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2006年 9月 1日 補遺  

 

 1. 損益の概念

 損益は、以下の 2つに類別される。

 (1) 収益
 (2) 費用

[ 注意 ]
 損益(収益と費用)に対応する用語として「利益あるいは損失」がある。
 収益と利益は、通常、区別される。利益(あるいは損失)は、収益から費用を減算した導出項目である。
 [ 利益 (あるいは損失)= 収益 − 費用 ]

 損益は、資本取引以外の取引のなかで認識される資本の増減である。

 
2.損益の分類

 損益は、以下の 3つに類別される。

 (1)営業損益
   (1)-1 売上高
   (1)-2 売上原価
   (1)-3 販売費および一般管理費
 (2)営業外損益
   (2)-1 営業外収益(受取利息、有価証券売却益など)
   (2)-2 営業外費用(支払利息、有価証券売却損、有価証券評価損など)
 (3)特別損益
   (3)-1 前期損益修正
   (3)-2 臨時損益(固定資産売却損益など)

 損益に対応して、利益も以下の 3つに類別される。

 (1)営業利益 (営業損益計算の計算結果である)
 (2)経常利益 (営業外損益計算の計算結果である)
 (3)税引前当期純利益 (経常利益に特別損益を加味して計算される)

 ちなみに、売上高から売上原価を控除した純売上利益は 「粗利 (あらり)」 と呼ばれる。

 
3.費用収益対応の原則

 損益会計では、以下の 2点が主な論点になる。

 (1)損益の期間帰属性 (損益を、いつ、計上するか)
 (2)損益の対応性 (収益 [ 成果 ] と費用 [ 努力 ] を対応する)

 損益の期間帰属性を判断する基準としては、以下の 3つがある。

 (1) 現金主義
 (2) 発生主義
 (3) 実現主義

 現金主義とは、現金の収支を事実として損益を計上する考えかたをいう。
 現金主義には、以下の特徴がある。

 (1) 未実現収益が混入する余地がないので、安全性が強い。
 (2) 信用取引では、取引の事実と現金収支の事実がズレるので、期間帰属性の合理性は弱い。

 発生主義とは、損益の当期性が合理的に認識できるなら計上する考えかたである。
 したがって、(現金主義に比べて、対象の認識範囲が拡大され) 債権・債務や引当金も計上対象となる。
 発生主義には、以下の特徴がある。

 (1) 期間帰属性の合理性が強い。
 (2) 収益は未実現利益となる危険性がある。

 (いままでの制度会計の目的である) 「分配可能利益の計算」 という観点からすれば、発生主義は安全性が弱い。

 実現主義とは、「取引の実現」 を事実として損益を計上する考えかたである。
 「取引の実現」 の原則 (判断基準) は、通常、「引渡基準」 をいう。
 実現主義には、以下の特徴がある。

 (1) 検証可能性が強い。
 (2) 「分配可能利益の計算」という観点からすれば、安全性が強い (未実現利益が計上されない)。

 いままでの制度会計では、損益の計上には以下の基準が適用されている。

 (1) 収益は実現主義を使って計上される。
 (2) 費用は発生主義を使って計上される。

 ただし、家賃や利息は、契約として成立しているので、発生主義を適用して、期末には、未収収益を計上しなければならない。

 損益の対応性とは、「収益 − 費用 = 利益」 の等式が示すように、経営成果を収益として認識し、経営努力を費用として認識して、収益と費用を期間的に対応して利益を計算することをいう。これを 「費用収益対応の原則」 という。費用収益対応のやりかたには、以下の 2つがある。

 (1) プロダクト 対応 (プロダクト を単位として、費用と収益を対応する)
 (2) ピリオド 対応 (期間を単位として、費用と収益を対応する)

 継続企業 (going concern) を前提とする企業会計では、ピリオド 対応が使われる。

4.売上高の計上

 通常の販売では、収益は以下の 2つの基準のいずれかを使って計上される。

 (1) 引渡基準
 (2) 出荷基準

 特殊な販売形態では、以下のような基準が使われている。

 (1) 委託販売では、引渡基準 (販売日基準) または仕切精算書到着日基準が使われる。
 (2) 試用販売では、買取意思表示基準が使われる。
 (3) 予約販売では、引渡基準が使われる。
 (4) 割賦販売では、引渡基準または履行日基準または回収基準が使われる。
 (5) 長期請負工事では、工事進行基準または工事完成基準が使われる。

[ 注意 ]
 IAS では、長期請負工事の認識には工事進行基準を使うことが原則となっている [ IAS 11号 ]。日本の税法でも、50億円以上の大型契約に関しては、進行基準を使うことになった。進行基準の論点は、「赤字の計上(早期計上)」 という点にある。IAS では、損失が認識されたら、将来の損失も全額計上しなければならない、とされている。たとえば、第 2期に赤字になって、第 3期も赤字になるようなら、それらの全部を見積もって、当期に計上しなければならない。日本の基準では、「損失の早期計上」に関する規定はない。

 次回は、キャッシュフロー 会計について説明する。□

 



[ 補遺 ] (2006年 9月 1日)

 ストック・オプション が 「費用計上」 になったことは、前回 (「資本会計」) 述べた。

 「会社法」 では、「利益の分配」 という概念が消えて、「剰余金の分配」 という概念が導入された (前回の 「資本会計」 を参照されたい)。そして、「配当」 も、(旧商法では、年に 2回という制限が賦されていたが、) 「会社法」 では、臨時計算書類を作成すれば、いつでも、配当できる。「会社法」 では、資本を減少すれば剰余金として計上することになるが、剰余金を分配できるので、企業会計上の 「資本と利益の区分」に反して、いわゆる 「蛸 (たこ) 配当」 に陥る危険性があるので、「会社法」 は、「剰余金の分配」 に関して、制限を設けている。その制限の 1つは、企業会計上の計算後に、企業会計の 「利益」 を超えて配当してはならないという点であり、ほかにも、剰余金が 300万円以下であれば、配当してはいけないという制限を設けている。ちなみに、300万円というのは、かつての有限会社の最低資本金である。剰余金の分配は、単純に言い切ってしまえば、剰余金のうち、300万円を超える部分で、かつ、企業会計上の利益を超えない部分が配当対象とされる。
 「会社法」 が公布されて、四半期配当を実施する企業が出てきたことは、経済新聞に報道されていた。

 損益計算上、利益がでていても、利益に相当する キャッシュ (現金および現金同等物) が、かならずしも、保有されている訳ではないので、多くの企業は、従来から、(計算書類・財務諸表のほかに、) 「資金繰り表」 を作成して、キャッシュ の出入れ・残高 (flow・stock) を管理している。
 現代の企業会計では、「企業実体」 が法的実体 (個別財務諸表) から経済的実体 (連結財務諸表) へと比重を移して (平成 9年)、企業会計の報告は、「連結」 が主体となっている。そのために、「連結」 ベース で、キャッシュフロー 計算書が財務諸表の 1つとして導入された (平成 10年)--ただし、「会社法」上、キャッシュフロー 計算書は計算書類とされていない。




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