2003年 6月16日 作成 民俗学 (冠婚葬祭、性風俗) >> 目次 (作成日順)
2007年11月16日 更新  



 「冠婚葬祭・性風俗」 を扱った概説書を紹介します。

 



[ 読みかた ] (2007年11月16日)

 民俗学の資料は、だいたい、以下のように分類されるそうです。(参考)

 1. 経済人的生活伝承
  (1) 基本伝承 (衣・食・住)
  (2) 取財的伝承 (産業・労働・交通運搬・交易)

 2. 社会人的生活伝承
  (1) 社会存在的伝承 (村構成・家構成・組連合・年齢階級)
  (2) 社会形成的伝承 (誕生・成年・婚姻・葬制度--人生儀礼--)

 3. 文化人的生活伝承
  (1) 知識的文化伝承 (命名・言葉・躾・技術・伝説・医療--教育--)
  (2) 厚生的文化伝承 (年中行事・昔話・語り物・民謡、舞踏・競技--芸能--)
  (3) 倫理的文化伝承 (社交・贈与・村制裁--法制)

 さて、「冠婚葬祭・性風俗」 は、上記の分類のなかの 「社会的生活伝承」 すなわち、社会の存在・形成にかかわる テーマ です。どうして、こういう分類を示したかと言えば、「冠婚葬祭・性風俗」 には、つねに--特に、鎌倉時代以後、昭和 30年くらいまで--、「家」 制度が強く関与しているからです。民俗学のほうでは、家族の様相全体を 「家」 として把握して継承・相続の様を重視しているようですが、社会学のほうでは、「家」 を、もっと狭い意味で考えて、家父長的な家族制度として捉えているようです。

 性風俗を婚姻史のなかで観てみると、以下の 2つの分析指標があるようです。

  (1) 「聟 (むこ) 入り婚」 と 「嫁入り婚」
  (2) 「村内婚」 と 「村外婚」

 「聟入り婚」 は、平安時代の貴族社会で観られた婚姻で、夜、夫が妻のもとに通う (呼ばい) という通い婚の形態で、当時、それが普通の形態だったそうです。庶民も、同じ婚姻形態だったそうです。すなわち--[ この パラグラフ の記述は、「平凡社世界大百科事典」 を参考にしました ]--、夫は、仕事を終えて食事をとって、それから妻の所に通う婚姻形態です。農村・漁村では、労働力が重視されていて、その担い手である若ものは、配偶者を選ぶ際にも、自主性が強く、婚前の性交渉は タブー 視されていなかったし、男は、女性の家に通い、子どもも生まれて、男が家を継ぐか分家するかしたときに、女は子どもを連れて男の家に移るというのが、ふつうの風俗でした。貴族社会では、たとえば、男が女のいる家を知ってから、その家の知り合いを通じて文をとどけて、女が それに返事を綴り、こういう やりとり が度々くり返されて、男は女の家を訪れて、その夜に夫婦の関係をむすんで--夫婦関係が生じることもありますが--、男は翌朝帰り、女に文をとどけます [ これを 「後朝の使」 と云います ]。こういう関係が続いたあとで、初めて、女の父母が男のことを知って婚姻が成立して、吉日に、男と正式に対面します [ この対面を 「ところあらわし (露顕)」 と云います ]。貴族社会では、一夫多妻もあったようですが--本来、奈良時代には、一夫一妻制が法律できめられていたはずですが、裕福な貴族には一夫多妻の経済的ゆとりがあったのでしょうね--、庶民社会では、一夫一妻の形態で、「村内婚」 が ほとんどだったようです。

 鎌倉時代になって武士が台頭してきて、「呼ばい」 形態が消えて、「嫁入り婚」 が出てきて、室町時代には、「嫁入り婚」 の儀礼が次第に整えられてきたそうです。「聟入り婚」 では、聟入りの儀礼を主体としていましたが、「嫁入り婚」 では、嫁入りを中心にした儀礼になって、夫婦契りの盃事が重視され、仲人があいだを取り持つようになりました。婚礼の式が、どういうふうにおこなわれたのかは、史料を観てください。当夜から三ヵ日は、みな、白小袖を着て、四日目に色物の服を着ます [ これを 「色直し」 と云います ]。江戸時代には、式が終わって、色物に着替えたそうです。三日目か五日目に、「里帰り」 と云って、夫婦で里に往ったそうです。そして、武士は、家柄を選ぶ階級的内婚を重視して 「村外婚」 が多くなってきました。

 家父長的な 「家」 制度は、鎌倉時代の武家社会で生まれ、江戸時代に著しく発達した制度です。「廃絶家」 となることが タブー 視されていた時代です。明治時代の民法も、その考えかた (家父長的な 「家」 制度) を継承しましたが、太平洋戦争後の・いわゆる 「新」 民法では、その考えかたは、「制度上」、消えました。しかし、制度上、消えても、意識のうえで--および、風習のなかで--昭和 40年くらいまで、地方の社会では、家父長的な 「家」 制度が継承されていたのではないでしょうか [ いまでも、地方では、そういう意識・風習が遺っているのかもしれない ]。

 性生活の指南書として、私が中学生の頃、謝 国権 氏の 「性生活の知恵」 が広く読まれていて、大学生の頃に、奈良林 祥 氏の 「HOW TO セックス」 が ベストセラー になったことを記憶しています。いずれの書物も ベストセラー だったので、閨事に対する人々の興味の高さを伺い知ることができますね。現代人の性交の ほとんどが生殖を目的とした性行為ではないことは事実でしょうが--現代社会の 「少子化」 現象に対して、今年 (2007年)、柳沢厚生労働大臣が女性を 「生む機械」 に喩えたことが物議を醸しましたが--、「(生物学的な) 性」 の商品化や 「(社会学的な) ジェンダー」 の不平等に対して、「ウーマン・リブ」 が 1980年代に 「女性解放運動」 として起こりました。

