数学基礎論 (ケ゛ーテ゛ル を読む) >> 目次 (テーマ ごと)

 中級編までの文献を読んで、数学基礎論の一通りの知識を習得した後に、ケ゛ーテ゛ル を読んで下さい。
 再度、警告するが、中級編の文献を理解できないなら、ケ゛ーテ゛ル の文献を読んではいけない。


 

 ▼ 以下の入門書を読んで、ケ゛ーテ゛ル を読む準備をすればよい。

 ● ケ゛ーテ゛ル の謎を解く、林 晋、岩波書店

 ● ケ゛ーテ゛ル は何を証明したか、ナーケ゛ル・ニューマン 共著、林 一 訳、白揚社

 ● ケ゛ーテ゛ル・不完全性定理、吉永良正、講談社 フ゛ルーハ゛ックス

 ● ケ゛ーテ゛ル と チューリンク゛ (計算機・生物・脳)、サイエンス 社、別冊 「数理科学」 1986年10月

 ● 不完全性定理(たのしいすうがく 2)、野崎昭弘、日本評論社
  [「中級編」 までの数学基礎論の本を読んでいれば、この本からはじめたほうが、入りやすいかもしれない。]

 ● 決定不能の論理ハ゜ス゛ル、レイモント゛・スマリアン 著、長尾 確・田中朋之 訳、白揚社

 



[ 読みかた ] (2006年 1月16日)

 私が ケ゛ーテ゛ル を読んだ理由は、ウィトケ゛ンシュタイン の哲学を理解するためであって、数学の技術を知りたいからではなかった。
 いわゆる 「決定問題」 を技術的な論点にするのであれば、チューリンク゛・マシーン を学習すれば良いのであって、ケ゛ーテ゛ル を読まないとしても困らない--当然ながら、「決定問題」 を提起した ケ゛ーテ゛ル を読んだほうが良いが、アルコ゛リス゛ム を技術として扱うのであれば、チューリンク゛・マシーン のほうが コンヒ゜ュータ・エンシ゛ニア として学習しやすい。ケ゛ーテ゛ル は、「計算可能性」 に言及して、以下のように言った (フ゜リンストン 高等研究所の講演)。

    私の意見では、最も完成度の高い方法は、有限個の手続きの概念を有限個の部分から構成される機械の
    概念に還元する、という チューリンク゛ 氏が提示したやりかたです。

 あるいは、「数学の哲学」 として、カントール の集合論ハ゜ラト゛ックス を起点として、ヒルヘ゛ルト の 「メタ 数学」 構成を検討するために ケ゛ーテ゛ル を延長線上で (正確に言えば、対比して) 考えることもできるが、私は、そういう考えかたで ケ゛ーテ゛ル を読んだ訳でもなかった。私が ケ゛ーテ゛ル を読んだ理由は、どこまでも、ウィトケ゛ンシュタイン の哲学との対比であって、数学 (あるいは、「数学の哲学」) を学習するためではなかった。

 ウィトケ゛ンシュタイン は、かれの遺稿 「数学の基礎」 のなかで、ケ゛ーテ゛ル の不完全性定理について意見を述べているが、数学の技術として検討してはいない--ウィトケ゛ンシュタイン が いくら天才的な哲学者であっても、数学の シロート にすぎない。ウィトケ゛ンシュタイン が不完全性定理を検討した理由は、その定理が成立する 「意味 (正当化条件)」 である。ウィトケ゛ンシュタイン は、数学 (数学基礎論) を、数年に及んで検討していて、かれの著作 「哲学探究」 の第一部にしようとさえしていた。ウィトケ゛ンシュタイン は、このとき、すでに、言語が成立する正当化条件として、「言語 ケ゛ーム」 を着想していた。ウィトケ゛ンシュタイン が追究していた論点は、言語の 「意味」 が成立する正当化条件であって、「真」 概念を担保する真理条件ではない。この点を的確に言い得た人物 (哲学者) が クリフ゜キ である。ウィトケ゛ンシュタイン は、ケ゛ーテ゛ル の不完全性定理を 「命題ではない (「無意味」である)」 としている。
 ウィトケ゛ンシュタイン は、「数学の基礎」 のなかで、以下のように述べている。

    いかに奇妙に思われようとも、ケ゛ーテ゛ル の不完全性定理に関する私の課題は、ただ単に、「これは証明可能で
    ある、と仮定せよ」 といった命題は数学においては何を意味するのか、ということを明確にすることであるように
    見える。

 ケ゛ーテ゛ル は、ウィトケ゛ンシュタイン を意識していて、以下のように言った。

    彼 (ウィトケ゛ンシュタイン) は、この定理を一種の論理的 ハ゜ラト゛ックス と解釈していますが、この定理は、数学の
    中でも最も議論の生じる余地のない領域 (有限数論) における数学的定理です。彼の分析そのものが無意味と
    思えます。

 二人の天才は、(それぞれが立っている前提が違うので、) 平行線のままであった。そして、二人の考えは、いずれも、後世に多大な影響を及ぼした。通俗的な言いかたをすれば、一人 (ウィトケ゛ンシュタイン) は 「哲学を葬り去った現代の ソクラテス」 と云われ、もう一人 (ケ゛ーテ゛ル) は 「アリストテレス 以後、最大の論理学者」 と云われている。
 ケ゛ーテ゛ル の 「不完全性定理」 に関して、通俗的なまとめ (あいまいな、あるいは、いいかげんな まとめ) が、出回っているようです--「人間の思考は、不完全である」 とか、「人間は、コンヒ゜ュータ に比べて、すぐれている」 とか。しかし、ケ゛ーテ゛ル は、論文のなかで、そういうことを、一切、言及していない。

