2004年 5月 1日 「関係の論理」 と モノ >> 目次 (テーマ ごと)
  ● QUESTION   aRb において、a および b は、属性値なのか、個体なのか、集合なのか。
  ▼ ANSWER   いずれも成立する。
2009年 5月16日 補遺  



 関係 (aRb) は 「判断」 ではない。「aRb」 は、2つの変項 (a と b) をもつ命題関数である。

● 関係論理を命題論理といっしょに使えば、a および b を個体として扱う。

 「S は P である」 という命題では、S を主語 (Subject) といい、P を述語 (Predicate) という。そして、「S-P」 を1つの単位 (文) として、文の真偽に着目しながら論理法則を研究するのが命題論理である。しかし、命題論理では、たとえば、以下の論理を扱うことができない。

    S1 is on S2. (たとえば、A book is on the table.)

 「S-P」 という論理形式のほかに、いくつかの主語の間に関係が成立する論理形式がある。
 たとえば、2つの主語の間には、以下のような関係が成立する。

   「佐藤正美 (S1) は佐藤恵美子 (S2) の夫である。」

 さらに、3つの主語 (あるいは、2つ以上の主語) の間には、以下のような関係が成立する。

   「佐藤正美 (S1) は、佐藤恵美子 (S2) に、贈り物 (S3) を与えた。」(参考)

 いずれにしても、主語は、個体として記述される。

 
● 関係論理を述語論理といっしょに使えば、a および b を、集合あるいは属性値として扱うことができる。

 一般化とは、「共通の性質」 を判断基準にして、対象の集合を総括することである。そのために、「判断」 を、主語と述語に切り離して、述語を使って、主語の共通化を扱う論理学を外延論理学という。すなわち、述語 (性質) P を「共通の性質」 としてもつ主語 S の集合は、P (s) という論理式を使って記述される [ これ以後、P (s) は、s を変項として扱い、P (x) として記述する ]。

 或る概念が外延的に定立されるということは、その概念に対応する モノ の集合が存在する、ということである。集合 P を命題関数 P (x) の 「外延 (または、クラス)」 といい、命題関数 P (x) を集合 P の 「内包 (または、意味)」 という。すなわち、P (x) は、「x は性質 P を持っている」 ことを記述しており、集合 { x ∈ A } と同値である。言い換えれば、集合 A は、述語 P をもつ x の集合である。

 単項述語論理式 P (x) のなかの変項が 2項になれば、P (x, y) として、2項述語論理式になる。一般的に言えば、変項が 2つ以上の命題関数を一括して多項命題関数 (多項述語論理式) という。2項述語論理式 P (x, y) の述語 P は、x と y との関係を示すので、「x と y の 『関係の述語』」 という。

 多項述語論理式は、集合論を前提にして、「関係の論理」 に変換できる。すなわち、aRb を R (a, b) として考えれば、2項述語論理式と同値になる。

 
● コッド 関係 モデル は、変項を属性値集合として考える。
  チェン ER モデルは、変項を集合 (entity) として考えている。

 さて、個体 (a あるいは b) の性質を多項述語論理式として、以下のように記述することができる。

 R { x1, x2, ・・・, xn }.

 たとえば、従業員の述語として、以下のように記述できる。
 従業員 { 従業員番号, 従業員名称, ・・・, 入社日 }.

 つまり、個体を、多項述語論理式を使った 「性質の関係」 として記述できる。そうすれば、aRb において、R は個体を示して、a および b は属性値である。「関係の論理」 のなかで、a および b を属性値として使った モデル が、コッド 氏 (Codd, E.F.) の提示した関係 モデル である。

 いっぽう、R { x1, x2, ・・・, xn } のなかで、x1 や x2 を entity として扱った モデル が、チェン氏 (Chen, P.) の提示した ER モデル である。なお、ER モデル では、x1 や x2 の変項 (entity) には、「主体型」 と 「関連型」 がある。「主体型」 として、従業員や部門や商品などがあり、「関連型」 として、入社や受注や請求などがある。

 
● T字形 ER手法は、「関係の論理」 を entity 間の関係として使っている。

 T字形 ER手法は、entity を、述語の連言として考えている。つまり、命題論理を使って、entity を記述している。そして、entity は、認知番号を付与されていなければならない。したがって、entity は、以下のように記述される。

 従業員番号 001 は、佐藤正美である。
 AND
 従業員番号 001 は、1953年生まれである。
 AND
 ...

 したがって、一般化すれば、従業員 { 従業員番号 ∧ 従業員生年月日 ∧ ・・・ }.
 この形式を、コッド 関係 モデル のように、多項述語論理式 (属性値の集合) として考えることもできるが、命題論理の考えかたを使っている理由は、entity を認知する材料として 「情報 (画面や帳票などの文章)」 を使っているからである。すなわち、1つの情報を複合命題として考えて、1つの複合命題は、いくつかの単文 (「S-P」 形式) の連言として記述することができる、という前提に立っている。

 しかし、命題論理では、前述したように、主語の間に成立する関係を記述することができない。そこで、T字形 ER手法は、主語の間に成立する関係を記述するために、関係の論理を使っている。したがって、T字形 ER手法は、aRb において、a および b を entity として扱っている。しかも、aRb を 「関数 (多項述語論理式)」 として考えないで──というのは、a および b を entity として扱えば、R (a, b) のなかで、a および b の並びを考慮しなければならないが、a および b の関係には、並びが論点になるときと、そうでないときがあるので──、T字形 ER手法では、ひとつの文法 (関数) で扱わないで、いくつかの文法を用意している。

