2004年 5月 1日 作成 「基準編第11章 (aRb の連言)」 を読む >> 目次に もどる
2007年 2月 1日 更新  




T字形 ER手法は、「言語の形態論」 である。

 「論理 データベース 論考」 (「論考」 と略称) を執筆した理由は、以下の諸点を検証することであった。

 (1) 要素命題を再検討する。
 (2) 写像理論を否定する。
 (3) タイプ 理論を使わない。
 (4) 関係の論理として関数を使わない

 
 「論考」 の理論編では、数学基礎論のなかで使われる基本的な技術を棚卸して、以下の考えかたを立脚点にすることにした。

 (1) [ 言語の形態論 ]
   写像理論・タイプ 理論を使わないで、(事業のなかで) 言語の使われかたを論点とする。

 (2) [ 命題論理 ]
   言語の使用説を前提にして、要素命題は、「単文 (「S-P」 形式)」 として扱う。

 (3) [ 関係の文法 ]
   複数の主語の間に成立する関係は、関数を使わないで、4つの規則 (文法) を提示する。

 
 すなわち、T字形 ER手法は、命題論理 (および、関係の論理) を前提にした言語の形態論である。
 語 (形態素) は単語を形成し、単語は単文を形成し、単文は複文を形成して、意味を伝達する。事業のなかで使われている情報は複文である。したがって、1つの複文は、いくつかの単文の集まりとして考えることができる。しかも、事業のなかで使われている単語には、人為的な単語 (コード 体系) もある。

 T字形 ER手法は、単文 (「S-P」形式) を entity として考える。ただし、entity には、認知番号が付与されていなければならない。認知番号として、コード 体系のなかに定義されている管理番号を使う。そして、認知番号が主語として作用して、entity の性質 (attribute) は、「述語の連言」 として記述される。

 
T字形 ER手法の正規形は、2項関係を基本にした主選言標準形である。

 entity 間の関係では、「並び」 が論点になる モノ もあれば、そうでない モノ もあるので、関係を記述するために、並びが論点になる データ (event) と、そうでない データ (resource) を切り離して、(並びを前提にする) 関数を使わないで、event と resource を関係項とする (4つの) 推論 ルール を提示した。
 2項関係を記述する前提になった恒真命題が、以下の主選言標準形である。(注意)

    (p∧q)∨(p∧¬q)∨(¬p∧q)∨(¬p∧¬q).

 なお、論理的否定 (¬) は、null として考えている。
 p および q が、それぞれ、resource であれば、「p∧q」 は、対照表として記述される。たとえば、従業員 (p) と部門 (q) の連言 (対照表) は、以下のように記述される。

    従業員. 部門. 対照表 {従業員番号 (R), 部門コード (R), ...}.

 主選言標準形は、真理値表 (真偽の検証表) として作用する。たとえば、2項関係では、以下のような検証可能性が示される。

    (真 ∧ 真) ∨ (真 ∧ 偽) ∨ (偽 ∧ 真) ∨ (偽 ∧ 偽).

 従業員と部門の 2項関係を、真理値表に適用すれば、以下の 3つの事象のいずれかが起こりうる。
 (1) 従業員が部門に配属されている (真 ∧ 真)。
 (2) 部門に配属されていない従業員がいる (真 ∧ 偽)。
 (3) 従業員が配属されていない部門がある (偽 ∧ 真)。

 なお、(偽 ∧ 偽) は、データ として成立しない。
 主選言標準形が、T字形 ER手法の正規形である。

 
2項関係は多項関係の基本形である。

 1つの複文が、いくつかの単文の集まりとして記述できるように、多項述語論理は、(反射性・対称性・移行性を使えば) 2項述語論理の集まりとして記述できる。
 リレーションシップ を記述するやりかたには、以下の 2つがある。

 (1) binary (2項関係)
 (2) N-ary (3項以上の関係)

 T字形 ER手法では、binary 方式 (2項関係) を使う。N-ary 方式を使わない理由は、61ページ を参照されたい (「データ 解析に関する FAQ」 のなかの 「リレーションシップ (binary と N-ary)」)。
 1つの N-ary 方式が、いくつかの binary 方式として記述できるということは、逆に言えば、binary 方式は、共通項を使って統合できるということである。

   (p ∧ q) ∧ (q ∧ r) ≡ p ∧ (q ∧ q) ∧ r ≡ p ∧ q ∧ r.