 「誕生」 にかかわる風習は、じぶんが生まれたばかりだったので記憶にないのですが--したがって、書物で調べるほかに てだて がないのですが--、「葬式」 にかかわる風習に関して、私は、「村」 で祖父・祖母を見送ったので、子どもながらも--祖父は、私が小学生になった頃に、祖母は、その 3年後くらいに、亡くなりましたが--、「葬式」 の様を はっきりと記憶しています。当時の 「村」 には、斎場があって、喪日、棺を輿にのせて斎場に向い、輿の前には、位牌・提燈・幡・供物などを供えて、寺僧を先頭に喪主・親族・会葬者が列をつくって、鐃 (にょう) を鳴らしながら斎場に赴きました。「村」 の葬式を ここに記述すれば、長い文になるので割愛しますが、民俗学の書物に記述されているような荘厳な催事でした。私の村では、遺骸を火葬にしましたが、昭和 32年出版の 「風俗辞典」 (坂本太郎 監修、東京堂) では、「近年特に火葬が普及してきているが、なお地方ではまだ土葬が多く」 という記述があるので、土葬も ふつうだったのでしょうね。

 いまから 6年前に、父が他界したのですが、(私が小学 6年生の夏休みに、家族 [ 父・母・私・弟 ] は) 村を離れて富山市内に引っ越したので、私は、富山市内の セレモニー・ホール で葬儀を営みました。セレモニー・ホール での葬式は、村の葬式に比べて、簡略されていて、式次第も、すべて、セレモニー・ホール のほうが整えていて、私は、喪主として、ただ、ベルトコンベアー 式の手続きに従っていれば良かった。私が記憶していた 「村の葬式」 に比べて、簡略な葬儀でした。それでも、東京から参列してくださった家内の お母さんは、「地方の」 葬式の 「豪華さ」 に びっくりなさっていらした。

 私は、昔ふうに言えば、本家の跡継ぎです。村では、そうとうに大きな家に住んでいましたが、父の代に--さきほど述べましたが、私が小学 6年生の夏に--、富山市内に引っ越して、「うさぎ箱」 の家に移り住みました。個人的なことになるので、ここでは述べませんが、「家」 という制度が、私 (そして、佐藤家) に対して、そうとうな重石になっていて、私は、「家」 制度に反感を抱いて、高校生の頃から、「家」 を無視して、「自由な」 ふるまいを好むようになりました--そういう性癖が今の私の性質を形成したようです。私は、30才以後、自由奔放に生きてきて、いま住んでいる アパートも 「うさぎ箱」 のような小さな住まいです。私は、佐藤の旧家のような「家」 住まいには、毛頭、興味がない。家父長的な 「家」 が 「制度」 として消えていても、昭和 20年代くらいまで、意識のうえで、なんらかの影響を与えていたのではないでしょうか。私の弟は、「兄貴 (私のこと) と じぶんでは、家族の扱いが違っていた」 と言っていました。そういう旧習を忌み嫌った私は、じぶんの子どもたちに対して、「お兄ちゃん」 という言いかたを禁止して、かれら (3人の子どもたち) が first name でよぶあうようにしてきました。

 
(参考) 「日本民俗事典」、大塚民俗学会 編、弘文堂。





 ▼ [ 冠婚葬祭 ]

 ● 日本婚姻史、中山太郎 著、日文社

 ● 日本婚姻史、高群逸枝、至文堂

 ● 婚姻習俗語彙、柳田國男・大間知篤三 共著、国書刊行会

 ● 結婚の歴史 (日本風俗学会 編、文化風俗選書 1)、江馬 務 著、雄山閣

 ● 増補改訂 葬儀の歴史、芳賀 登 著、雄山閣歴史選書 3

 ● 日本人の葬儀、新谷尚紀、紀伊國屋書店

 ● 家の存続戦略 (歴史社会学的考察)、米村千代、勁草書房

 




 ▼ [ 性風俗 ]

 ● 風俗 性 (日本近代思想大系 23)、小木新造・態倉功夫・上野千鶴子、岩波書店

 ● 性風俗 (T〜V) [ 総括篇、生活篇、社会篇 ] (講座 日本風俗史別巻)、雄山閣

 ● 性の裁判記録、大野文雄・矢野正則 共著、酒井書店

 ● 図録 性の日本史、笠間良彦、雄山閣

 ● 古代人の性生活、根岸謙之助、近代文芸社

 ● 医心方房内 (付 原文) [ 国立国会図書館所蔵本 ]、吉田 隆 現代語訳、芳賀書店

 ● 日本性典大鑑、高橋 鐵 編纂、日本生活心理学会 刊

 ● 徳川性典大鑑、高橋 鐵 編纂、日本精神分析学会・日本生活心理学会 刊

 ● 江戸時代の性生活、西島 実 著、江戸書院

 ● 日本人の性と習俗 (民俗学上の考察)、F.S. クラウス 著、安田一郎 訳、桃源選書

 ● 日本人の性、共同通信 「現代社会と性」 委員会、文芸春秋社

 ● データブック NHK 日本人の性行動・性意識、NHK 「日本人の性」 プロジェクト 篇、NHK 出版

 ● 売笑三千年史、中山太郎 著、春陽堂版

 ● 日本遊女考、竹内 勝、ブロンズ 社

 ● 医師の性科学、押鐘 篤、学建書院

 


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