anti-daily-life-20180201
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the whole body grows and builds itself up through love. (Ephesians 4-16)

 



 小林秀雄氏は、「戦争について」 の中で次の文を綴っています。

     歴史は将来を大まかに予知する事を教える。だがそれと
    同時に予見というものがいかに危険なものであるかも教える。
    歴史から、将来に腰を据えて逆に現在を見下す様な態度を
    学ぶものは、歴史の最大の教訓を知らぬ者だ。歴史の最大
    の教訓は、将来に関する予見を盲信せず、現在だけに精力
    的な愛着を持った人だけがまさしく歴史を創って来たという
    事を学ぶ処にあるのだ。過去の時代の歴史的限界性という
    ものを認めるのはよい。併 (しか) しその歴史的限界性
    にも拘わらず、その時代の人々が、いかにその時代のたった
    今を生き抜いたかに対する尊敬の念を忘れては駄目である。
    この尊敬の念のない処には歴史の形骸があるばかりだ。

 私は、歴史書を読むのが好きです。最近は、数学書を読むことが多くて、歴史書を読んでいないけれど、歴史書を読むのが好きです。もっと正確に言えば、歴史書というよりも民俗学の書物を読むほうが好きです。素直に言えば、日本史の書物を読んでいても、生々しさを感じないので、上の空になってしまう。学生の頃には日本史が好きだったのですが、40才を越えた頃から民俗学のほうが私を魅了する。

 歴史観というものを抜きにしても、歴史学を専門にしていない我々一般の世人は日本史通論の書物を数冊読んで、いったい何がわかるというだろうか。日本史通論の書物を読んで知識を得ることを私は無意味だとは言わないけれど──確かに、その学習を通して、どんな出来事・人物に興味を抱いて、そして、今後 その出来事・人物を詳細に調べればいいかの指針にはなるけれど──、それを 「教養」 というふうに云われると私は反感を覚える。

 民俗学の書物を読むようになった理由は、私の幼少の頃の社会を知りたかったからです。だから、私は昭和 20年頃からの昭和史の書物を読むのが好きなのです。江戸時代も好きです。拙著 「論理 データベース 論考」 を脱稿した頃 (2000年 出版)、私は江戸時代の書物を盛んに読んでいました。江戸史・昭和史の文献が多いので [ 原資料 [ 史料 ] およびそれらの注釈書が多いし、昭和史では映像も多数のこされているので ]、江戸時代・昭和時代を或る程度生々しく想像することができる。時代の制度・風俗のなかに自分を置いてみる、あたかも自分がその時代にいるように想像してみる。随分と我が儘な歴史書の読みかたですが、歴史学を専門にしていない我々一般人は、時代考証のなかで、そういう自由な読書ができる (というか、そういう読書が歴史学者から観て恣意的であると非難されようが、我々 シロート はそういう読書しかできないでしょう)。

 通論の書物を複数冊読んで、歴史上の或る出来事・人物に興味を抱いたら、その出来事・人物に関する文献を──できれば、原資料 [ 史料 ] を──集めて読めばいい。史料を読み始めの頃は、その出来事・人物に関する見識を形成していくのですが、或る程度 読書が進めば次第にその出来事・人物に関する周辺のことも芋づる式に知りたくなって読書範囲を拡大していくことになるでしょう。そういう読書をしていれば、過去の出来事・人物を現代から観て見下すような高慢な態度に陥ることもないし、「その時代の人々が、いかにその時代のたった今を生き抜いたか」 を知ることになるでしょう。歴史学者がどういう専門的な読書法をしているかを私は知らないけれど、我々一般の世人が歴史を学ぶときの読書法というのは、そういうやりかたになるのではないかしら。そういう読書法であれば、少なくとも、過去を現代から観て見下すことはしないし、通論の書物を数冊読んで歴史をわかったつもりになることもないでしょう。

 歴史上の出来事・人物を素材にして物語りにしたのが歴史小説でしょうね。私は、歴史小説を読まないほうですが、それでも いくつかの歴史小説を好きです──亀井勝一郎氏の 「聖徳太子」 「親鸞」、司馬遼太郎氏の 「竜馬がゆく」 「坂の上の雲」。亀井氏のものは小説ではないのですが (伝記に近い)、亀井氏も司馬氏も歴史上の人物に対する 「尊敬の念」 を抱いているのが彼らの作品から読み取れます。そういう書物を読むと、過去のすぐれた人たちが眼の前にいるように感じる。デカルト 曰く──

    すべての良き書物を読むことは、過去のもっともすぐれた
    人びとと会話をかわすようなものである。(「方法序説」)

 
 (2018年 2月 1日)


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