2005年 1月16日 作成 「文献編第 14章 (数学史、辞典)」 を読む >> 目次 (作成日順)
2007年10月16日 更新  


 モデル (無矛盾性と完全性) が、数学 (数学基礎論) のなかで、どうして、論点になるのか、という点は、数学史を学習しなければ理解できない、と思う。あるいは、集合に関して、セット 概念と クラス 概念が出てきた理由も、数学史を学習していなければ、なかなか、理解できないのではないか、と思う。

 ただし、数学史のなかでも、数学基礎論の歴史を学習すればよいのであって、古代からの数学史を調べなくても良い、と思う--「公理」 という概念を検討しようとすれば、ユークリッド も対象にしなければならないけれど、われわれは、とりあえず、「集合論」 に関する歴史を学習すれば良い。

 「集合論」 の歴史のみを学習しても、(1930年代、数学基礎論を生む起点になった) 「論争」 を理解しにくいので、集合論と記号論理学と哲学との関連を知らなければならない。それらの関連を記述した書物として、以下をお薦めします。

 ● 数学の哲学、ケルナー 著、山本 新 訳、公論社

 数々の理論を対象にして、歴史のなかで、それらの関連を記述するためには、当然ながら、執筆する人の 「視点」 が入ってくるので、1冊しか読まない、というのは公平でないのですが、われわれ (数学の) シロート は、ケルナー 氏の書物のみで良い、と思う。もし、余力があれば、以下の書物も読んだほうがいい。

 ● タレス の遺産 (数学史と数学の基礎から) アラグラン・ランベク 共著、三宅克哉 訳、シュプリンガー・フェアラーク 東京

 この書物は、2部構成になっていて、第 T部は、数学全般の歴史と哲学が まとめられていて、第 U部は、「数学の基礎 (数学基礎論)」 の重立った考えかたが まとめられている。第 U部を読めば良い。

 以上の 2冊を読んで、さらに、数学基礎論の歴史を、詳細に知りたい人は、「論理 データベース 論考」 (14. 1. 10) のなかに記載した参考文献を読んでください。

 
 辞典として、質も量も最高なのは、岩波書店版 「数学辞典 (第 3版)」 (日本数学学会編集) ですが、われわれ シロート は、わざわざ、入手しなくても良い、と思う--そう言われても、購入したい人は買ってください (笑) [ ちなみに、私は、この辞典を、使っています (笑)]。そして、(岩波版 「数学辞典」 を買うほどの人なら--笑) さらに、岩波書店版 「情報科学辞典」 (尾 真 ほか) と、丸善版 「コンピュータ ソフトウエア事典」 (廣瀬 健・高橋延匡・土居範久 編) も、所蔵しておけば、役立つでしょう。版は古いけれど、一般向け (入門向け) として、以下の辞典 2冊を、お薦めします。

 ● 数学小辞典、矢野健太郎 編、共立出版

 ● 現代数学教育事典、遠山 啓 責任編集、明治図書

 「現代数学教育事典」 は、絶版になっているかもしれないのですが、(学校教育のなかで、数学を いかに教えるか、という点を目的にしているので、) 読んでいて、非常に、役立つ。「読む事典」 です。 □

 



[ 補遺 ] (2007年10月16日)

 「岩波 数学辞典 (第 4版、日本数学学会編)」 (20年ぶりの改訂版) と 「岩波 数学入門辞典 (青木和彦ほか)」 が出版されましたが、私は、まだ、購入していません (でも、近々、購入すると思います)。

 「数学小辞典 (矢野健太郎 編、共立出版)」 を重宝してきたのですが、数学基礎論に関する記述が、ほとんど、ないので、「岩波 数学入門辞典」 に期待していますが、はたして、私の期待が満たされるかどうか。個人的な希望を言えば、「数学基礎論の辞典」 が欲しいですね。

 数学に対しての私の興味は、「ロジック と集合」 に注がれているので、「岩波 数学辞典」 のような数学全般に関して専門的な記述がされている大辞典を ほんの僅かな部分しか使っていないので、じぶんの数学的知識のなさを嘆いています。私は数学の専門家ではないので--もし、専門家であったとしても--、辞典に記載されている すべての領域に関して、じぶんの知識を改めて再確認するというふうに辞典を使うことは、まず、ないでしょうね。仕事上で、私は、「ロジック と集合」 の基本的な技術を使いますが、それでも、数学の定理を厳正に証明しなければならないという職責もないし、集合論的論理式を実地に適用しながら解析しなければならない現実的事態 (仕事の対象) もない。私が数学基礎論を学習している理由は、あくまで、「論理の数学的扱い」 に関する考えかたを習得することにとどまっています。

 「ロジック と集合」 に興味を抱いているひとは、まず、ケルナー 氏の 「数学の哲学」 を読んでみて下さい。「ロジック と集合」 は、数学基礎論の書物を読めば、当然ながら、数学的技術を記述していますので、もし、仕事上、そういう数学的技術を使う機会がないのであれば、「ロジック と集合」 は 「つまらない」 領域として感じられるでしょうし、たとえ、基本技術を習得しても、いずれ、shelfware になってしまうでしょうね。「ロジック と集合」 の考えかた・テクニック を、なんらかの形で、仕事のなかで活かすには--「仏作って魂いれず (You plough the field and forget to sow the seed)」 のような状態に陥らないためにも--、それらが整えられてきた バックグラウンド を知っていることが役立ちます。ケルナー 氏の著作は、われわれ シロート が 「ロジック と集合」 を学習する際に、数学的な見かた (論理の数学的扱い)を理解しやすくしてくれる書物だと思います。勿論、この書物だけを読んで、シロート が数学の哲学を わかったつもりになっても困るのですが、、、というのは、数学の技術を知らないで、数学の哲学を語ることなどできないから。

 私のような シロート は、学問の最新研究と無縁なので、古典的推論の静的定式化を重視しますが、専門家のあいだでは、1980年代以後、「the dynamic turn」 とよばれている動的 アプローチ が盛んに研究されてきたとのことです。

 





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