 「関係の論理 aRb」 において、a および b を entity として考えれば、a ≠ b のときには、いくつかの文法を適用して、a = b のときには、「学的な再帰 (帰納的関数)」 を適用している [ 前回 305ページ 参照 ]。

 
 (参考) 数学では、2つ以上の主語の間に成立する関係 (多項関係) は、2項関係として記述することができる。

 



[ 補遺 ] (2009年 5月16日)

 「補遺」 を綴るにあたって、本 エッセー の文をいくつか訂正しました。
 さて、本 エッセー では、「関係の論理 aRb」 をT字形 ER手法 (TM の前身) のなかで どのように使っているかを説明しています。本 エッセー のなかで、T字形 ER手法では、個体 (entity) を 「述語の連言」 として考えていると綴っていますが、それは取りも直さず (コッド 関係 モデル と同じように、) 「直積」 を使っているのと同じことです。すなわち、個体を作るときに、すでに、「関係の論理 aRb」 を 「直積」 として使っている、ということになります。ただし、T字形 ER手法では、「直積」 が 「個体として真である」 ことを説明しきれていなかったので、T字形 ER手法を TM に変更したときに、「(事実的な) F-真」 概念を導入しました。

 「個体 (集合)」 を タプル として記述するという やりかた は、T字形 ER手法でも コッド 関係 モデル でも同じなのですが、次に、「個体のあいだの関係」 を構成するときに、T字形 ER手法は、コッド 関係 モデル とちがう やりかた を導入しました。ちなみに、コッド 関係 モデル では、テーブル のあいだでは 「包摂従属性」 を使っています。T字形 ER手法が、もし、「個体 (集合)」 のあいだに、再度、「直積」 を使えば、第 2階の ロジック を導入しなければならないでしょう。しかし、この時点で、T字形 ER手法は、数学の集合論を離れて、「意味論」 を強く意識した (独自の) 構成文法を導入しました。すなわち、以下の 3つの文法です。

 (1) resource と event との関係
 (2) event と event との関係
 (3) resource と resource との関係

 この文法を導入した理由は、もし、aRb において、a および b を 「entity」 として実体主義的に構成すれば、「関係の対称性・非対称性」 を配慮しなければならなかったからです。すなわち、R (従業員, 部門) = R (部門, 従業員) という対称性を示す entity 群──(3) の文法が適用される entity 群──と、R (出荷, 請求) ≠ R (請求, 出荷) という非対称性を示す entity 群──(2) の文法が適用される entity 群──があるので、ひとつの 「関数」 を使って、「関係」 を構成することができないと私は判断しました。そして、それらの・背反する性質を示す entity 群 (event という entity、および resourceという entity) との関係は、以下の文法を使いました。

  resource (主体、行為者) が event (できごと、行為) に関与する [ 侵入する (ingression)]。

 この文法は数学的 ソリューション ではない。この文法は、ホワイトヘッド 氏の形而上学を参考にしました。
 もし、第 2階の ロジック を導入すれば、数学上、第 2階の文法において 「無矛盾性・完全性」 を問われることになりますが、第 2階の ロジック を使わなくても、T字形 ER手法を モデル であると言明するのであれば、当然ながら、「無矛盾性・完全性」 を実現していなければならない。「無矛盾性」 は、entity を 「定義して (しかも、定義において、event と resource のあいだで境界上の事態が起こらない [ ¬(A ∧ ¬A) ] ことを配慮して)」、文法どおりに導出される過程を示せば問題ないのですが──カルナップ 氏流の用語を借りれば、「L-真」 を実現できるのですが──、争点になるのは、「完全性」 です。

 もし、第 2階の ロジック を使えば、「完全性」 を実現するのは、そうとうに難しいでしょう。T字形 ER手法では、「幸いにも」、entity に対して、「関係文法」 を適用するので、文法を適用して構成された関係は、「現実的事態」 に対比して 「真理条件」 を問うことができます。たとえば、R (従業員, 部門) にしても、R (出荷, 請求) にしても、そういう事態が実際に起こったことを験証できる、ということです。TM (T字形 ER手法の改良版) では、ホワイトヘッド 氏の形而上学を参考にして関係文法を導入して、関係文法で構成された文 (複文) を現実的事態と対比して 「真 (完全性)」 を実現する──カルナップ 氏流の用語を借りれば、「(事実的な) F-真」 を実現する──やりかたを導入しました。この やりかた は、デイヴィドソン 氏の 「T 文の テスト」 を参考にしました。

 以上に説明したように、TM は、一見、数学的接近法を使っているように見えますが──勿論、文の構成法では、論理法則を使っていますが──、どちらかと言えば、言語哲学的接近法を使っています。単純に言えば、数学では、「F-真 ←→ L-真」 が 「完全性定理」 とされていますが、TM は、「合意された語彙 → L-真の構成 → F-真の験証」 という手続きになっています。そして、「情報 (帳票、画面などで自然言語を使って記述された文)」 を対象にするかぎり、最初の段階で 「F-真」 を示すのは (プラトン 主義を前提にしないかぎり、) 無理だと私は思います。





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