anti-daily-life-20201115
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Whoever refuses to work is not allowed to eat. (2 Thessalonians 3-10)

 



 小林秀雄氏は、「モオツァルト」 の中で次の文を綴っています。

     天才とは努力し得る才だ、というゲエテの有名な言葉は、
    殆ど理解されていない。努力は凡才でもするからである。
    然し、努力を要せず成功する場合には努力はしまい。彼には
    いつもそうであって欲しいのである。天才は寧ろ努力を発明
    する。凡才が容易と見る処に、何故、天才は難問を見るという
    事が屡々起こるのか。詮ずるところ、強い精神は、容易な事
    を嫌うからだという事になろう。

 ゲーテ 氏は次のようにも言っています──「世の中のものはなんでも我慢できる。しかし、幸福な日の連続だけは我慢できない」。彼のような天才は、(小林秀雄氏の引用文を そのまま借りれば)「寧ろ努力を発明する。凡才が容易と見る処に、何故、天才は難問を見るという事が屡々起こるのか。詮ずるところ、強い精神は、容易な事を嫌うからだという事になろう」 ということでしょうね。こういう 「強い精神」 は、彼がたずさわっている事を延々と続け通すことができるとき、そして その時にかぎって、成功を収めるのでしょうね。そういう天才は、我々凡人といっしょにいても [ たとえば、いっしょに仕事しても ]、我々が並みの努力しかできないので──平凡なことのなかに難問を見るということができないので──、我々凡人と較べたら どうしても距離ができてしまう。だから、天才は孤高にならざるを得ない [ 我々の群れにとどまることができない ]。しかも、我々凡人が天才を真似て、群れから離れて独りで努力を続けたとしても、その努力が途上で (怠けるなどして) 続かなくなった成れの果ては、天才気取りの半可通な・惨めな状態に陥るでしょうね。私は、わが身を振り返って、まさに そういう状態にあると認めています (痛恨)。

 「持続は力なり」──言うは易し、行うは難し。私は自らの持続力を養うために英英辞典 (「新英英辞典」、研究社辞書編集部編)を通読してきました。ただし、読む英単語は、学習基本語彙の約 5,000語に限っています──現時点で、1,322ページ 中、1,260ページ まで読み通しました。残りの ページ は僅かなので、今月中には確実に読破できるでしょう。読み通した ページ 数は、1日や数日で読める量ではない。一回の読書で 10ページ ずつ読んでいるので、126日を費やしています──まいにち読んでいる訳ではなくて 2日か 3日に一回は読むようにしています、地道に続けてきました。挫折しないで続けてきたことを我ながら感心しています。中共 コロナ (COVID-19) の pandemic が原因で いわゆる stay home しなければならなかったので、学習時間を多く確保できたのが英英辞典を読むために不幸中の幸いで助かりました。私は年金生活者です、私の年金は少ないので生活費のほかに旅行などの余暇に費やす金銭の余裕がないのですが、読書であれば無料で愉しめる。

 私は 67歳です。67歳ともなれば、知力・体力は若い頃に較べて目立って落ちてきています。若気の至りで組織 (会社) を 37歳のときに飛び出して、組織 (研究機関) に属さないで、(事業分析・データ 設計のための) モデル 論を独力で探求してきました。その成れの果てが 「引きこもりの下流老人」 です。ひとつの事 (モデル 技術を作ること) を 30年間続けてきて、その途上では、工夫を いくつも施してきました。貧乏な私ですが、幸いにも、そういう工夫には一銭も入り用ではなかった──思考力さえあればいい。ゲーテ 氏ほどの天才ではない私のような凡人でも、ひとつのことに専念して、それを改良するうえで難問を見つけて数々の工夫を施していくことの愉しみを実感してきました。天才たちは、私の数倍の [ 否、数十倍、数百倍の ] 苦しみと それと同等の愉しみを味わってきたのだと想像すると、私は彼らを うらやましく思う。

 
 (2020年11月15日)


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