2002年 3月17日 作成 辞書の使いかた (英英辞典) >> 目次 (テーマごと)
2007年 5月 1日 補遺  


 
 TH さん、きょうは、「辞書の使いかた」 についてお話しましょう。
 話の対象とする辞書は、国語辞典と英語辞典にしましょう。今回は、英語辞典の使いかたを お話しましょう。

 英語辞典は、(本 ホームページ の 「読書案内」 で数多くの辞書を一覧表示しましたが、専門領域の特殊な英語辞典を除けば、) 以下のように分類できます。

 (1) 英英辞典
 (2) 類語辞典(thesaurus)
 (3) 語法辞典
 (4) 百科事典(英語版)
 (5) 英和辞典
 (6) 和英辞典

 われわれ日本人は、まいにちの生活のなかで英語を使って「英語を自然と体得する」 ことができないので、第二外国語として英語を努力して学習することになるから、どうしても、辞書に頼らざるを得ない。逆に言えば、辞書なしでは英語を学習することができない。「なんのために英語を学習するのか」 という目的が違えば、当然、学習のしかたも違ってくるし、使う辞書も違ってきます。

 たとえば、英語を使って 「買い物をする程度」 なら、小型の (pocket-sized) 和英辞典があれば事足りるでしょうが、「欧米人の思考」 のやりかたを探りたいとなれば、そうとうな読書量をこなさなければならないし、辞書をそうとうに使うことになるでしょう。

 「言語を使うということは生活様式そのものを学ぶということである」 という考えかたを前提にして、「欧米の思考」 を研究するのであれば、上述の辞書を 「すべて」 揃えなければならないでしょう。しかも、上述の辞書群は、さらに、大きさ (記載されている情報量) を判断基準すれば、以下の 3種に分類できる。

 (1) 大型辞書 (New Oxford English Dictionary 以上の大きさを判断基準にしています。)
 (2) 中型辞書 (Pocket Oxford English Dictionary 以上の大きさを判断基準にしています。)
 (3) 小型辞書 (Little Oxford English Dictionary 程度の大きさを判断基準にしています。)

 それぞれの領域 (英英、類語、語法、百科、英和、和英) と辞書の大きさの マトリックス を考えれば、「最低でも」 18冊の辞書を揃えなければならないことになるでしょう。しかも、18冊というのは、それぞれの領域では 1冊しか選んでいないのですが、(料理人が包丁をいくつも使っているように) 辞書も、それぞれ、編集方針が違っていて、それぞれ、特徴が違うので、当然ながら、ひとつの領域でも、複数冊を選ぶことになるでしょう。
 (これ以後の記述は、本 ホームページ の 「佐藤正美の問わず語り」 (「英英辞典を読む」) のなかで記述した 「基本的な 3,000語 (core vocabulary)」 を すでに習得していることを前提にしています。)

 まず、「英英辞典」 を使うことを基本にしたほうがいいでしょう。
 われわれは、すでに、(学校教育のなかで--初等段階では--) 日本語訳 (英和形式) を仲介にして英語を学習してきているので、(それはそれで効果的ではあったのですが、いっぽうでは、) 弊害として 「1つの英単語 = 1つの日本語訳」 という恐ろしく単純な形の記憶をしてしまっている、という点があります。事物を表現する名詞の多くは、おそらく、そういう 「英単語-対-日本語訳 = 1-対-1」 という対応は成立するでしょうが、名詞であっても、「概念的な モノ」--たとえば、「愛」 とか--を記述するとなれば、とたんに、英語と日本語の概念が ズレ てしまって、「love = 愛」 の単純な対応関係が成立しなくなってしまう

 たとえば、単純な表現ですが、「Give my best love to your parents」 という感覚は日本語の 「愛」 の感覚ではないのではないでしょうか? つまり、「give sombody a friendly message」 の意味として 「愛」 を使うことは日本語では、まず、成立しないでしょう。

 あるいは、最近の例として、アプリケーション・パッケージ の体系を記述するために使われている 「integrated (あるいは、integration)」 という英語を 「統合化」 という日本語訳にしているのですが、「integration」 と 「統合」 の間には、微妙な ズレ があるように思います。というのは、(この文脈のなかでは) 「integration」 は 「a missing link がない」 という意味であって、「統合」 という 「トップダウン 形式の構造を想起する」 ような語感ではない、と私 (佐藤正美) は思っているのですが、いかがでしょうか?

