2002年 1月15日 作成 問題意識 >> 目次 (作成日順)
2007年 3月 1日 補遺  



 TH さん、きょうは、「問題意識」 について、お話しましょう。

 ヒルベルト (数学者) 曰く、「問題が正しく立てられれば、それはすでになかば解かれたのである」。

 数学では 「well-defined」 という言いかたをしますが、実社会 (仕事) でも、「問題 (テーマ)」 を形成することが最大に難しい点でしょうね。英語では 「problem」 と 「issue」 という単語がありますが、「problem」 は、すでに、はっきりと体得できる問題点として起こっている事象であり、「issue」 は、(感度が強ければ) 感知できる、いまだ、はっきりと形になっていない潜在的な問題点 (point in question) です。

 そうだとすれば、事象が 「issue」 の段階にあるときに、ソリューション を早めに用意できるかどうか、ということが ビジネス の秘訣でしょう。次の言いかたは逆説のように響きますが、それが ビジネス をやるなかで大きな能力であることは疑いないでしょう。「自ら問題を設定して、(他の人々に比べて早めに) ソリューション を提示する」。

 さて、ここで、大きな論点になるのは、以下の 2点でしょう。

 (1) どうやって 「issue」 を感知するのか。
 (2) どうやって 「issue」 を具体的な問題点として形にするのか。

 (1) は、昔から、「問題意識を抱きなさい」 とか 「仕事は自ら探しなさい」 というふうに言われてきましたが、「問題意識を抱きなさい」 とか 「仕事は自ら探しなさい」 と言われて、「はい」 と返事できるほどに、そういう意識は、いったい、どういう意識なのか、ということが、全然、わからない (苦笑)。「問題意識を抱きなさい」 と言われて、「はい、問題意識を抱きました」 と返事したら、「では、その意識を私に見せてください (show me)」 と言われたら困るでしょう (笑)。

 経営学 (あるいは、マーケティング) では、組織経営の目的は 「市場の変化に対応しながら、新たな ビジネスチャンス (収益獲得) を得る」 ということが大きな目的になっていますが、マーケット を 「既存の マーケット」 と 「新規の マーケット」 というふうに区分するなら、「issue」 を感知する能力を養うことは、そうそう、むずかしいことではない。
 以下の 2点を訓練すればいいでしょう。

 (1) 「既存」 に対して、「alternatives (代替案)」 を 3つ考えてみる。
 (2) 「新規」 (変化) に対して、(既存との) 「ズレ」 (相違点) を列挙してみる。

 「alternatives を 3つ考える」 ことも 「相違点を列挙する」 ことも、いずれも、具体的な行為です。「show me」 と言われたら、提示できる具体的な記述です。「alternatives」 の単純な例を言えば、音楽を聴くなら、「生の」 演奏会で聴いたり 家の ステレオセット を使って聴いたりする以外にも、歩きながら聴くこともできれば、ネット から ダウンロード して聴くこともできます。ほかの例として、日本の今までの制度会計と国際会計基準との 「ズレ(相違点)」 を列挙してみれば--大きな ズレ は、「連結」 や 「税効果」 や 「キャッシュフロー」 や 「時価会計 (時価主義会計ではない)」 などの導入を列挙できますが--、それらの ズレ (相違点) が起こった理由を、いわゆる 「日本的経営」と呼ばれる経営の根本的なやりかたまで遡及することができるでしょう。

 次回は、問題点 (issue) が はっきりとした形に彫塑された後に、ソリューション を探す準備 (資料を集める、資料を読む) についてお話しましょう。□

 



[ 補遺 ] (2007年 3月 1日)

 「着想を図として まとめる (図解する) 技術」 を学習するために、私は、多数の書物を読みましたが、以下の 2冊を お薦めします。これらの書物は、版が古いので、もう、絶版になってしるかもしれないのですが、、、。

  企画・発想の醸成技法 ビジネス・プランニング、生田哲雄、東洋経済新報社
  「企画書」 の書き方 事典、村山涼一著、学習研究社

 これらの書物で示されている図は、プレゼンテーション 用の ソフトウェア (たとえば、PowerPoint など) を使うひとには非常に役立つでしょう。ただ、私は、見よい図を作るのが煩わしいので、これらの書物を読みましたが、ついに、単純な 「テーブル 便覧法」 (162 ページ 参照) しか使っていない。そして、着想を醸成する やりかた として、私は、「系統樹」 を使っています (186 ページ 参照)。
 それでも、上述した 2冊を 「図解を学ぶ」 書物として お薦めします。図解に関して学ぶ点の多い書物です。

 さて、「alternatives を 3つ考える」 ことは、(本 エッセー では、あっさりと言い切っていますが、) じつは、非常に難しい。というのは、alternatives を考えるためには、(issue の潜んだ) 検討対象--たとえば、その性質とか、その構造など--を 「正確に」 知っていなければならないから。alternatives を考えるためには、(「佐藤正美の問わず語り」 の) 「論証表の作りかた」 (82 ページ) のなかで述べた文を使えば、以下の 2点を知っていなければならないでしょう。(なお、文中の a problem を an issue に読み替えて下さい。)

  (1)That a problem exists.
  (2)Why a problem exists.

 そして、それらを前提にして、ソリューション として、以下の 2点を示さなければならない。

  (1)That a solution exists.
  (2)Why the solution works.

 そして、ソリューション として、alternatives を 3つ示さなければならない。alternatives のなかから、実現性・有効性が一番に高い案が選ばれるかもしれないし、onmidirectional な観点に立って、alternatives のすべてが選ばれるかもしれない。

 これらの プロセス のなかで、一番に難しい点が、(issue の潜んだ) 検討対象--たとえば、その性質とか、その構造など--を 「正確に」 知るという点です。そのために、対象を詳細に 「調査」 しなければならない。対象を詳細に調査する裕りがないのであれば、調査の代用として、alternatives を考えば良いでしょう。すなわち、「他の やりかた はないのか」 工夫すればよい。そして、「他の やりかた」 として、3つの やりかた を考えれば良いでしょう。




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  佐藤正美の問わず語り