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本書の狙い

● 以下の文は、本書の「はしがき」から転載しました。

 
本書は、T字形 ER手法を、「構文論と意味論」の観点から再検討して、再体系化した書物である。本書では、T字形 ER手法を、TM(構文論的体系)および TM’(意味論的体系)という 2つの体系に区分した。T字形 ER法に関して、かって、以下の2冊を上梓してきた。

 (1) 「T字形ER データベース設計技法」
 (2) 「論理 データベース 論考」

いずれも、ソフト・リサーチ・センター 社から出版させていただいた。今回、本書を上梓した理由は、上述した2冊のなかで犯した (いくつかの) 間違いを訂正して、かつ、それらの書物なかで検討されていなかった諸点を探究するためであった。T字形ER手法は、当初、システム 作りの短納期化・高品質化・低投資化に対応するために、データ 構造を作りながら同時に事業を解析して プログラム の アルゴリズム を削減することを目的として作られた。すなわち、1つの手法を使って、データ 設計・事業解析・プログラム の生産性向上を同時に実現することを目的として作られた。具体的に言えば、百万 ステップ 規模の アプリケーション・システム であれば、10数名の プロジェクト 人数で、6ヶ月以内に、システム を導入することを目的として作られた。幸いにも、数々の実績を示すことができたことを誇りに思う。

そして、そのやりかた(T字形ER手法)をまとまった形として最初に公表したのが「T字形ER データベース設計技法」(1998年刊) であった。「T字形ER データベース設計技法」 は、実用書として、幸いにも、多くの人たちに歓迎されて、「黒本」という愛称をいただいた (表紙が黒色だったので、そう愛称されたそうです)。ただ、筆者自身は、「黒本」のなかで、T字形ER手法の前提として「写像理論」を使ったことに対して悩んでいた(写像理論を使ったことを、間違いである、と自覚していた)。

T字形ER手法の最大特徴は、「resource および event」という意味論的概念を前提にして、「4つの文法」を使って、(「情報」に対して)「構造」を与えることができる、という単純性にある。当初、「情報」(言語を使って記述された複文)が、いかにして、「意味」を構成するのかという点を単純に「写像」(事実と情報との対応関係)として考えていた。すなわち、「真理条件」(「真」概念が成立する条件)と「正当化条件」(モデル が成立する条件)を混同していたのである。

「黒本」が前提としていた「写像理論」を否定して、「同意・合意・規則」をT字形ER手法の前提にするために「論理 データベース 論考」(2000年刊)を上梓した次第である。「黒本」とは対照的に「論考」のほうは人気がなかった。「論考」は以下の諸点を検討した書物である。

(1)「情報」は、1つの複文として記述される。
(2)1つの複文は、いくつかの単文(entity)として構成されている。
(3)単文が、(情報を伝達している人たちのあいだで、)「合意」 して認知されるための規準 (正当化条件) は、なにか。

「論考」を綴った最大の理由は、「あとがき」のなかで綴った。そして、筆者の考えは、「あとがき」のなかでも、「迷い」 のまま綴られている。「はしがき」を綴っていながら──「はしがき」は、本文を脱稿してから、最後に綴ったのだが──、さらに、「あとがき」を綴らざるを得なかった。「論考」の「あとがき」のなかで、筆者は以下の諸点を(みずからに問うように、)確認している。

(1)「関係」を(事業過程の データ を対象にしたら、)数学的な「直積」として非対称性のみを強調することには無理があるのではないか。

(2)「性質」を起点にして外延(集合)を考えることは、ほんとうに、「認知」として妥当なのか。個体指示が起点となって「性質」を考えるのが「ふつう」ではないか。

(3)概念の階-構成を考えることは当然ながら正しい。ただ、集合的性質と周延的性質を考えるなら、データベース では、実 データ に対して有限回の演算として周延的性質を重視したい。

以上の3点は、TM の前提を確認している。すなわち、(1)は「関係の対称性・非対称性」(「resource と event」概念)を確認して、(2)は認知番号 の考えかたを確認して、(3)は第一階の述語──正確に言うなら、「S-P(主語-述語)」形式を基本形にすること──を確認している。