 「1つの英単語-対-1つの日本語訳 = 1-対-1」 というふうな記憶を すでに刷り込まれている われわれが、英語を改めて学習しようとするのなら、小型の英和辞典を使うことは止めたほうが良いでしょうね。なぜなら、弊害を助長することになるでしょうから。小型辞書は英語の達人が使う辞典であって、学習途上の われわれ シロート が使う辞書ではないでしょうね。

 その弊害を矯正するためには、(われわれは日本語を使うことを止めて英語を学習することができない環境にいますから、日本語を活かしながら--いっぽうでは、「1つの英単語-対-1つの日本語訳 = 1-対-1」 の悪しき対応を記憶してしまっているので、それを逆手にして--) 英英辞典を使えば良いでしょう。そのためには、「英英和形式」 の辞書を使うことをお薦めします。「英英和辞書」 は 「読書案内」 のなかで記載していますので参考にしていただければ幸いですが、「中型辞書」 として、最近出版された以下の辞書をお薦めします。

  - ワードパワー 英英和辞典、島岡 丘 編集主幹、増進会出版・Oxford University Press.

 そして、「中型辞書」 として、さらに、以下を揃えれば良いでしょう。

  - LONGMAN Contemporary English Dictionary
  - COBUILD English Dictionary
  - Pocket Oxford English Dictionary

 以上の 「中型辞書」 は、座右に置いて常用する辞典です (「読むための」 辞書として使います)。英英辞典の 「中型辞書」 の使いかたは、「調べている単語のすべての記述 (語義および例文) を読む」 ことが大切です

 次に、英英辞典の 「小型辞書」 として、以下をお薦めします。

  - Idiomatic and Syntactic English Dictionary, Hornby ほか, 開拓社
  - Little Oxford English Dictionary, OXFORD

 以上の 「小型辞書」 の使いかたは、「曖昧な語義をちょっと (手軽に) 調べる」 ときに使えば良いでしょうし、「携帯用」 にすれば良いでしょう (ただし、「佐藤正美の問わず語り」 のなかで記述したように、SEIKO IC dictionary のように、「英英辞典」 と 「類語辞典 (thesaurus)」 を搭載している小型の携帯用 デジタル 機器のほうをお薦めします)。

 さて、英英辞典の 「大型辞書」 ですが、以下をお薦めします。

  - Webster's Third New International Dictionary, MERRIAM WEBSTER
  - RANDOM HOUSE unabridged Dictionary, RANDOM HOUSE
  - New OXFORD Dictionary of English, OXFORD

 以上の 「大型辞書」 を常用にすることはないでしょうが、使いかたとして、「語感」 を掴むときには最適です。すなわち、或る単語の語根となる 「語感」 を把握するときに、その単語の記述 (定義) をすべて読めばよいでしょう--語源も読むこと--。
 そのときに、「類語辞典 (thesaurus)」 もいっしょに使えば、その単語の 「語感」 を掴みやすいでしょう
。類語辞典として、以下をお薦めします。

  - The Synonym Finder, Rodale J.I., WARNER BOOKS
  - Webster's Dictionary of Synonyms, Merriam Webster
  - OXFORD LEARNER'S Wordfinder Dictionary, OXFORD
  - LONGMAN Essential Activator, LONGMAN

 たとえば、effective と efficient の違いは、英英辞典でも把握できるのですが、さらに、類語辞典を使えば、effective には、functionning とか useful とか serviceable という類語があるけれど、efficient には、それらがない点を鑑みれば、effective は 「効果」 を意味していることがわかるでしょう (「効」 は 「効き目」 を語感としていて、effective は 「果 (成果、結果)」 を重視し、efficient は--対象になっている やりかた と他の やりかた と対比して--「率」 を重視しているようです)。英英辞典によれば、efficient は、「productive with minimum waste or effort」 ですから、「(minimum と判断するためには) 比較できる」 対象がなければならないことを想像することができるので、その推測が妥当かどうか、という点を調べるために豊富な例文を記載している 「新編 英和活用大辞典」 を使って、例文をすべて調べてみてください