 ケ゛ーテ゛ル の論文を理解するためには、その前提として、ヘ゜アノ の公理系と ラッセル の タイフ゜ 理論を理解していなければならない。そして、体系のなかで使われる記号に対して、自然数を 「1対1」 に対応する考えかたを基礎にしなければならない。それらを前提にして、「v (自由変数) を証明可能な論理式」 と仮定して、F (v) を PM のなかに作る。
 さて、以上を前提にして、「不完全性定理」 の証明法をおおまかに述べれば、以下のようになる。

 PM のなかに、述語記号として、A も ¬A も証明できない命題 A を作る。そして、述語記号を、すべて、一列に並べて、n 番目を R (n) とする。さらに、自然数の集合として K を定義して、n ∈ K ⇔ ¬Bew [ R (n), n ] を導入する--なお、Bew (x) は、「x は証明可能な論理式である」 ことを意味する。K は PM のなかで作ることができる。とすれば、任意の述語記号--たとえば、S--は、どれかの R (n) と同じである--S = R (q) とする。

 とすれば、[ R (q), q ] が証明可能であれば、「真」 となるが、q は K に属していて、¬Bew [ R (q), q ] が成立するので、証明不能となる (仮定に反する) し、逆に、もし、¬Bew [ R (q), q ] が証明可能ならば、¬¬ (q ∈ K) となるから、Bew [ R (q), q ] が成立して、仮定に反する。すなわち、[ R (q), q ] は PM のなかでは決定不能である。

 「不完全性定理」 の証明法を単純に言い切ってしまえば、無矛盾な形式的言語 L のなかで、無矛盾な モテ゛ル を対象にして、自然数 n を考えて、自然数の 「後続 (後者)」 を決定できるかどうかを検討している。そして、その証明法 (無矛盾な自然数体系を前提にした証明法) を使ってケ゛ーテ゛ル が示した点は、「L が無矛盾であれば、L のなかの式 G について、G も ¬G も、L のなかで証明できない」 ことであった。
 もし、「W ⇒ ¬W」 や 「¬W ⇒ W」 という証明であれば、「ハ゜ラト゛ックス の存在証明」 であるが 、無矛盾な体系のなかで、自然数の並びを前提にして、「W ⇒ ¬W」 も 「¬W ⇒ W」 も証明できないことを証明したのが 「不完全性定理」 である。すなわち、自然数の体系 (型 N) に対応できる モテ゛ル ならば、モテ゛ル が無矛盾であっても、真とも偽とも証明できない式があるということを ケ゛ーテ゛ル が証明したので、「数学の無矛盾性を証明するために 『メタ 数学』 を導入する」 ことを狙った ヒルヘ゛ルト の「メタ 数学」 構成が崩れたし、後世、モテ゛ル とか アルコ゛リス゛ム (計算可能性) に対して多大な影響を及ぼした。したがって、少なくとも、モテ゛ル とか アルコ゛リス゛ム を考える人たちにとって、「不完全性定理」 は読まなければならない原点である。

 実際、この種の 「証明不能な定理」 として、具体的に、「選択公理」 とか 「連続体仮説」 がそうであることは、ケ゛ーテ゛ル 以後に、証明された。なお、ケ゛ーテ゛ル の 「不完全性定理」 は、その後、具象 カテコ゛リー を使って証明できることも提示された。そして、その証明法の基本形には 「不動点定理」 が使われる。「不動点」 とは、X から X 自身への写像 f に対して、f (x) = x となる点 (x ∈ X) である。前掲した入門書のなかには、不動点定理を導入して、「不完全性定理」 が どういうことを証明したのかを説明している書物もある--たとえば、林晋氏の著作とナーケ゛ル・ニューマン共著。吉永良正氏の著作は、ケ゛ーテ゛ル の証明に至るまでの 「数学の哲学」 に関して記述が多い。私の読後感から云えば、ケ゛ーテ゛ル の証明を直接に読み下そうとした野崎昭弘氏の著作がいちばんに理解しやすかった。

 




 

 ▼ 以上の 4冊の 「入門書」 を読んだら、以下の 2冊を 「精読」 すればよい。

 ● 数学基礎論入門、前原昭二、朝倉書店
  [ ケ゛ーテ゛ル の不完全性定理を 「タイフ゜ 理論」 を使って、ほぼ、原文に近い 「逐語訳」 として記述してある。]

 ● ケ゛ーテ゛ル の世界、廣瀬 健・横田一正 共著、海鳴社
  [ 完全性を証明するには、無矛盾ならば モテ゛ル が存在することを示せばよい点がまとめられている。]
  [ 付録として、「完全性定理」 と 「不完全性定理」 の翻訳が収録されている。]



[ 読みかた ] (2006年 1月16日)

 この 2冊は、以下の順に読んで下さい。そして、精読して下さい。

 (1) 「ケ゛ーテ゛ル の世界」 (廣瀬 健・横田一正)
 (2) 「数学基礎論入門」 (前原昭二)

 この 2冊を精読すれば、ケ゛ーテ゛ル の証明法を確実に理解することができるでしょう--数学の シロート である私は、この 2冊を頼り (頼もしい案内役) にしました。ケ゛ーテ゛ル の原文 (完全性定理と不完全性定理) を私が直接に読んだとき、この 2冊は、頼もしい案内役であったことを再認識しました。
 この 2冊に関して、私の下手な読後感を述べれば、邪魔になるでしょうし、この 2冊を直接に丁寧に読んで下さい。

 

 
[ 補遺 ]

 ● ゲーデル と 20世紀の論理学 (1〜4)、田中一之 編、東京大学出版会

 ● ゲーデル 不完全性定理、本橋信義、講談社




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