それらを確認するためには、どうしても、数学基礎論の考えかた(および、基本技術)を網羅的に調べなければならなかった。そのために、「論考」は書物の半数を数学基礎論の基本技術を棚卸しするために費やされた。それが人気のない理由になったようである。しかも、書物の半数を費やして記述した数学基礎論の技術をT字形ER手法のなかで記述しなかった。当然ながら、数学基礎論の技術を使って「論考」のすべてを記述することは、もし、或る前提に立っていればできた。ただ、そうすれば、「データ の認知」では、「写像」 [ f : X ⇒ Y. ] を前提にしなければならない。そして、(T字形ER手法の考えかたを理解している人は、すでに、ご理解いただけたと思うが、)この考えかた(写像)こそ、T字形ER手法が「論考」のなかで問題視した点なのである。したがって、「論考」の「理論編」に綴られている数学的手法を使って「論考」の「基準編(T字形ER手法)」を証明するつもりは、そもそも、目的ではなかった。そして、最初に綴った「理論編」の数学的技術を使って、それに続く「基準編(T字形ER手法)」を証明しなかったからといって、「理論編」を衒学趣味として綴った訳でもない。「論考」は「黒本」の考えかた(写像)を否定するために出版した。

「論考」の論旨を一言でいえば、「認知番号、しかも同意された認知番号」を使って個体を認知する正当化条件を検討することであった。筆者が「同意・合意」とか「規則に従う」ということをさかんに言いはじめたのは、「論考」を出版したあとになってからである。ただ、「論考」では、サブセット に関して大きな間違いを犯している。すなわち、概念の階-構成のなかで交叉を認めていた(「黒本」では、それを認めていない)。

「ことばの意味」が「合意・同意・規則(事業過程に関与している人たちが同じ「反応と適用」を示せば「ことばの意味」が成立しているという考え方)」を前提にしていれば、記号と単語のあいだに指示関係(真理条件)を適用することに対して筆者は躊躇いはない。そのために、「論考」を出版したあとで、再度、T字形ER手法を「構文論と意味論」の観点に立って整える作業を進めてきた。

T字形ER手法を公表したとき、世間では、「対照表」が大きな論議(反論)を起こした。曰く、「対照表」は「非正規形」である、と。コッド 関係 モデル の正規形は原子的値の定義域である。したがって、コッド 関係 モデル の観点からすれば、TM の対照表は「非正規形」となる。しかし、いっぽうで、コッド 関係 モデル は「集合を組とする オブジェクト」を記述することができない。たとえば、「再帰 (自己言及)」──数学的には、「R : X → X」の関係──を考えてみればよい。(部品番号(R)、部品番号(R)、数量)という再帰は、属性値を記述するにしても、(部品番号(R)、部品番号(R))の複合定義域を正規形として認める訳にはいかない。これは、あきらかに、「部品構成表」を 「モノ」(F-真)として考えて、2項関係(親子関係)として記述した構成である。すなわち、「集合を組とする オブジェクト」を考えている。

T字形ER手法は、当初(10数年前)、コッド 正規形に対して「異議申し立て」として作られた。T字形ER手法のいう entity は、単純定義域であるが、それを使って構成される「構造」は、たとえば、対照表にしても、対応表にしても、再帰表にしても、「集合を組とする オブジェクト」として導入された技法である。ただし、それらは、TM では、事実的な「F-真」概念を使って妥当性を験証される。

本書では、T字形ER手法を構文論的な TM と意味論的な TM’として説明しているが、(「同意・合意・規則」概念を前提にして、)以下のような概念が基底となっている。

 (1) 個体指示子(個体を認知するために使う認知番号)
 (2) 「F-真」と「L-真」(事実と導出)
 (3) 関係主義と実体主義(共通の性質を使って作られた集合と、認知された個体)
 (4) モデル(語彙と文法)
 (5) 集合的と周延的(集合としての性質と、個体としての性質)
 (6) 集合 オブジェクト と組 オブジェクト(関係の対称性・非対称性)

本書は、以下の構成となっている。

 (1) 理論編(TM および TM’の根底にある概念をまとめてある。)
 (2) 技術編(TM および TM’のなかで使う技術をまとめてある。)
 (3) 実践編(RDB を使って、TM’を実装して、高 パフォーマンス を実現する。)
 (4) 応用編(TM および TM’に関して、FAQ をまとめてある。)

理論編が むずかしいようであれば、当初、読み飛ばしてもよい。ただし、技術編・実践編・応用編を読み終えたら、かならず、理論編を読んでいただきたい。

T字形ER手法の「新生」として、TM(および TM’)の名称を付して、本書を上梓したい。

最後になったが、本書の出版を快く承諾してくださった株式会社 ソフト・リサーチ・センター の木村雄二郎さんに心から感謝いたします。そして、原稿を校正・編集していただいた岡田晴治さんに心から感謝いたします。
そして、家族の辛抱と支援に感謝したい。

                                                 2005年 8月
                                                 佐藤正美



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