2002年12月16日 作成 整列定理と選択公理 >> 目次 (テーマ ごと)
2008年 2月 1日 補遺  


 
 今回は、「整列定理と選択公理」 について述べる。

 
 無限序数として ω=Ord (N) を考える。
 ω の次を ω+1、その次を ω+2 としていけば、序数の系列は以下のように無限に続く。

 0, 1, 2, ・・・, ω+1, ω+2, ・・・

 さて、整列整数 X の切片全体 (X も含むとする) を Xとすれば、以下の式が成立する。

 Ord (X) < Ord (X).

 序数の系列が、どれほど続いても、基数としては、いずれも Ord (N) でしかない (N は自然数の全体とする)。
 とすれば、基数としての集合が系列化できるかどうか──つまり、整列集合にできるかどうか──、という点が論点になるが、「任意の集合は整列できる」 (ツェルメロ の整列定理)。

 任意の集合をとるには、1つを選んで、さらに、他の集合を次に選ぶという操作をしなければならないが、「選択公理」 というのは、「集合族 Xaについて、xa ∈ Xa を選ぶことができる」 という公理である。
 単純に言いきってしまえば、「(空集合でない複数の集合群のなかから、それぞれ、1つずつの メンバー を選んで並べたら、選んで並べた メンバー の集まりも集合になる」 ということである。
 つまり、整列定理が成立するには、選択公理が可能である、ということが前提になっている。
 したがって、整列定理があれば、基数には序数が対応するから、基数の集合は整列集合である。

 ちなみに、それぞれの セット (あるいは、domain) から 1つの メンバー を選んで並べた集合のことを 「tuple (集合)」 と いう。この点については、リレーショナル・データベース の根底の理論となっている直積集合 (セット・アット・ア・タイム法) をご存じの人たちは周知のことと思う。

 R = { s1, s2, ・・・, sn | s1 ∈ X1, s2 ∈ X2, ・・・, sn ∈ Xn ∧ P ( s1, s2, ・・・, sn ) }.

 (s1, s2, ・・・, sn) が 「tuple (集合)」 である (ちなみに、P は、「帰納的述語」 である)。
 つまり、relation (関係) とは、tuple (整列集合) を生成する関数である。

 

[ 補遺 ] (2008年 2月 1日)

 数学上、正確に言えば、「関係」 と 「関数」 は違う概念です (120ページ を参照して下さい)。
 さて、本 エッセー で述べた 「整列定理と選択公理」 は、「集合」 の観点からいえば、以下の順で証明されます。

   「選択公理」 ←→ 「整列定理」 → 「整列集合」

 集合 M の (空集合でない) 任意の部分集合を N とするとき、N にふくまれる一つの 元 (メンバー) を選んで、N の代表元とします。

 「選択公理」 (「ツェルメロ の公理」 とも云います) とは、「任意の集合は、そのすべての部分集合 (集合族)──ただし、空集合でない──に、それぞれの代表元を同時に対応させることができる」 という公理です。「対応させることができる」 という意味は、関数 f を考えることができる、ということです。すなわち、集合 X の集合族 A において、A に属するそれぞれの部分集合 a に対して、a に属する元 f (a) を一意に対応させる関数 f: A → X が存在するということです。この関数のことを 「選択関数 (choice function)」 と云います。言い換えれば、「空集合を元としない集合族 A に対して、A の選択関数が存在する」 という命題のことを 「選択公理」 と云います。この公理が 「整列定理」 を証明するのに用いられました。

 「整列定理」 とは、「任意の集合は、その元のあいだに適当な順序を定義すれば、整列集合となる」 という定理です。逆に言えば、「整列定理」 を仮定すれば、選択公理を証明することができる、ということです。

 「整列集合」 (well-ordered set) とは、M を全順序集合とし、M の (空集合でない) どんな部分集合も、かならず、最初の元をもつとき、M を整列集合と云います。

 以上の説明を理解できれば、「選択公理」 で得られる 「整列集合」 は、以下の 2つと同値であることも理解できるでしょう。

 (1) 直積集合 (direct product)
 (2) 直和集合 (direct sum)

 A を添数集合とする集合族──添数 (suffix) とは、aij における i, j のような数字のことをいい、たとえば、行列 ( a11, a12, ・・・, a21, a22, ・・・) などで用いられますが── { Aλ } (λ ∈ A ) において、すべての λ ∈ A に対して、Aλ ≠ φ ならば、直積集合 ΠAλ ≠ φ です。

 集合 A が部分集合の族 { Aλ } (λ ∈ A ) の直和 A = ΣAλであるとき、Aλとちょうど一つの元を共通にもつ A の部分集合が存在します。この部分集合を 「選択集合 (choice set)」 と云います。言い換えれば、それぞれの部分集合 Aλには、順序が定められていて、a, b ∈ A に対して、a, b ∈ Aλとなる λ ∈ Λ があって、Aλにおける順序が a ≦ b であるとき、この順序集合 A は、順序集合の族 { Aλ } ( λ ∈ A ) の 「直和」 と云います。同じように、直積集合 P = ΠAλ( λ ∈ A ) で、ふたつの元 ( aλ) ( bλ) に対して、任意の λ ∈ A に関して、aλ ≦ bλ であるとき、直積集合 P は、順序集合の族 { Aλ } ( λ ∈ A ) の 「直積順序集合 (direct product ordered set)」 と云います。

 コッド 関係 モデル では、セット のなかの メンバー は、順序集合 (整列集合) になりますが、その直積は、かならずしも、直積順序集合にはならないでしょうね。  




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