 たとえば、在庫は、以下の 2つの 2項関係を統合した対照表 (「倉庫. 棚. 製品. 対照表」) である。
 (1) 「倉庫. 棚. 対照表」
 (2) 「棚. 製品. 対照表」

   (倉庫 ∧ 棚) ∧ (棚 ∧ 製品) ≡ 倉庫 ∧ (棚 ∧ 棚) ∧ 製品 ≡ 倉庫 ∧ 棚 ∧ 製品.

 
(注意) ∧ は 「AND (かつ)」、∨ は 「OR (または)」、¬ は 「NOT (〜でない)」、という意味である。

 



[ 補遺 ] (2007年 2月 1日)

 記号論理学の領域を、私は、以下の 5つとして理解している。

 (1) 命題論理 (複文は単文から構成される点に着目して論理関係を扱う)
 (2) 述語論理 (「述語」 に着目して、「量化」 を使って論理関係を扱う)
 (3) 集合論 (「基数」 と 「序数」 を使って論理関係を扱う)
 (4) 関係の論理 (「順序対」 の論理関係を扱う)
 (5) クラス 論理 (「『内包』 および 『外延』」 の論理関係を扱う)

 (5) は、現代集合論 (数学基礎論) のなかで、(3) として扱われているのかもしれない。また、(4) は、現代では、(2) のなかで扱われています。私は、以上の体系のなかで、「命題論理」 という用語を使っている点を、まず、ご理解いただきたい。

 さて、TM (T字形 ER手法) を命題論理で組んだ理由は、コッド 関係 モデル の立脚点 (集合論・述語論理) と対比してみれば理解しやすい。

 コッド 関係 モデルは、セット 理論 (ZF の集合論)と第一階述語論理を使った体系であって、完全性を証明されている。ただ、コッド 関係 モデル を実際の データ 設計に適用しようとすれば、以下の 2点が論点になる。

 (1) セット の並び
 (2) null

 この 2点を消去するために、TM が作られた。TM では、(1) に関して、「並び」 の対称性・非対称性を考慮して、entity として 「resource」 と 「event」 という概念を導入して、関係文法として 「関数」 を使わないことにして、(2) に関して、2値論理を前提にして、null を認めない (実際に生じた事態しか認めない)。そのために、TM は、集合論・述語論理を使わないで、命題論理を使うことにした。そして、TM が使った命題論理は、ウィトゲンシュタイン 氏の 「論理哲学論考」 を規範にした。その特徴点が、真理値表を (「resource」 のあいだで) 「対照表」 として使う点であった。「対照表」 は、事態の 「原型」 とされ、「対照表」 に対して認知番号を付与した entity を 「event」 と考えた。そして、「resource」 が 「event」 に関与 (侵入、ingression) するという考えかたで 「関係の文法」 を組んだ--もうひとつの考えかたとして、「event」 のあいだでは、関係の対称性を鑑みて、「後続」 という考えかたも導入している。
 TM を命題論理で組んだときに、私が悩んだ点が 以下の 2点である。

 (1) 「意味」 の成立として、写像理論を使うのが妥当かどうか。
 (2) 「関係が、そのまま、物 になる」 現象に対して、どのように対応すればよいか。

 (1) に関しては、ウィトゲンシュタイン 氏の哲学が転回された道筋に従って、写像理論を捨て、TM の前提を 「言語 ゲーム」 に移した。(2) は、典型的な現象として、「HDR-DTL」 構造になるのだが、命題論理を前提にした TM では、所詮、整合的には論証できなかった--すなわち、クラス 概念を使わなければ論証できない論点である。

 TM を 「意味論的に拡張した」 体系として TM’ (TM の体系に対して、「みなし概念 (みなし entity、みなし スーパーセット)」 を導入した体系) を配慮しているが、「みなし スーパーセット」 を数学的な クラス 概念として使わなければ、「HDR-DTL」 構造を整合的に論証できない--「みなし スーパーセット」 は、「概念的 スーパーセット」 とも云い、あくまで、「概念的な」 階を示す手段であって、数学的な クラス 概念として使っていないが、「HDR-DTL」 構造では、ファンクター として使われている (ただし、実際の データ 演算では、HDR も DTL も、それぞれ、下位の階 である 実 データ が対象となる)。

 





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