 すなわち、英語辞書の使いかたは、以下の手順に従えばよいでしょう。

  (1) 調べている単語について、(英英和辞典の) 「中型辞書」 の記述をすべて読む
  (2) 調べている単語について、(英英辞典の) 「大型辞書」 の記述をすべて読む
  (3) 調べている単語について、「類語辞典」 の記述をすべて読む
  (4) 調べている単語について、「新編 英和活用大辞典」 の記述をすべて読む

 こういう丁寧な調べかたは、すべての単語に対して実施することはできないでしょうから、英英和辞典 (ワードパワー 英英和辞典) のなかで、基本単語 (「*」 が附与されている単語) に対して、以上の調べかたをすればよいでしょう。なお、「すべて読む」 ということは 「記憶する」 ということを意味しているのではない。記憶しようとしないで、ただ、(専門書を読むときのように) 考えながら丁寧に読めばよい、ということです。読むだけで良い

 英英辞典を使いながら、英和辞典を 「副読本」 として使えばよいでしょう。
 まず、英和辞典の 「大型辞書」 として、以下をお薦めします。

  - ランダムハウス 英和大辞典、小学館
  - グランド コンサイス 英和辞典、三省堂
  - リーダース 英和辞典および リーダース・プラス、研究社

 以上の英和辞典の使いかたは、英英辞典の 「大型辞典」 と同じ使いかたをすればよいでしょう (ただし、[ グランド コンサイス を除いて ] CD-ROM 版を使えば、もっと、「面白い」 使いかたができるのですが、その使いかたは、「佐藤正美の問わず語り」 のなかで すでに述べているので参考にしてください)。

 英和辞典の 「中型辞書」 を選ぶには、若干、注意を払ったほうがいいでしょう。というのは、英英辞典を中心にして使っているので、英和辞典の 「中型辞書」 は、(学校教育のなかで使ってきたような使いかたをするのではなくて) 「こなれた訳語 (a natural style)」 を記載している英和辞典を選んでください
 以下の辞典をお薦めします。

  - コンサイス 英和辞典、三省堂

 英和辞典の 「中型辞書 (小型辞書?)」 は、この一冊があれば事足りるでしょう。
 (あるいは、「岩波 新英和辞典」 も良い。)

 さて、以上の辞書を 「使いこなす」 ことができるようになったら、「読書案内」 のなかに記載してある語法辞典や百科事典や専門領域の英英辞典を使うようにしてください。

 [ 注意 ] 以上の辞書を 「使いこなす」 ことができないまま、語法辞典や百科事典や専門領域の英英辞典を使えば、「1つの英単語-対-1つの日本語訳 = 1-対-1」 の悪弊が刷り込まれたままなので、それらの上級向けの辞書のなかに記述されている中身を 「誤訳」 して知識を習得してしまうことになる危険性が高い。

 [ 補筆 ] 「佐藤正美の問わず語り」 のなかで、「英英辞典を読む」 ことをお薦めしましたし、「読書案内」 のなかで、私が所蔵して使っている英語辞典の一覧を記載しましたが、それらの辞書を私が どのように使っているのか、ということを綴らなかったので、ご参考になればと思い、(前述した辞書以外に私が使っている) 辞書を以下に記載しておきます。
 以下に記載する辞書は、「版がそうとうに古くて、なかなか、入手することができない」 のですが、「基本語」 を調べるときに、私が常用している辞書です。英作文を綴るには一押しのお薦めなのですが、いかんせん、(4冊中 3冊は) 入手しにくいので、積極的にはお薦めすることができない。

  - ハンディ 英和活用辞典、研究社 (古本)
  - The BBI combinatory Dictionary of English, John Benjamins・丸善 (入手可能)
  - A Grammar of English Words, Palmer H.E., LONGMANS GREEN AND CO. (古本)
  - Dictonary of English Usage, Leonhardi A., W.W. Braian and M.A. Welsh, SHUFUNOTOMO CO., LTD (古本)

