貪欲、野心、贅沢は、苦患のなかに数えられてはいないが、明らかに狂気の一種なのである。

　　一事を必ずなさむと思はば、他の事の破るをもいたむべからず。人のあざけりをも恥づべからず。
　　万事にかへずしては、一つの大事成るべからず。

　　一貫して変わらない目的を持つことだけでは、人生を幸福にする訳にはいかないのかもしれない。しかし、そういう目的は、多くの場合、幸福な人生を送るための不可欠な条件の１つである。そして、一貫して変わらない目的が、具体的に実現されるのは、主として、仕事によってである。

　　農民は美術品をつくろうと思って農具や土器をつくったわけではない。しかし、二、三百年もたてば、それが美術品のように珍重されるのは、日常の生活にむすびつき、その中でくりかえし工夫されてきたからである。そしてとくに大切な点は、役に立たなくなると、容赦なく捨てられるというきびしい運命に堪えてきたことである。

　　幸福な奴隷は、自由のもっとも憎むべき敵である。

　　一日まさりになじめば、人ほど かはいらしき者はなし。

　　人間一般を知ることは、ひとりひとりの人間を知ることより、やさしい。

　　己の感情は己の感情である。　己の思想も己の思想である。　天下に一人（いちにん）のそれを理解してくれる人がなくたって、己はそれに安んじなくてはならない。　それに安じて恬然（てんぜん）としていなくてはならない。

　　人は何も言うことがないと、いつも悪口を言う。

　　きびしい叱責の声を聞くことが稀になりつつある。教育においても、芸事においても、労働においても。その原因はおそらく熟練性の喪失にある。大量生産の傾向からは、責任ある叱責の声は起こらない。同時にそれは人間への信頼感の喪失でもある。

　　人間とは取引をする動物である。犬は骨を交換しないのだ。

　　ぼくは生まれながらの傍観者である。（略）　どんなに感興のわき立った時も、ぼくはその うずまき に身を投じて、心から楽しんだことがない。ぼくは人生の活劇の舞台にいたことはあっても、役らしい役をしたことがない。

　　人間のことを、あの人は良い人だとか、この人は悪い人だとか、そんなふうに区別するなんて、まったく馬鹿げた話ですよ。人間は魅力があるか、さもなければ退屈か、そのどちらかですからね。

　　どうか英雄とならぬように--英雄の志を起こさぬように力のないわたしをお守り下さいまし。

　　人間は、金銭を相手に暮らすのではない。人間の相手は、つねに、人間だ。

　　「思いつめる」 という心の状態なしに、思想の形成はありえない。

　　他人をあてにしてはならない...それは期待するほうが、まちがいなのだ。
　　われわれは、みんな、取るために生きているので、与えるために生きているのではないのだ。

　　人を用ふるの道は、その長所をとりて短所はかまはぬことなり。
　　長所に短所はつきてならぬもの故、短所は知るに及ばず。

　　正直とか親切とか友情とか、そんな普通の道徳を堅固に守る人こと、真の偉大な人間というべきである。

　　運命は偶然よりも必然である。「運命は性格の中にある」という言葉はけっして等閑に生まれたものではない。

　　偉人とは、死後、他人を困惑させる人間である。

　　おれなんぞの顔は閲歴がだんだんに痕を刻み付けた顔で、親に生み付けてもらった顔とは違う。

　　重大な問題の場合には、物の言いかたが美しいか美しくないかってことが大切なんです。
　　ほんとうか嘘かなんて問題じゃないんです。

　　分を知らずして強ひて励むは、おのれが誤なり。

　　好奇心は虚栄心にほかならない。多くの場合、人が知ろうとするのは、それを語らんがためにほかならない。

　　言葉多ければ口のあやまち多く、人に憎まれ、わざはひ起こる。つつしみて多く言ふべからず。

　　人は自分の持っていないものを悪く判断するものである。

　　心なしと見ゆる者も、よき一言はいふものなり。

　　人は行動する時には諸々の規則に従わなければならないが、判断を下す時には諸々の例外を考慮しなければならない。

　　伝わるということは奇蹟に近い。いかに多くのことが省略され、歪曲され、あるいは忘却されたか。伝わるということは一種の受難でもある。

　　一つも馬鹿げたことをしないで生きている人間は、かれ自身で考えているほど賢明ではない。

　　死に直面して、びくともしない名僧の話だけでは困る。死に直面して、悲歎し狼狽する 「名僧」 もいなければ凡人は救われない。

　　どんな虫っけらだって、踏みつけられりゃあ、何を！ というかっこうをするもんだ。

　　わが心　鏡にうつすものならば さこそ 姿の醜くかるべし。

　　利口になるにも スヒ゜ート゛ が肝心だ。四十歳の馬鹿は、本物の馬鹿だ。

　　いとしも、物のかたがた得たる人は難（かた）し。ただ わが心のたてつる筋をとらへて、人をばなきになすなめり。

　　もっとも激しく もっとも必然的な憎しみは、われわれが成りたいと思っているものに すでに 成っている人間に向けられる。

　　人には一に思はれずは、更になにかせん。

　　（註） 「一番でなければ、生き甲斐がない」 という意味か。それとも、「わたしのみを愛して」 という意味か。
　　　　　いずれにしても、平安時代に、こういう考えかたをしていた女性は、すごい、と思う。

　　涙のなかには つねに少しばかりの見栄がまじっている。

　　世に亡くなりて後に怨残すは、常の事なり。

　　青年は教えられるより、刺激されることを欲す。

　　青年にとっては あらゆる思想が、単に おのれの行動の口実にすぎぬ。

　　私の趣味は貴族的で、私の行動は民主的である。

　　手のわろき人の、はばからず文かきちらすは、よし。見ぐるしとて、人にかかするは、うるさし。

　　食卓は祭壇の一種であって、祭の日や饗宴の日には飾らなければならない。

　　食は身をやしなふ物なり。身を養ふ物を以て、かへつて身をそこなふべからず。

　　理窟をこねるのは どんなときでも馬鹿げたことだ。まして酒に酔ったうえでの屁理窟などは問題でない。酔うために必要なのは酒で、良心の苛責や歯ぎしりではない。_（注）

　（注） 原文では、vodka （ウオツカ） になっているのですが、「酒」 にしました。

　　かたはらいたきもの、----思ふ人のいたく酔ひて、同じことしたる。