2001年10月31日 作成 不動点 >> 目次 (テーマごと)
2007年 1月 1日 補遺  



 19世紀後半、カントール が超限(無限)集合を導入して、数学の方法が大きく変わろうとしていた。しかも、集合論は、数学の基礎固めにも役立つことがわかってきた。たとえば、集合があれば、「数」 を作ることもできる (0 = φ、1 = {φ} を思い出してほしい)。つまり、集合論は数学を基礎から再構築できるので、数学者たちは、集合論こそが数学の基礎を形成すると考え始めた。しかし、その集合論のなかに、「パラドックス」 (W∈W) があることがわかった。つまり、カントール の集合論が矛盾してしまった。

 この矛盾を回避するための方法が考えられた。その 1つは、ツェルメロ が提示した、「いきなり、大きな集合を作らないように」 集合の範囲を限定するやりかたである ({x ∈ a | f (x) })。もう一つは、ラッセル が提示した 「タイプ 理論」 である (f (x)、 x ∈ {x})。これらのやりかたを使えば、集合論の矛盾を回避できることが証明されたが、「形式的に無矛盾であれば、すべての直観的に正しい事実を数学の形式的理論を使って証明できるかどうか」 という点は保証されていなかった。

 ヒルベルト は メタ 数学 (形式的理論) を使って数学全体を記述して、数学の無矛盾性を保証しようと計画したが、「形式的理論が数学の無矛盾性を保証したとしても、形式的理論は数学を完全に記述することができない」 ということを証明したのが ゲーデル である。 集合論のなかに潜んでいた矛盾 (パラドックス) は、一言でいえば、x = {x} [ みずからをふくむ集合 ] ということである。 x = {x} を不動点という。すなわち、X から X 自身への写像 f に対して、f (x) = x となる点 (x ∈ X) を f の不動点 (fixed point) あるいは固定点という。

 (1) X・X (X 自身の直積集合) から Y への関数 g があったとする。
 (2) 任意の関数 f : X → Y に対して a ∈ X をとって、
       g (x, a) = f (x)   (x ∈ X)
    とできるなら、任意の関数 u : Y → Y について、
       u (x0) = x0
    となる x0 ∈ X が存在する。

 f (x) は [ その式の値が真・偽のいずれであるか--無矛盾性--を ] 判断できる式で、g (x, a) は [ f (x) の正しさ--完全性、あるいは証明可能性--を判断するための ] 判断式である。
 小生は、この式を観ると、ブルース・リー 主演の映画 「燃えよ ドラゴン」 を思い出す。この映画のなかで、「鏡の間」 の戦いの シーン があるが--部屋の四方が鏡になっていて、ブルース・リー の鏡像が反対側の鏡に映り、その反対側の鏡像が反射して、また、同じ鏡像が小さく映り、鏡像のなかに、同じ鏡像が小さく映るのを繰り返す。つまり、鏡のなかに鏡像が延々と小さくなって映る。そして、おそらく--映画のなかでは、はっきりと観ることができなかったので、確証はできないが--小さくなっていく鏡像の極限は、「点」 になると思われる。これが不動点である。
 つまり、ブルース・リー 自身の鏡像 (X・X) が鏡 (Y) に写像され、鏡が鏡に写像 (Y → Y) されたら、鏡のなかで、不動点が成立する。
 この 「自己反射」 に関して、タルスキー の 「メタ 言語」 を思い出してほしい

 (1) X は正しい。
 (2) 「X は正しい」 は正しい。
 (3) 「『X は正しい』 は正しい」 は正しい。

 この「自己反射」 が矛盾を起こす原因なのである。

 とすれば、u (x0) = x0 [ u (0) = 0, u (1) = 1 ] の 「論理的否定」 を考えて、u (1) = 0 あるいは u (0) = 1 を証明できれば、x0 = X が 「矛盾」 であることを証明できる
 そのために、この不動点が、さまざまな 「存在定理」--たとえば、ラッセル の パラドックス や ゲーデル の不完全性定理など--の証明に使われる。ちなみに、この不動点の同族として、数学では、「フラクタル」 とか 「ラムダ 計算系」 が扱われているし、経済学の 「均衡の存在」 にも使われている。また、会計学において、連結財務諸表を作成するときに、「連結される側の」 会社が、自らのデータ 構造のなかに記述している 「会社 コード」 も不動点である(したがって、その会社 コード は、その会社のなかで記述されている他の エンティティ と リレーションシップ を結ばない)。□

 



[ 補遺 ] (2007年 1月 1日)

 本文中、以下の式を前提として使っている。

 (1) g: X × X → Y.
 (2) g (x, f’) = f (x).

                               x
          P ────────────── X
          │              │
          │              │
    (x, f’)  │              │ f
          │              │
          │              │
         X × X ──────────── Y .
                  g

 (1) を 「カテゴリー」 といい、(2) を 「ファンクター」 という。
 さて、カテゴリー を使って、或る理論の整合性を判断することができる。

 或る理論は、集合 X と集合 Y を使って、それらの関数 (f : X → Y) として記述できる。
 Y において、「否定」 の関数 (u : Y → Y) があれば、
  1. y ∈ Y について、u (y) ≠ y のとき、「整合的である」 という。
  2. Y を {0, 1} とすれば、以下の式 (真理関数) が成立するとき、理論は 「完全である」 という。

      u (0) = 1.
      u (1) = 0.

 ちなみに、「ゲーデル の不完全性定理」 を、カテゴリー 風に言えば、y = f (x) について、p (y’) = y なることを云う [ p は証明関数をいい、y’ は ゲーデル 数をいう ]。すなわち、「代入関数をもつ整合的な理論では、真理関数は存在しない」 ということである。




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