2002年 3月 3日 作成 量化の論理法則 >> 目次 (テーマごと)
2007年 5月 1日 補遺  



 「S-P」 形式 (1つの主語と 1つの述語) という命題論理では、たとえば、以下の論理を解析できない。

   S is on S.

 つまり、「S-P」 形式のほかに、多くの主語の間に関係が成立する論理形式がある
 2つの主語間の関係を 「aRb」 として記述する。「aRb」 は、以下のように読む。

 「a は b に対して関係 R にある」 R は、Relation の省略形である)。

 関係 「aRb」 は、「判断」 ではない。「aRb」 は 2つの変項 (a と b) の命題関数である [ R (a, b) ]
 たとえば、論理式 「∃xP(x=y)」 を考えれば、「x=y」 となるような x が存在するということを記述しているが、いまだ、y という変項があるので、「判断」 にはなっていない。
 この論理式が 「判断」 となるためには、「∃x∃yP(x=y)」 というふうに記述されなければならない。

 2項述語論理式では、量化の論理法則は以下のように成立する (具体的な エレメント を a と b とする)。

 (1) ∀x∀yP(x, y) ⇒ ∀yP(a, y) ⇒ ∃x∀yP(x, y) ⇒ ∃xP(x, b) ⇒ ∃x∃yP(x, y).
 (2) ∀x∀yP(x, y) ⇒ ∀yP(a, y) ⇒ P(a, b) ⇒ ∃x∃yP(x, y).
 (3) ∀x∀yP(x, y) ⇒ P(a, b) ⇒ ∃x∃yP(x, y).
 (4) ∀x∀yP(x, y) ⇒ ∀xP(x, b) ⇒ P(a, b) ⇒ ∃x∃yP(x, y).
 (5) ∀x∀yP(x, y) ⇒ ∀xp(x, b) ⇒ ∀x∃yP(x, y) ⇒ ∃yP(a, y) ⇒ ∃x∃yP(x, y).

 端的に言えば、以下のような論理法則が成立する。

 (1) ∀x∀yP(x, y) ⇒ ∃x∀yP(x, y).
 (2) ∀x∀yP(x, y) ⇒ ∀x∃yP(x, y).
 (3) ∃x∀yP(x, y) ⇒ ∃x∃yP(x, y).
 (4) ∀x∃yP(x, y) ⇒ ∃x∃yP(x, y).
 したがって、∀x∀yP(x, y) ⇒ ∃x∃yP(x, y).

 論理否定をとれば、

 (1) ¬{∀x∀yP(x, y)} ≡ ∃x∃y¬P(x, y).
 (2) ¬{∃x∀yP(x, y)} ≡ ∀x∃y¬P(x, y).
 (3) ¬{∀x∃yP(x, y)} ≡ ∃x∀y¬P(x, y).
 (4) ¬{∃x∃yP(x, y)} ≡ ∀x∀y¬P(x, y).

 すべての量化記号を論理式の外側に (冠頭に) 置くことができる。
 たとえば、¬∀xP(x) を ∃x¬P(x) とすることができるし、A∧∀xP(x) を ∀x{A∧P(x)} とすることができる。
 また、A ⇒ ∀xP(x) を ∀x{A ⇒ P(x)} とすることができる。
 (ただし、以上の例では、いずれも、A は自由変項をふくまない)。
 すべての量化記号が冠頭にある形の論理式を 「冠頭標準形」 という。「冠頭標準形」 は、数学の証明のなかで、多々、使われる [ 例えば、ヒルベルト・アッケルマン の 「数学の基礎」 を読んでみてほしい ]。

 論理否定では、量化記号 (∀ と ∃) が逆になると覚えておけばよいのだが、証明の考えかたは、全称の否定と存在の否定を、それぞれ、ひとつずつ、繰り返せばよい (前回の 「全称化」 と 「存在化」 を思い出してほしい)。
 たとえば、¬{∃x∀yP(x, y)} ≡ ∀x{¬∀yP(x, y)} ≡ ∀x∃y¬P(x, y).

 以上の推論は、(「単称化」 と 「存在化」 の論理法則を知らなくても、直感的に感知できる) 当然と言えば当然の推論だが、数学では、記号列を操作して飛躍のない推論をしなければならない。
 逆に言えば、以上の推論の操作がわかれば、述語論理の記号列を読むことができる。実は、そうなってほしいことが本稿の狙いであった (笑)。そういうふうな技術を習得すれば、数学 (数学基礎論) の論文や本を読むときに、怖じ気を感じることがなくなる。

 そういう記号列の操作技術を習得しなければ、「原典」 を直接に読むことができないから、常に、他人から解説してもらって初めて、「原典のおおざっぱな考えかた」 を感じることができる、というように後塵を拝するしかないし、「原典」 を自ら正確に解析することができない。したがって、他人の作った方法を上手に使いこなすことができても、所詮、真似事に過ぎない。
 次の世代の人々は、「原典」 を読んで、それを、さらに、一歩進めなければならない。百尺竿頭一歩進。

 次回は、記号操作の応用問題 (例題) を扱ってみる。□

 



[ 補遺 ] (2007年 5月 1日)

 「量化の論理法則」 を知っていなければならないと私が痛切に感じたのは、(本 エッセー のなかで言及しましたが、) 「数学の基礎 (ヒルベルト・アッケルマン 共著)」 を読んだときでした。この書物では、「冠頭標準形」 を まず 作って、それから 「冠頭」 の量化を外しながら、有限回の演算のなかで 「メタ 数学」 を証明しようとした書物です。いくつかの証明はできているのですが、すべての式が そういうふうに証明できた訳ではないし、時を同じくして、ゲーデル が 「不完全性定理」 を証明したので、ヒルベルト の狙いが実現できないことが証明されました。ちなみに、私は、この書物 (「数学の基礎」) を読んでみて、いくつか理解できない点 (証明を追跡できない点) が いまだ 残っています。

 ただ、この書物 (「数学の基礎」) は、私のような数学の シロート が 「量化の論理法則」 を 「実地に」 学習するためには役立つ書物だと思います。実際、私は、この書物のほかに、「量化の論理法則」 を 「本式に」 学習した書物を知らない (ブール 代数や ド・モルガン の法則は、ほかの書物を読んでも、しょっちゅう 使いますが)。「数学の基礎」 は、数学の シロート にとって、毛頭、読みやすい書物ではないのですが、量化の考えかた (「全称化」 「存在化」 および 「単称化」) を学習するために、豊富な証明式が示されているので、もし、「本気で」 数学 (数学基礎論) を学習しようと思うのであれば、ぜひとも、読んでみて下さい。




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