2001年 8月31日 作成 「帰属する」 と 「包摂する」 >> 目次 (テーマごと)
2006年11月 1日 補遺  



 「帰属する」 と 「包摂する」 は、(集合論では) 以下のように記述する。

  (1) 帰属する [ a ∈ A ].
  (2) 包摂する [ A ⊂ B ].

 たとえば、以下を仮想する。

  a は埼玉県人である。
  b は埼玉県人である。
  c は埼玉県人である。

 「埼玉県人である」 という性質を内包 [ f (x) ] とすれば、外延は以下になる。

  埼玉県人の集合 (A とする) A = {a, b, c}.

 次に、以下を仮想する。

  a は日本人である。
  b は日本人である。
  c は日本人である。
  d は日本人である。

 「日本人である」 という性質を内包 [ f (x) ] とすれば、外延は以下になる。

  日本人の集合 (B とする) B = {a, b, c, d}.

 とすれば、日本人の集合は、埼玉県人の集合を包摂する。
 したがって、日本人の集合と埼玉県人の集合の間には、以下の包摂関係が成立する。

   A = {a, b, c}.
   B = {a, b, c, d}.
   A ⊂ B.

 さて、「集合」 を メンバー とみなすことを考えることもできる。たとえば、以下を仮想する。

  a は日本国の メンバー (日本人) である。
  b は日本国の メンバー (日本人) である。
  c は日本国の メンバー (日本人) である。

 とすれば、外延は以下のようになる。

  日本国の メンバー の集合 {a, b, c}.

 次に、国連の メンバー を仮想する。国連の メンバー は (日本国や米国のように) 「国」 である。
 ちなみに、「国」 の メンバー は、たとえば、日本国なら、日本国の メンバー として、外延 {a, b, c} が成立している。
 とすれば、内包 f (x) は、「意味」 を表現しているから、以下のように表現することができる。

  f (x) = {a, b, c}.

 集合を メンバー とみなせば、f (x) は 「国」 を 「意味」 しているから、国連の メンバー の集合は、f (x) の集合 [ 集合の集合 ] として記述することができる。

  国連の メンバー の集合 {f (x)}.

 つまり、国連の メンバー の集合を F とすれば、以下のようになる。

  f (x) = {a, b, c}.
  F (f) = {f (x)}.

 ここで注意しなければならない点は、日本人 ( a と b と c ) は、日本国の メンバー ではあるが [ f (x) の メンバー ではあるが ]、国連の メンバー ではない [ F (f) の メンバー ではない ]、という点である。

  F (f) = {f (x)} ≠ {a, b, c}.

 したがって、「帰属する」 と 「包摂する」 は、厳然と区別されなければならない。
 次回は、「空集合」 を説明する。□

 



[ 補遺 ] (2006年11月 1日)

 カントール が、当初、「集合論」 を考えたときには、「集合」 は、以下のように直感的な概念であった。

   われわれの直観または思考の対象で、「(所属が) 確定していて、明確に区別される」 もの を
   1つの全体として まとめたものである。

 「(所属が) 確定している」 とは、「x ∈ S」 あるいは 「¬ (x ∈ S)」 のことをいい、「明確に区別されている」 とは、「x = y」 あるいは 「x ≠ y」 のことをいう。「(所属が) 確定している」 x を集合 S の エレメント (あるいは、メンバー) といい、エレメント が 1つも帰属しない集合を 「空集合」 といい φ というふうに記述する。また、集合 T が集合 S に包摂されることを 「T は S の部分集合である」 といい 「T ⊆ S」 というふうに記述する。ちなみに、空集合は すべての集合の部分集合である (φ ⊆ A)。

 集合を エレメント とする集合のことを 「集合族 (family of sets)」 という。そして、集合 S のすべての部分集合からなる集合族のことを 「ベキ 集合 (power set)」 といい、「2S」 として記述される。たとえば、集合 S のすべての部分集合 (A と B と C) から構成される集合族は、以下の 8つ (28) になる。