  「ハンディ 英和活用辞典」 は、「英和活用大辞典 (勝俣銓吉郎 編)」 の縮約版です。ハンディ 版の 「はしがき」 によれば、勝俣先生 ご自身は、ハンディ 版を 「英和活用大辞典」 の 「改悪」 と見なしていらしたらしいのですが、お弟子さんたち--増田綱 先生、佐藤佐市 先生、矢吹勝二 先生--が努力を注いで ハンディ 版を完成なさったそうです。
  「新編 英和活用大辞典」 と 「英和活用大辞典 (勝俣銓吉郎 編)」 は、collocation を収集した最大・最高の辞書なのですが--英語の例文に接する機会が乏しい われわれが、語の使いかたを習得するのは最適な辞書なのですが--、例文が豊富なので、うろ覚えの 「語の連結」 を確認するには、かえって、手間取ることがあるので、そういうときには、ハンディ 版が、とても重宝です。そして、BBI の辞書も同じ効果があります。

  パーマ 博士 (Palmer H.E.) は、日本の英語教育 (文型や語法) のために多大に貢献なさった英語の大家です。 博士が執筆なさった 「A Grammar of English Words」 は文法書 (語法指南) であると同時に (アルファベット 順の辞書形式なっていて、単語ごとに) 語義別に例文と熟語が豊富に記載されていて、1つの語の 「使いかた」 を知るには 「うってつけの」 書物です。この書物の 「復刻版」 を出版していただければ英語学習者に対する貢献度は多大であると思うのですが、、、。

  「Dictonary of English Usage」 は、(アルファベット 順の辞書形式なっていて、単語ごとに--「語義」 を省いてはあるけれど--) 例文と文型 (その語が取りうる構文) を記載した書物です。

  以上の辞書を私は常用しています。そして、「語感」 を調べるときに、「大型辞書」 を参照しています。
  以上、長々と述べてきましたが、英英辞書の使いかたは、根気よく 「辞書を読む (定義と例文を読む)」 ということに尽きるでしょうね。

  さて、次回は、和英辞典の使いかたを述べます。□

 



[ 読みかた ] (2007年 5月 1日)

 本 エッセー では、「どのような英英辞典を入手して、英英辞典を どのように使えば良いか」 について、具体的に丁寧に述べているので、これ以上の説明を、取り立てて、増補しなくても良いでしょう。英英辞典の使いかたは、本 エッセー の最後に まとめましたが、「基本語」 に関して 「辞書を読む (定義と例文を読む)」 というほかに仔細はないでしょうね。

 日本で生まれて日本で育った--言い換えれば、海外で育っていない--日本人が、国語辞典 (日本語辞典) を使うのと同じ しかた で、英英辞典を使うことは、まず、できないでしょう--その理由を、かつて、「読書案内」 (59 ページ) で述べたので参照して下さい。

 本 エッセー で記載した辞典を買い揃えるのが難しいなら、まず、「初級向けの英英辞典」 --たとえば、Hornby 氏らの 「Idiomatic and Syntactic English Dictionary」--を買って、それを つねに てもとに置いて、読む習慣を養えば良いでしょう。英英辞典を読む習慣を養うには、知らない単語を調べるのではなくて、「すでに知っている」 基本語を読むようにすれば良いでしょう。英英辞典を友 (対談の相手) とするには、とにもかくにも、まず、英英辞典を読む習慣を作ることが大切な点です。本 エッセー のなかでも注意しましたが、読んだ英文を暗記しようなどと思わないで、ただ読めば良い。そして、英英辞典の使いかたに慣れてきたら、単語を調べる前に、あらかじめ、その定義を想像して、それから辞典で調べて、みずからが考えた定義と辞典の定義とを比べて、類似点・相違点を検討してみれば良いでしょう。

 私は、英語の quotations を読むのが好きです。そして、英英辞典も、quotations のなかの 1つだと思っています--その文 (辞典に記述されている定義) は、個性が無いけれど、多くの人たちが 「合意 (generally accepted)」 した thematic な記述であると。




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  佐藤正美の問わず語り