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One may be confuted and yet not be convinced. (Thomas Fuller)

 

 Bloomsbury Thematic Dictionary of Quotations の セクション arguments のなかで、以下の文が私を惹きました。

    It takes to make a quarrel.

    Proverb

 
    It takes in reality only one to make a quarrel.
    It is useless for the sheep to pass resolutions
    in favour of vegetariaism while the wolf
    remains of a different opinion.

    Dean Inge (1860-1954) British churchman.
    Outspoken Essays

 
    The most savage controversies are those
    about matters as to which there is no good
    evidence either way.

    Bertrand Russell (1872-1970) British philosopher.
    Unpopular Essays

 
    I did not know that we had ever quarrelled.

    Henry David Thoreau (1817-62) US writer.
    On being urged to make his peace with God
    Attrib.

 
 最初の引用文は、argument に限らないで一般的な言いかたをすれば、It takes two to tango. と言えるでしょうね。小林秀雄氏の言を借りれば、「人は愛も幸福も、いや嫌悪すら不幸すら自分独りで所有することは出来ない。みんな相手と半分ずつ分け合う食べ物だ。その限り俺たちはこれらのものをどれも判然とは知っていない。俺の努めるのは、ありのままな自分を告白するという一事である」 (「X への手紙」)。サッチャー 元首相 (英国) は、以下のように謂っています。

    I love argument, I love debate. I don't expect anyone just to
    sit there and agree with me that's not their job.

 私は サッチャー 元首相に賛同します。私は、若い頃 (30歳代) に debate を学習して議論好きでした。当時、私は RDB を日本に導入して普及する際、旧来の技術に固守している人たちを説きふせるために argument を数多くやってきましたが、いまでは、argument をしない。私が年取ったので穏和になった訳じゃない [ 私は、いまでも、論を好む性質だし、しかも、辛辣な論を組むことは、「反文芸的断章」 を読んでもらえば わかるでしょう ]。

 サッチャー元首相のように政治家であって ひとつの政策を様々な案のなかから選んで実現しなければならない仕事では argument は絶対にやらなければならないのですが、私のように モデル を作る エンジニア は 「じぶんとの戦い」 のほうが重大です。そして、私は、かつての argument のなかで、日本人が debate できないことを知って、ウンザリ していることも argument しない ひとつの原因になっています。その点については、本 ホームページ 「佐藤正美の問わず語り」 の 86ページ の 「補遺」 を読んで下さい──三島由紀夫氏の ことば を借りれば、「動物園のはうばうの檻の中で、いろんな禽獣が勝手放題にわめいてゐるやうなものである。お互ひに相手の言ふことなど聴いてゐないし、もし聴いてゐても、揚足をとるか茶茶を入れるためにきいてゐるのである。かういふ代物は、出席者と読者の品性を二つながら堕落させるから」

 ただし、私は、じぶんと向きあっているときでも、Dean Inge 氏の謂うように the wolf remains of a different opinion ということを忘れてはいない。Debate を学習したひとであれば、賛否両論 (の網羅) を かならず検討するはずです。そういうひとは、じぶんの恋人が一番に綺麗だ (じぶんの論が最高だ) などという逆上 (のぼ) せを いささかも抱いてはいない。「じぶんの恋人が一番に綺麗である」式の savage な論は、Bertrand Russell 氏の謂うように、there is no good evidence である場合が多いのでしょうね。そういう論は、甚少な evidence を豊富な声量で押し通したいのでしょう──品がないし、頭が悪い。

 Henry David Thoreau 氏の ことば に私は感服しました。この惚けかたは、極めつけですね。そういうふうに対応されて、赤面しないような相手は、そもそも savage controversies しかできない ヤツ らでしょうね。argument にも、ちゃんとした ルール がある──「動物園のはうばうの檻の中で、いろんな禽獣が勝手放題にわめいている」 のが argument じゃない。

 
 (2011年 4月23日)

 

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