2004年 1月16日 作成 芭蕉・蕪村・西行・良寛 >> 目次 (作成日順)
2008年 6月16日 更新  


 以下に掲載する書物は、芭蕉・蕪村・西行・良寛 を、それぞれ、単独に 「研究」 しようとして所蔵しているのではなくて、文学史のなかで、日本人の 「考えかた」 を知りたいために所蔵しています。
 それが目的なので、文献を、研究のために、網羅的に収集しているのではないことを御了承ください。


[ 読みかた ] (2008年 6月16日)

 西行の歌に関して、本 ホームページ 「反 コンピュータ 的断章」 (2008年 5月 8日) のなかで、小林秀雄 氏の評論文 「西行」 を まとめてみましたので、読んでみてください。その評論文を読めば、ひとりの歌人を鑑賞するためには、歌を作られた順に跡追うのが適切だとわかるでしょう──「万事、その道を論じるには、まず その道を行った人を論じるのが早道です」 と荻生徂徠が言ったように、歌に限らず、およそ、「その道を行った人」 を理解するためには、そのひとの作品を年代順に鑑賞するのが正しい やりかた でしょうね。ちなみに、荻生徂徠 (1666年〜1728年) は松尾芭蕉 (1644年〜1694年) の 22歳年下で、芭蕉が 51歳亡くなったときに、徂徠は 29歳でした。与謝蕪村は、1716年生まれ (1783年没、享年 68歳) なので、徂徠が亡くなったとき、12歳でした。良寛は、1758年生まれ (1831年没) なので、蕪村が亡くなったときに、25歳でした。

 松尾芭蕉は、西行 (1118年〜1189年) の歌を高く評価していました──小林秀雄 氏の評論文 「西行」 のなかで、芭蕉の西行評が以下のように綴られています。

    特に表現上の新味を考案するという風な心労は、殆ど彼の知らなかったところであるまいか。即興は
    彼の技法の命であって、放胆に自在に、平凡な言葉も陳腐な語法も平気で馳駆 (ちく) した。自ら
    頼むところが深く一貫していたからである。流石に芭蕉の炯眼は、「其細き一筋」 を看破していた。
    「ただ釈阿西行のことばのみ、かりそめに云ひちらされしあだなるたはぶれごとも、あはれなる所多し」
    (許六離別詞)

 さて、芭蕉の歌跡 (作品集) を以下に一覧します。

    「三十番発句合」 (後に 「貝おほひ」 として刊行、1672年)
    「江戸両吟集」 (山口素堂といっしょに刊行、1676年)
    「江戸三吟」 (素堂らと刊行、1678年)
    「俳諧次韻」 (1681年)
    「武蔵曲 (むさしぶり)」 (1682年、「芭蕉 (はせを)」 と称するようになったのは、この頃です。)
    「虚栗 (みなしぐり)」 (1683年)
    「野ざらし紀行」 の旅、「冬の日」 (1684年)
    「春の日」 (1686年)
    「鹿島紀行」 「笈の小文」 の旅 (1687年)
    「更級紀行」 の旅 (1688年)
    「奥の細道」 の旅、「曠野 (あらの)」 (1689年)
    「ひさご」 (1690年、ほかに 俳文紀行 「幻住庵記」)
    「猿蓑 (さるみの)」 (1691年、ほかに 日記 「嵯峨日記」)
    「炭俵 (すみだわら)」 (1694年)
    「続猿蓑」 (1698年)
    「奥の細道」 (1702年刊行、実際の旅に出立した年月は、前述 1689年 3月です。)

 なお、「芭蕉七部集」 というのは、享保 17年 (1732年)、佐久間柳居 の編で、芭蕉一代の撰集のなかから、重立った七部を集めた作品集のことです──収められている撰集は、「冬の日」 「春の日」 「曠野」 「ひさご」 「猿蓑」 「炭俵」 「続猿蓑」 です。ちなみに、世上有名になった句 「古池や蛙飛びこむ水の音」 は、「春の日」 に収録されています。

 芭蕉の人生は、句 「住みつかぬ旅のこころや置火燵」 に詠まれたように、「漂白の詩人」 でした。生地は、伊賀上野です。十代の頃から俳句を作っていましたが、23歳のときに生地を離れて京都に出て、貞門・談林の俳諧 (貞門とは松永貞徳が興した俳諧作風、談林とは西山宗因が興した俳諧作風) に親しんでいました──そして、一時、北村季吟 (貞門俳人) にも師事しました。29歳のとき、江戸に下っています。江戸では、神田上水の水道工事などの仕事をして生計を立て、談林調の俳諧を詠んでいます。延宝八年 (1680年) に、杉山杉風 (すぎやまさんぷう) の助力で、深川の草庵に移り住んで、「隠者」 としての くらし をはじめました──この頃に、「詫び (わび)」 の枯淡・閑寂な美的理念を描写するために、漢詩文調の用字用語を使って、新たな句境 (いわゆる蕉風) の一歩を踏み出したとのこと。
 江戸大火で庵が焼けて、再建されたあとは、「旅人」 として生きる覚悟を強めたとのこと。貞享元年 (1684年) に 「野ざらし紀行」 の旅に出て、「詫びつくしたる詫び人」 として風狂 (風雅) に徹して以後、旅を重ねて──「鹿島紀行」 「笈の小文」 「更級紀行」 そして 「奥の細道」──、旅のなかで 「不易流行」 の思想が形成されたとのこと。「ひさご」 と 「猿蓑」 では、句境に変化があるようです。「ひさご」 までの句に比べて──すでに、蕉風と称するほどに確立された作風でしたが──、「猿蓑」 では、具体描写が強くなって、「軽み」 「さび」 「しをり」 「細み」 と評される蕉風の完成期に入ったとのこと。「猿蓑」 の有名な句を以下に転載しておきます。

