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2007年 4月16日 補遺  



 TH さん、きょうは、「原論」 について お話しましょう。
 或る領域を専門とする人が、他の領域を勉強するとき、他の領域の専門家と比べて圧倒的に及ばない点は、以下の 2点でしょう。

 (1) 参考文献の読書量
 (2) 一次 データ の質と量

 プロ と アマチュア との間には越えられない (いくつもの) 山々があるのだけれど、その山の一つが 「一次 データ」 (あるいは、一次 データ を生成する原 データ) の入手です。その データ の質および量では、日々、その領域のなかに身を直に置いている プロ とその領域の外側にいる アマチュア では、雲泥の相違がある。

 もとより、或る領域の専門家が、他の領域の知識について、他の領域の プロ と同じ知識量を体得するという無謀なことを考えている訳ではないので、自らの専門知識を使う際に (できうる限り効果的・効率的な使いかたをしたいので) 他の領域の知識を学習するというのが狙いでしょう。

 とすれば、他の領域について記述されている 「入門書」 を数冊ほど読んで得られた知識では役に立たない。そうかといって、他の領域の専門家がこなしてきた読書量と同じ量は読書できない。多量の キーワード を知っているという入門段階以上の知識を習得するには、どうすれば良いか、という点が論点になるでしょう。

 それぞれの領域には 「通論」 が承認されているので、「通論」 を形成 (体系化) している (それぞれの領域の 「モノの見かた」 の) 「型」 があるようです。とすれば、その 「型」 を学習すれば、多量の キーワード を貫き通す 「logical thread (論理の糸)」 を掴むことができ、多量の キーワード が断片的な堆積として終わることはないでしょう。その 「型」 を記述した書物が 「原論」 と呼ばれている書物です

 多量の文献のなかから 「原論」 の書物を探すこと自体が、(多量の読書のなかで探すしかないので) そうとうにむずかしいことなのですが、以下の書物をお薦めします。

 (1) 経営学では、山本安次郎・加藤勝康 著、「経営学原論」 (文眞堂)
 (2) 会計学では、新井清光 著 (加古宜一 増補改訂)、「新版 財務会計論」 (中央経済社)
 (3) 生産管理では、オリヴァ W. ワイト 著 (吉谷龍一 訳)、「MRP による生産管理」 (日刊工業新聞社)
 (4) 数学 (数学基礎論)では、
   (4)-1 廣瀬 健 著、「数学・基礎の基礎」 (海鳴社)
   (4)-2 前原昭二 著、「記号論理入門」 (日本評論社)
   (4)-3 田中一之 著、「数の体系と超準 モデル」 (裳華房)
 (5) 古文 (日本古典文学) では、小西甚一 著、「古文研究法」 (洛陽社)
 (6) 英語では、
   (6)-1 篠田義明 著、「工業英語の語法」 (研究社出版)
   (6)-2 最所フミ 著、「日英語表現辞典」 (研究社出版)
   (6)-3 松本道弘 著、「考える英語」 (朝日出版社)

 以上の書物は、それぞれの領域の 「考えかた」 を理解するには非常に 「わかりやすい」 書物なのですが、「通俗的な意味では」 かならずしも 「読みやすい」 書物ではない。でも、それぞれの領域の第一級の プロ たちがそれぞれの領域の体系を提示してくれている (あるいは、「モノの考えかた」 を提示してくれている) ので、一読に値する書物です。苦労しながら読んだら、なにかを得ることができる書物です
 さあ、TH さん、以上の書物を読んで、自らの FOR (Frame of Reference) を拡大しましょう。□

 



[ 補遺 ] (2007年 4月16日)

 「原論」 という ことば を聞けば、私は、ユークリッド が著した 「Stoicheia (ストイケイア)」 を、まず、思い起こします。「Stoicheia」 は、「原本」 とか 「原論」 と訳されていて、幾何学の記述が多いので、「幾何学原本」 とも云われているようです。Stoicheia という用語は、英語の elements に対応する ギリシア 語だそうです。
 「Stoicheia」 は、数学の書物ですが、そのなかで示された論証法は、専門家によれば、論理体系の見本を初めて示して、後世に与えた影響は、数学だけにとどまらず、西洋文化に広く多大な影響を与えたそうです。すなわち、「Stoicheia」 では、論理体系は、定義・公準・公理を前提にして、論証によって結論を導く形式で記述されている、という点が特徴です。

 ただ、私は、本 エッセー では、「原論」 という意味を、もっと、ゆるやかに・おおまかに考えています。ひょっとしたら、私は、本来の意味 (根本となる理論を論じたもの) を転用して、「真髄」 に近い意味で使っているかもしれない。

 一介の システム・エンジニア (私) が、それぞれの学問領域の 「原論」 を云々できる才識をもっているはずもないので、本 エッセー で 「『原論』 の書物」 として選んだ理由は、以下の諸点を考慮しました。

 (1) 考究の対象は、「説」 を提示できるほどに広い範囲である。
 (2) ひとつの理論体系として まとまっている (「全体と個」 が調和して一貫性がある)。
 (3) その理論体系は、個々の事実を統一的に説明できる。
 (4) その理論体系は、独自の視点を示している。

 本 エッセー のなかで記載した 「原論」 の書物を読む前に、(それぞれの領域の) 入門書を、まず、数冊 (3冊から 5冊ほど) 読んだほうが良いでしょう。言い換えれば、まず、入門書を 数冊 読んでから、「原論」 の書物を読んで下さい。それぞれの領域について、なんら知識のないひとが、「原論」 を いきなり読んでも、その中身を--そして、「原論」 が示している 「視点・考えかた」 を--理解できないでしょうから。




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  佐藤正美の問わず語り