2001年 8月31日 作成 計画表の効用 >> 目次 (作成日順)
2006年11月 1日 補遺  



 TH さん、きょうは、計画表についてお話しましょう。

 「今週、私は学習を いっぱいした」と思っていても、みずから思うほど、実際には、やっていない、というのが現実のようです。意識というのは、(費やした苦労が多ければ多いほど) ものごとの結果を楽観的に想像する傾向が強いようです。そして、われわれは、書物を少し読だら、なんでも知っているのだという錯覚を起こしやすいようです。

 そういう錯覚を避けるためには、計画と実績を記録すればよいでしょう。ところが、計画を作成するとき、われわれは、みずからの能力を過信して、(実現できそうもないような) 盛り沢山の計画を作成してしまう傾向にあるようです。

 そこで、学習の計画を作成する前に、自分が、どういうふうに日々を過ごしているか、という実態を調査してみればよいでしょう。実態を調査するには、2週間ほど、日々、実際にやった行動を記録してみてください (記録するために取り立てて準備などしないで、なにかの行動をするたびに、手帳のなかに メモ 書きとして--時刻と、なにをしたか、を--書き込んでいけばいい)。その記録を眺めてみれば、(睡眠時間、食事時間、通勤時間、仕事の時間などを控除すれば) 「空き時間」 が意外と少ないことに気づくでしょう。そして、その 「空き時間」 は、ときどき、「つきあい」 に費やされることも多い--友達や恋人や家族といっしょに過ごす愉しい 「ついあい」 もあれば、集団の行事などのような義理の 「つきあい」 もある。
 とすれば、みずからの自由になる 「空き時間」 というのは、ほとんど、ない。その 「ほとんどない空き時間」 を使って、学習しなければならないのですから、学習は、(みずから捗っていると感じるほどには) 捗らない、というのが厳しい現実です。だから、学習を効率的にやるための 「学習のしかた」 などという書物が多く出版されているのでしょうね。
 しかし、学習というのは、その性質において、はかばかしい効率を期待できる代物ではない。ほんとうの学習には、速効はない。学習は地道に堆積して、習得したことを醸成するしかない。

 とすれば、実際に学習した時間を数え、「わかったこと」 と 「わからなかった」 ことを区別するようにして、「わかった」 ことを堆積して醸成し、「わからなかった」 ことを、さらに調べて咀嚼していけばよい。それをやるための手段が年間計画表と月間計画表です。そして、みずからの人生を漂流させないためにも、生涯計画表を用意しておけばよいでしょう。
 計画表は、生涯計画表と年間計画表と月間計画表の 3つを作成すればいいのですが、計画表が 「緻密」 になったら--計画表は実践のための下書きなのですから--本末転倒になってしまうので、計画表は、作成するために、取り立てて用意がいらないような 「単純な」 形式にすべきでしょうね。

 次回は、「生涯計画表の作りかた」 について説明します。□

 



[ 補遺 ] (2006年11月 1日)

 計画表の効用は、「みずからの人生を漂流させない」 という一言に尽きるでしょう。

 計画表を作成するときに注意しなければならない点は、逆説に聞こえるかもしれないのですが、「すばらしい計画を作成しない」 という点です。というのは、計画は、あくまで、実践のための下書きですから、「整理のための整理」 に陥らないようにしなければならないでしょうね。
 計画表は、以下の 2点を重視して作成するのがいいでしょう。

  (1) なに を しなければならないのか。
  (2) いつ やらなければならないのか。

 われわれは、生活のなかで、仕事とか家事とか趣味とか複数の営みに従事しています。そして、それぞれの営みのなかで、やらなければならないことや やりたいこと があります。しかも、1日は 24時間という限りがあるし、われわれが 1日のなかで注ぐことのできる労力にも限りがあります。したがって、それらの やらなければならないこと・やりたいこと を調整するのが計画表です。一言でいえば、計画というのは、やならければならないこと・やりたいこと の priority (優先度) を考えることでしょうね。そして、priority を考えたら、次に、capacity (労力) を考慮します。

 本文のなかに綴ってあるように、「(睡眠時間、食事時間、通勤時間、仕事の時間などを控除すれば) 『空き時間』 が意外と少ない」。その 「ほとんどない空き時間」 を使って、学習しなければならないのだから、すでに計画されている仕事・家事・つきあい の量に上積みする学習の量は、capacity を計画しなければならないでしょう。そして、capacity 計画では、「負荷 (workload)」 を できるかぎり平準化します。すなわち、overload や underload にならないように、労力を適切に配分するのが capacity 計画です。

 つまり、計画では、以下の 2点が配慮されていなければならない。

  (1) priority
  (2) capacity

 この 2点さえ配慮していれば、「無理な」 計画にはならないでしょう。そして、この 2点さえ考慮していれば、「凝った」 計画にはならないでしょう。そして、計画を作成したら、進捗を管理すればいい。

 私は、かつて、「学習のしかた」 とか 「計画の作りかた」 という書物を 多数 読んだことがありますが、記述されていた やりかた は、ほとんどが 「凝った」 手法ばかりで、いざ、計画表を作成しようと思っても、「整理のための整理」 に陥って、役に立たなかった。計画では、priotiry と capacity と進捗管理が大切であることを教えてくれたのは、「生産管理 (MRP U)」 の書物でした。MRP U (Manufacturing Resource Planning) は、製造計画 (マスター・プラン) を起点にした 「資材の計画・生産力の計画」 です (スケジュール・システム です)。

 計画表を長期・中期・短期という期間に対応してみれば、長期用が生涯計画表で、中期用が年間計画表で、短期用が月間計画表でしょうね--月間計画表は、1日を単位にして 1ヶ月を対象にしているので、週間計画表・日課表を包摂しています。

 計画表は、みずからの人生を漂流させないためにも作成したほうが良いのですが、ただし、くれぐれも、「ぎっしりと いっぱいにつまった空虚な」 計画表を作らないように注意してください。計画表に記述されていることを実現しなければ、計画は 「画餅」 にすぎない。小林秀雄氏 (文芸評論家) は、以下の文を遺している (「文科の学生諸君へ」)。

   ある人の全集を読むという必要を僕は学生諸君に常に説いている。何を読んだらいいかと聞かれると、
   返答に窮するから、答えの代わりに、15円もって神田の古本屋に行ってトルストイ全集を買ってきて
   半年ばかり何も読まずに読んで見たまえと答える。幾人かの人に同じことを答えたが、実行した人は
   一人もいない。どうせ何を読んでも不安なのだから、道を打開するためにそういう努力をしてみること
   は絶対に必要なのである。ところが読まぬうちに、読んだところでさてどうなるかと考えこんでしまう
   らしい。読んでみなければ何を得するかは決してわかるものではない。わかるような気がするのも、
   トルストイを装う術を心得ているからである。(...)文学によって育てられたものを装う習性は、この世は、
   実際にやってみなければわからぬ事物だけで成り立っている、という偉大な真理を忘れさせてしまう。

   (注、赤文字化は小生が加えた装飾です。)

 この論旨は、「計画」 にも当てはまるでしょうね。




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  佐藤正美の問わず語り