    初しぐれ 猿も小蓑 (こみの) を ほしげ也 (なり)

 芭蕉の歌は、「通俗性のなかに風雅な情調 (実ありて悲しびをそふる)」 を描写したと、文芸の シロート である私が言ったら僭越になるかしら──通俗性は具体性を帯び、そして、「風雅」 というのは 「俳諧」 のことで、したがって、「俳諧」 というのが、蕉風では、「わび」 「軽み」 「さび」 「しをり」 「細み」 ということでしょうね。芭蕉の句のなかで、私の一番に好きな句は辞世句です──「旅に病み 夢は枯野を かけ廻 (めぐ) る」。

 芭蕉の死後に俳諧が俗化していったので、蕉風に依るべきだと言い立てたのが蕪村です。蕪村は、早野巴人 (はやのはじん)に師事していました──早野巴人は蕉門十哲の一人 榎本其角の弟子でした。早野巴人の亡きあと、蕪村は、(奥州を行脚してから、)京都に定住しました。画に専念して南宋画を学んで、いわゆる文人画への志向をつよめ、ふたたび、俳諧に向かいました。世上有名な蕪村の句 「菜の花や月は東に日は西に」 に描写されているように、蕪村の作風は、写実性・低徊性 (脱俗高踏のこと)・浪漫性に特徴があるようです。徂徠風に言えば、「俗によって雅を乱すことは許さない」──もっとも、徂徠の云う 「雅」 というのは 「漢語」 のことであって、私が ここで言う意味とは違うのですが、私は、徂徠の ことば の意味を拡張して使っています。

 良寛の号は、「大愚」。禅僧です。書・漢詩・和歌で すぐれた作品を遺しました。かれの作品は 「天真爛漫」 と評されていますが──たしかに、どの系統にも属さない作風ですが──、私は、かれの 「通俗性のなかに風雅な情調 (実ありて悲しびをそふる)」 を描写した・以下に記載する詩が大好きです (この詩は、本 ホームページ 「思想の花びら」 のなかで引用しました)。

    君看雙眼色 不語似無憂 [ 君看よや 雙眼の色 語らざるは憂なきことをしめす ]

 2001年 3月に、本 ホームページ 「佐藤正美の問わず語り」 (16 ページ、「『もの』 語彙と 『こと』 語彙」) を初めて綴ったとき、「私には歌がわからない」 と吐露しました。そして、50歳を過ぎた頃 (2005年頃) から、やっと、歌に感応するようになってきました (私は、いま、54歳になろうとしています)。





 ▼ [ 史料、資料 ]

 ● 芭蕉語彙、宇田零雨、青土社

 ● 奥の細道 総索引、井本農一・原岡秀人 共著、明治書院

 ● 芭蕉・蕪村 発句総索引 [ 本文索引篇・語彙索引篇 ]、道本武彦・谷地快一 編集、角川書店

 ● 芭蕉直筆 奥の細道、岩波書店

 ● 定本 芭蕉大成、緒方 仂・加藤楸邨・小西甚一・広田二郎・峯村文人 共著、三省堂

 ● 日本古典文學体系 芭蕉文集、杉浦正一郎・宮本三郎・荻野 清 校注、岩波書店

 ● 芭蕉全句集、乾 裕幸・桜井武二郎・永野 仁 編、おうふう

 ● 蕪村全句集、藤田真一・清登典子 編、おうふう

 ● 新訂増補 西行全集、尾山篤二郎 編著、五月書房

 ● 良寛用語索引、塩浦林也 編、笠間索引叢刊 107

 ● 良寛全集、東郷豊治 編著、東京創元社

 




 ▼ [ 概説書、解説書 ]

 ● 露伴評釋 芭蕉七部集、中央公論社刊行

 ● 去来抄評釋、岡本 明 著、名著刊行会

 ● おくのほそ道 古典を読む 2、安東次男、岩波書店

 ● 鑑賞 奥の細道、内山一也 著、笠間書院刊

 ● 奥の細道 講義、麻生磯次 著、明治書院刊

 ● 諸注評釈 芭蕉俳句大成、岩田九郎 著、明治書院

 ● 全釋 良寛詩集、東郷豊治 編著、創元社

 ● 沙門 良寛 自筆本「草堂詩集」を読む、柳田聖山、人文書院

 ● 良寛詩集、渡辺秀英 著、木耳社

 ● 良寛詩集譯、飯田利行、大法輪閣刊

 




 ▼ [ 辞書、事典 ]

 ● 芭蕉辞典、飯野哲二 編、東京堂出版

 ● 良寛字典、駒井鷲静 編著、雄山閣

 



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