anti-daily-life-20191215
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..., for my power is greatest when you are weak. (2 Corinthians 12-9)

 



 小林秀雄氏は、「文学と自分」 の中で次の文を綴っています。

     成る程、己れの世界は狭いものだ、貧しく弱く不完全な
    ものであるが、その不完全なものからひと筋に工夫を凝ら
    すというのが、ものを本当に考える道なのである、生活に
    即して物を考える唯一つの道なのであります。

 「工夫」 というのは、実際に出来事・行為に関与していなければ思いつかないでしょう。そして、実際に出来事・行為に関与していても、「工夫」 を思いつくとは限らない、逆必ずしも真ならず。工夫するということは、現状を良しとしない不満足か、あるいは現状をヨリ良い状態にしたいという意欲がなければ生じないでしょう──つまり、関わっている物事について その構成条件・環境条件を考えて真摯に向きあっているという状態です、興味を抱いているか あるいは注意を払っていなければ 毛頭 起こり得ない。

 ネット では ライフハック (LifeHack) という ことば が普及しました。ライフハック は、当初 (2005年頃) コンピュータ・ネットワーク 界隈において仕事を効率よく行うための技術・ノウハウ を云いましたが、今では ライフ を人生・生活という広い範囲で考えて、仕事や生活を快適にする豆知識という意味で使われているようです。WWW や SNS では、ライフハック の動画も多く アップロード されていますね、私も 時々 そういう動画を閲覧して、動画のなかで説明されている技術の いくつかを使わせてもらっています。

 ライフハック は 本来 仕事・生活を効率よく行うための豆知識だったのですが、ネット に アップロード されている動画のなかには、ハック (hack = a rough cut or blow) と言いながら七面倒くさい技術を要するものも 多々 あります──そういう煩わしさを私が感じるのは、たぶん、私が その技術を習得したいと思っていない (あるいは、その技術が私の仕事・生活に関係がない) からなのでしょうね。つまり、その ハック は私の仕事の延長線上には入って来ない。そして、私が習得した ハック も豆知識であって、私の仕事・生活の質 (QOL = Quality Of Life) を変えるほどの技術ではない──所詮、借り物の ガジェット (gadget) です (ただし、私は そういう ハック を貶しているのではないし、便利だと認めています)。パソコン の ガジェット を使っていて、それらの ガジェット は便利ではあるが仕事の品質を左右する代物ではないということと同様でしょう。

 仕事の質というのは、その構成条件・環境条件を前提にして、それらの条件が変化するにつれて 「不易流行」 を見極めて対応してゆくことで判断されるのではないか。我々が営んでいる社会は様々な運動の連鎖であるので、物事の構成条件・環境条件が不変に完全 (perfect、complete) であることなど有り得ない。だから、小林秀雄氏の言うように、「その不完全なものからひと筋に工夫を凝らすというのが、ものを本当に考える道なのである」。

 
 (2019年12月15日)


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