robert Browning (1812-89) British poet.
    My Last Duchess

 
 Impressionability は impression と ability の合成語、形容詞は impressionable。Impressionable の語義は easily infulenced──「影響を受けやすい」 ということかな、文脈のなかでは 「感じやすい」 とか 「直ぐに感動しやすい」 というような意味にもなるでしょう (上記の引用文のなかでは too easily impressed は いわゆる 「感動屋さん」 ということかな)。

 私は特段 「感受性が強い」 とは思わないし、年齢を重ねるにつれて感受性は段々鈍くなってきていることを感じています。それでも、20歳代の頃には、「文学青年」 に特有な感受性を持っていたと思います──たとえば、季節が夏から秋に移る時節に (特に ゆうがた には) 熱気を帯びた空気のなかに やや冷気を孕んだ 微風 (そよ風) を感じとると、身体の内から込みあげる 言い知れぬ衝動を抑えられなくなって悲しくなって しゃがみ込んで泣きたくなったし、冬から春に移る時節には柔らかな陽を浴びて次第に温かくなる空気のなかに冬の名残を感じさせる冷たい風が頬を撫でると言い知れぬ悲哀を感じた。やや肌寒い梅雨 (つゆ) 時、一日中降りしきる地雨のなか軒先から流れ垂れる雨水を、リビング・ルーム で腹ばいになって眺めて、童謡 「雨」 (北原白秋 作詞、弘田龍太郎 作曲) を口ずさみながら温かい気怠さを味わうことが嬉しかった。しかし、それもこれも若い頃のことであって、66歳の今では当時ほど impressionable ではない。ただ、今でも内に秘めた憤怒は当時と変わらないほど強い。

 「感動屋さん」(直ぐに感動しやすい) という性質は若い頃から ほとんど変わっていない──寧ろ、年老いて いっそう それが顕著になってきたように思う。年老いたら涙腺がゆるくなると云われていますが、我が身を振るかえって確かにそうだと思う──65歳くらいから涙もろくなった。年老いたら涙腺がゆるむという現象を生理学的に (脳の構造上) 説明している動画を Youtube で観たことがあるのですが、それをここで引用するのが面倒くさいから省くので、興味のある人は検索して観てください。友人たちの云うには私は興味のないことに対して (たとえ多くの人たちが熱狂しても) 冷淡なほど反応を示さないそうです。いっぽう興味を抱いたことに対しては私は前後の見境なく集中するそうです──他の人たちは私のことを そういうふうに見ているようですが、私自身は普通に振る舞っているつもりです (苦笑)。

 今ふと思い出したのですが、私が 20歳代後半のとき上司といっしょに ピアノ・ラウンジ (バー) に呑みに行って、ピアノ 演奏を聴いて──ピアニスト は私の リクエスト に応えて映画の主題曲 「To Love Again」(原曲は ショパン の夜想曲2番) を弾いた──私は とても感動したことを上司に伝えたのですが、上司は私に次のように言いました──「あの程度の演奏は、ピアニスト なら普通のことだ。君 (きみ) は感動屋さんだなあ」 と。私は ピアニスト の名前を忘れたけれど、今でも 彼の演奏を思い出す、とても思い (情熱) のこもった演奏でした。この曲を私の リクエスト に応じて彼は弾いたのだけれど、この曲は たぶん 彼にとっても思い出の曲だったのかもしれない、そうでなければ あれほど思いのこもった演奏ができないでしょう──演奏に託された思いは、その ピアニスト が経験した情熱の伝達だったと私は思う。

 私は私の気持ちに正直でいたい。たとえ場末の バー で ピアノ を弾いている名も無い ピアニスト であっても、(世間で名声を獲ているか いないかなどの先入観に囚われないで) すばらしい演奏は すばらしいと称賛したい。世間ずれしない [ 相手を侮ってから批評することのないように ] 初心 (うぶ) でいたい。

 
 (2019年 9月15日)

 


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