  {A, B, C} {A, B} {A, C} {B, C} {A} {B} {C} {φ}

 ベキ集合 2S にふくまれる集合の個数 (ここでは、8つ)が、集合 S (ここでは、3つ) にふくまれる集合の個数に比べて大きいことに注意してほしい。
 しかし、カントールが示した曖昧な 「集合」 の定義を前提にして、巨大な集合を作ったときに、パラドックス が生じた。たとえば、以下を考えてみる。

 (1) 「すべての集合の集合」 U が U 自身をふくむとすれば、2U ⊆ U となる。
 (2) とすれば、2U にふくまれる集合の個数が U にふくまれる集合の個数に比べて、小さいことになる (!)。

 これが、いわゆる 「素朴集合論の パラドックス」 である。
 パラドックス を回避するために、ツェルメロ は、{x | x ∈ A} の代わりに、{x ∈ a | A (x)} の形を集合とした。これを分出公理という。すなわち、もう 1つの集合 (集合 a) を考えて、あまりに大きくならない集合 (集合 a よりも小さい集合) を導入した。言い換えれば、部分集合 a を使って、パラドックス を回避する 「安全規準」 を導入したのである。分出公理のことを 「部分集合の公理」 ともいう。

 しかし、分出公理からは、{a, b} とか a ∪ b とか集合族を導き出すことができないので、ツェルメロ は、ほかの いくつかの ルール を公理化して (基本的に、9つの ルール)、「どういうものを集合というか」 を定義した。それらの公理のなかで、1つの公理を フレンケル が改良したので、この公理系を、Zermelo-Fraenkel の公理系といい、「ZF」 と略称することが多い。ZF の公理系に対して、カントール の集合論を 素朴集合論という。ZF の公理系は、以下の 3点が特徴である。

 (1) 等号をふくむ第一階の述語論理を使って形式化されている。
 (2) 9つの公理を持つ形式的体系である。
 (3) ∈ 以外の述語を使わない。

 素朴集合論の パラドックス を回避する もう 1つの やりかた は、ラッセル が提示した 「タイプ 理論」 である。タイプ 理論は、以下の点を特徴とする。

 (1) モノ は、いくつもの階層 (型) から構成されている (「高階」 の構成)。
      タイプ 0 は、個体である {a, b, c,...}.
      タイプ 1 は、個体の属性である f (x).
      タイプ 2 は、個体の属性の属性である G (f (x)).
       :
       :
      タイプ (N − 1)
      タイプ N

 (2) タイプ N の関数は タイプ (N − 1) の対象を代入項とする。

 すなわち、同じ階からの代入項を認めないので、「x ∈ x」 (自分自身を メンバー とする集合) は無意味となる。

 いっぽう、フォン・ノイマン は、記号論理の手法を使って、集合論を いっそう形式化して拡張し、ベルナイス と ゲーデル は、ノイマン の形式化を単純な形に整理した。この形式的に拡張された集合論を Bernays-Godel の集合論といい、「BG」 と略称することが多い。

 A (u) を任意の集合論的論理式とする。集合論的論理式とは、∈ (メンバー である) という述語だけを使って作成される論理式のことをいう。{u | A (u)} の存在は、ZF の公理から得られない。{u | A (u)} を集合 (set) と区別して クラス (class) という。
 なお、ZF で証明できる式は BG でも証明でき、BG で証明できる式は ZF でも証明できるそうです。

 述語論理があつかう変項 P (x) の範囲が個体に限られているなら、「第一階の (first-order) 述語」 といい、変項が個体と論理式の両方を対象にしているなら 「第二階の述語論理」 [ G (F)、関数の関数 ] という。さらに、第三階、第四階...というふうに上位の階を考えることができるが、第二階以上を 「高階」 の述語論理という。

 そして、述語論理は集合論に翻訳できる。集合は、つねに、「メンバー と集合」 を単位にして考える。すなわち、第一階の述語は、「個体と集合」 として考えることができるし、第二階の述語は、(集合を メンバー にして、) 「集合の集合」 として考えることができる。したがって、「包摂する」 というのは、階数のあいだの関係であり、「帰属する」 というのは、次数 (メンバー の列挙) を示す。したがって、F (f) = {f (x)} ≠ {a, b, c}。

 ちなみに、数学者は クラス 概念を使い、論理学者は セット 概念を使う傾向があるそうです。




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