2004年 4月16日 作成 場所 (place) >> 目次 (テーマ ごと)
2008年 7月16日 補遺  

 

 
1. 流通経路政策は 「マーケティング・チャネル」 政策とも呼ばれている。
  マーケティング・チャネル を支配して マーケティング の主導権を取るために、以下の 3つの やりかた
  がある。

 (1) 垂直的統合
   (1)-1 上方向垂直統合 (50%以上の出資、機関 [ 卸し本部 ] の設立)
   (1)-2 下方向垂直統合 (直営の小売店舗の設立)

 (2) 系列化

 (3) 集合活動
   (3)-1 企業間結合 (合併、株式保有、役員兼任、融資)
   (3)-2 企業間協定 (カルテル、合弁事業、提携)
   (3)-3 企業間共謀 (談合、黙約)

 
2. 流通機能は、以下の 3つに類別される。

 (1) 商的流通機能 (取引機能、俗に 「商流」 と呼ばれる。代理店構成など。)
 (2) 物的流通機能 (俗に 「物流」 と呼ばれる。)
 (3) 助成流通機能 (「商流」 と 「物流」 を円滑にする金融機能や危険負担機能)

 
3. 物流は、「完成品を生産 ライン の終了点から消費者まで有効に移転することに関する幅広い諸活動で
  ある。そして、原材料の供給源から生産 ライン の開始点まで移転することを包含することもある。」
  (Bowersox, D.J.,Smyka, E.W. and Lalonde, B.J., "Physical Distribution Management, 1968.)

  物的流通は輸送・保管・荷役・梱包から構成される。

 
4. マーケティング・チャネル と物的流通は表裏一体の関係にある。
  調達物流と販売物流を統一的に管理する概念が 「ロジスティックス」 (Losistics) である。
  この用語は、1960年代以後、一般に使われている。

 
5. 日本の流通機構は以下のような特徴がある。

 (1) 卸売機構が多段階構造になっていて、迂回性が強い。
 (2) 系列販売制度が多い。
 (3) 卸売機構は多数の零細流通業者から構成されている。
 (4) 大規模小売店舗法 (「大店法」)、小売商業調整特別措置法、中小小売商業振興法などの
    行政介入がある。日米包括経済協議では、日本の流通機構が批判された。
    平成12年、大規模小売店舗法が廃止され、大規模小売店舗立地法が施行された。

 
6. 卸売機構と小売機構の実態については、

 (1) 経済産業省 (旧、通商産業省) が刊行している 「商業統計表」 を参照されたい。
 (2) 「商業統計表」 によれば、小売商店数は、時代とともに大幅に減少している。
 (3) 4人以下の零細店の構成比が顕著に減少している。

 
7. 小売業の 「3 大技術革新」 とは、以下の 3点をいう。

 (1) ワンストップ・ショッピング
 (2) セルフ・サービス
 (3) チェーン・オペレーション

 
8. 多店舗化 (チェーン) は、以下の 3つの形態がある。

 (1) レギュラー・チェーン (RC) [ 自己店舗群 ]
 (2) フランチャイズ・チェーン (FC) [ フランチャイザー と加盟店の構成 ]
 (3) ボランタリー・チェーン (VC) [ 独自性の留保と共同化の メリット ]

 
9. 小売業は、生産段階を包括した流通 システム の機能を再編成している。
  この再編成 (組織化、流通統合化) を可能にしたのが以下の情報化である。

 (1) POS (Point of Sales)
 (2) EOS (Electronic Order-entry System)

 
10. 消費者の購買を起点にして、小売店から入手された販売情報を使い、流通 チャネル の全体効率化
  実現しようとする概念が、以下の 2つの概念である。

 (1) ECR (Efficient Consumer Response)
 (2) QR (Quick Response)

 
11. ECR や QR の発展形として、CPFR という概念が提示されている。
  (Collaborative Planning, Forecasting, and Replenishment)

 
12. サプライヤー (製造・卸売・小売) が一体になって情報を共有し管理することを狙いにした概念が SCM
  である。(Supply Chain Management)

 
13. マーケティング 管理の限界として、コトラー は、(販売管理費を例にしながら) 8つの原因を例示して
  いる。そのなかから、顕著な原因を以下に列挙する。

 (1) 非線形効果 (2つの変数の間には比例関係はない)
 (2) 閾 (しきい) 値効果 (最小必要限──閾値──の投資をしないかぎり効果はない)
 (3) 繰越効果 (効果は次期移行に繰り越される傾向がある)
 (4) 相互作用効果

  [ コトラー, P., 伊波和雄 他訳, 「マーケティング・マネジメント (下)」, 鹿島出版界, 1967年 ]





[ 補遺 ] (2008年 7月16日)

 流通に関する用語法として、「流通経路」 と 「マーケティング 経路」 は、同意語のように使われることもあれば、違う意味として使い分けられることもあるようです。使い分けるときには、「流通経路」 は、マクロ (社会経済的立場) の視点から観た概念で、財あるいは サービス が生産者 (あるいは供給者) から消費者 (あるいは需要者) に至る道すじを云い、「マーケティング 経路」 は、個々の企業 (製造者) の視点から観た概念で、自社の製品 (あるいは サービス) を消費者に効率的に給する道すじであり、どのような中間商人を どれだけの数で配置するかという点が検討事項となります。「マーケティング 経路」 を 「販売経路」 とも云います。
 「マーケティング 経路」 よりも範囲が広くなるのですが、「市場管理」 を論じた書物として、以下の著作は力作ですので、ぜひ、読んでみてください。

