2002年 6月15日 作成 述語の述語 >> 目次 (テーマ ごと)
2007年 8月16日 補遺  


 
 さて、今回は、「述語の述語 (性質の性質)」 を扱ってみましょう。

 F (P) を考えてみましょう。この形式は、述語 F は性質 P をもつ、という意味です。たとえば、F を 「2項関係 [ aRb ] という性質」 として、P を 「対称性という性質」 とすれば、F (P) は、「2項関係の中には対称性がある」 となります。

 さて、(素朴集合論の パラドックス となった) 「自己言及」 を扱ってみましょう。
 つまり、F (F) として、「自己自身を言及する」 は成立するか、という点を扱ってみましょう。
 以下の 3つの 「述語」 を例にします。

  (1) f (a) 佐藤敦は小学生である。
  (2) F (a) 佐藤敦は生徒である。
  (3)φ (f) 小学生は生徒である。

 では、φ (F) は意味があるか。つまり、「生徒であるは生徒である性質をもつ」 は意味があるか。
 これを避けるために、ラッセル は タイプ 理論のなかに 「タイプ 間の代入規則」 を導入しました (「ベーシックス」 28ページを参照してください)。

 「ラッセル の パラドックス」 を 「述語的と非述語的」 という観点から--排中律が成立して、「真」 と 「偽」 が判断しやすい観点から--扱ってみましょう。以下の 4つの式を前提にします。

  (1) F (F)  述語になり得る性質は、述語になり得る。
  (2) F (¬F) 述語になり得ない性質は、述語になり得る。
  (3) ¬F (F) 述語になり得る性質は、述語になり得ない。
  (4) 排中律  F ∨ ¬F (述語になり得るか、述語になり得ないか、どちらかである。)

 「排中律を前提にして」、以下の 2つの式を検証しましょう。

  (1) F (¬F) ⇒ ¬F (F).
  (2) ¬F (F) ⇒ F (¬F).

 F (¬F) の排中律をとれば、¬F (F) になります。
 とすれば、F (¬F) が成立するならば、(そして、そのときにかぎって) 「排中律として」 ¬F (F) が成立するから、(1) の式が成立します。逆の (2) も同じように構成できます。
 したがって、(1) と (2) の両方の式を作成することができます。

 さて、(1) は以下のような同値の形をとることができます (p ⇒ q ≡ ¬p ∨ q を思い出してください)。

  F (¬F) ⇒ ¬F (F) ≡ ¬ { F (¬F) } ∨ ¬F (F).

 さて、もし、F (¬F) が 「真」 であれば、¬{ F (¬F) } は 「偽」 になって、¬F (F) が 「真」 になります (「真理値表」 を使って検証してみてください)。とすれば、F (¬F) と ¬F (F) が両立してしまいます

 同じようにして、(2) は以下のような同値の形をとることができます。

  ¬F (F) ⇒ F (¬F) ≡ ¬{ ¬F (F) } ∨ F (¬F).

 さて、もし、¬F (F) が 「真」 であれば、¬{ ¬F (F) } は 「偽」 になって、F (¬F) が 「真」 になります (「真理値表」 を使って検証してみてください)。とすれば、¬F (F) と F (¬F) が両立してしまいます

 以上から判断して、いずれも、矛盾になります。

 「自己言及」 型の矛盾を 「排中律が成立するようにして、述語的と非述語的という観点から」 扱ってみたのですが、無限という規約のなかで、排中律が成立するかどうか、という点は大きな論点になります。
 そのために、推論では、排中律を使わない推論が提示されています (端的には、NK と NJ を思い出してください)。

 なお、「自己言及」 型の類例は、ほかにも、以下のような例があります。

  (1) 私は嘘を言っている。
  (2) この文は嘘である。
  (3) 「クレタ 人は嘘つきである」 と クレタ 人が言った。
  (4) すべての蔵書を記載した図書目録は、目録自身を記載するのか。

 あるいは、「自己言及」 型が 2つの間で反射する以下の例もあります。

   夫婦喧嘩の例、
     恵美子 「正美さんは嘘つきです。」
     正美   「恵美子は正直だ。」

 (この夫婦喧嘩は、あくまで、仮想なので、我が家の喧嘩だとは思わないでください--笑)

 次回は、「集合と排中律」 を扱ってみます。 □

 



[ 補遺 ] (2007年 8月16日)

 ラムジー によれば、パラドックス には 「意味論的な」 ものと 「論理的な」 ものがあります。「論理的な」 パラドックス の代表的な例が、「 ラッセル の パラドックス (集合論の パラドックス、w ∈ w )」 です。「意味論的な」 パラドックス の代表的な例が 「嘘つきの パラドックス」 [「クレタ 人は嘘つきである」 と クレタ 人が 言った。] です。

 本 エッセー のなかで、「『述語的』 と 『非述語的』」 という性質と 「排中律」 を使って、「述語の述語」 を検証してみたのですが、なんだか、「騙されているような感じ」 を覚えるかもしれないですね (笑)。

 本 エッセー で言いたかった点は、もし、F (P) として、「w ∈ w」 を認めたら、以下のいずれの推論も、(2値論理のなかでは、) 形式上、「真」 になってしまう (パラドックス になってしまう)、という点です。言い換えれば、パラドックス となるような文を作ることができる、ということです。

  (1) F (¬F) ⇒ ¬F (F).
  (2) ¬F (F) ⇒ F (¬F).

 ラッセル の証明では、パラドックス のなかで、「( w ∈ w ) ←→ ¬ ( w ∈ w )」 という推論が真になることを示しています。そのために、ラッセル は、タイプ のなかで、代入規則 [ タイプ n の代入は、タイプ (n − 1) から ] を導入しました (同一階での代入を認めない)。すなわち、「w ∈ w」 は文法違反だけれど、「w ∈ { w }」 は文法である、ということです。

 タルスキー は、2値論理を前提にして、「真理」 の定義文 ('p' が真であるのは、p のときに限る) を提示しました (本 ホームページ 「ページ 一覧」 で、40ページ を参照されたい)。「真理論」 を学習するのであれば、まず、以下の書物を読んで、「真理論」 の全体像を学習して下さい。

   「現代真理論の系譜 (ゲーデル、タルスキ から クリプキ へ)」、山岡謁郎、海鳴社。




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