    日本企業の市場管理、光澤滋朗、中央経済社

 本 エッセー で まとめた ほとんどの点は、この書物を参考にしています。

 さて、「マーケティング 経路」 で論点になるのが、経路 メンバー (経路構成員、すなわち、生産者・製造業者、卸売業者および小売業者) の それぞれの利益を実現して、かつ、効率的・効果的な経路を組むための 「経路戦略」 です。

 「経路」 を (数学の) 「有向 グラフ」 として考えれば、効率的な経路は、基本的に、単純道 (同じ辺を 2度以上通らない道)・基本道 (同じ頂点を 2度以上通らない道) になるのかもしれない──「基本的に、... かもしれない」 と綴った理由は、ときに、同じ辺・同じ頂点を通ることがあるかもしれないからです [ たとえば、{ a, b, c } において、(a, b) (a, c) (b, c) (c, b) の有向 グラフ があるかもしれない── a が、或る半製品 u を b に送って、かつ、半製品 v を c に送って、b は 半製品 u に対して なんらかの機能を add-on したあとで c に送って、c は 半製品 u を 半製品 v と組み立てたあとで、b に送る、という事態があるかもしれない ]。
 「有向 グラフ」 については、本 ホームページ の 452ページ・456ページ・460ページ を参照してください。

 さて、「有向 グラフ」 では、頂点の数を 「位数 (order)」 と云い、辺の数を 「サイズ」 と云います。頂点数を p で、辺数が q の有向 グラフ を (p, q) 有向 グラフ と云います。たとえば、前述した経路 では、G = ( { a, b, c }, { (a, b) (a, c) (b, c) (c, b) } ) なので、(3, 4) 有向 グラフ です。

 有向 グラフ 上、始点 v0 と 終点 vn のあいだにある頂点が、「マーケティング 経路」 上、中間商人です。中間商人を置かないほうが──すなわち、始点と終点のあいだで、頂点数・辺数が少ないほうが──効率的なように思われるかもしれないのですが──そういう 「中抜き」 の ビジネスモデル を 「ダイレクト」 と云いますが──、生産者 (あるいは、製造業者) が、消費者の一人一人を相手にすることは、かえって、非効率でしょうね。したがって、もし、中間商人を置いて──そして、その中間商品が、隣接している頂点だとすれば──、生産者 (あるいは、製造業者) は、中間商人の数のみ対応すれば良いので、効率的です。

 単一経路にするか、複数 (ふたつの) 経路にするか、多数 (ふたつ以上の) 経路にするかという論点が 「経路の多様性」 と云われている論点です──経路は、複数 (あるいは、多数) 設置するのが、効果的でしょうね。というのは、有向 グラフ 上、ひとつの道が、なんらかの理由で遮断されても、ほかの道があれば、流通が途絶えない。

 さらに、それぞれの頂点 (中間商人) に対する販路政策も、「独占 (あるいは、専属)」 か 「選択的 (若干数)」 か 「集約的 (多数)」 のいずれにするかという 「経路の幅」 も論点になるでしょう。「独占 (あるいは、専属)」 は 「系列化」 の形態です。もし、製造業者が、「マーケティング 経路」 において、リーダー であるときに、再販制 (再販売価格の維持) とか 一店一帳合制という争点が出てきます──この争点については、前掲書 「日本企業の市場管理」 (光澤滋朗) に詳しく説明されているので参照してみてください。

 ワンストップ・ショッピング、セルフ・サービス および チェーン・オペレーション は、小売業の 「3 大技術革新」 と云われています。それらの形態は、小売業者の観点において効率的・効果的なのでしょうが、われわれ消費者にとっても、陳列されている商品の種類が豊富だし、商品の価格も安いので歓迎されたのでしょうね。ちなみに、店のなかで販売員が近寄ってきて、商品を 「セールス しよう (売り込もう)」 とする態度を私は極度に嫌っています (笑)──店内では、店員は、(私が商品に関して訊きたいことがある際に、) ヘルプ・デスク であってほしいと思っています。いま、ちょうど、長男 (高校三年生) が、英語の質問に来たので、この補遺の執筆を休止していたのですが、長男が質問しにきた英文は以下の文でしたが、セールス の見事な テクニック──消費者の 「心理」 に訴える テクニック──が記述されていた文です [ 早稲田大学の入試問題に出題された問題のいちぶです ]。

  Contrast effects are perceptual phenomena which can be used by skillful influencers. Experienced salespeople at better clothing stores often use such contrast effects. For example, they know that a person is much more likely to buy ties, shirts, sweaters, belts, and shoes after they have bought an $800 suit than before they buy the suit. What happens is that after spending $800 on the suit, a $50 tie or an $80 sweater does not seem that expensive. A contrast occurs between the expensive suit and the less expensive accompaniments, making the sweater and tie seem low-priced.
  In a similar manner, a realtor will sometimes take prospects to overpriced "shacks" prior to taking them to the house that they really want to sell. The contrast between the "shack" and the target house makes the latter much more attractive.

 「情報」 の システム を上手に活用した ビジネス・モデル が作られてきて、アライアンス (提携) の形態として B-to-B (e- ビジネス) では、SCM が典型的な形態です。この形態を B-to-C に適用すれば、CRM や QR や ECR になります。SCM は、販売と生産を EDI を使ってむすんで、POS から得られた データ を生産段階に送って、商品の適時適量生産補充を実現する 「製販一体の システム」 です。SCM は、従来の 「product-out, market-in」 形態を逆流して、「market-out, product-in」 形態を生み出しました。QR は、(米国の) ファッション 業界が 1986年に取り組んだのが最初です。ECR は、(米国の) 食品業界が 1993年に取り組みました。





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