2002年 1月15日 作成 IT ミックス >> 目次に もどる
2006年 5月 1日 補遺  

 

 経営の領域とITの領域の関係を考えたら、以下の モテ゛ル を描くことができるでしょう。

 

ヒ゛シ゛ネスモテ゛ル
ハート゛ウェアシステムソフトウェアテ゛ータアフ゜リケーションネットワーク

 
 この モテ゛ル を前提にすれば、われわれ (システム・エンシ゛ニア) がやらなければならない仕事は [ 経営の観点から判断すれば ] 以下の点に尽きるでしょう。

    経営に対して、「最適な IT 構成」 を実現する

 IT 構成のことを (マーケッティンク゛・ミックス になぞらえて) 「IT ミックス」 と呼んでもいいでしょう。
 さて、ここで問題点となるのは、これらの IT ミックス を全て熟知している SE はいない、という点です。
 たとえば、システム・ソフトウェア 構成のなかで OS を例にしても、MVS もあれば UNIX もあれば LINUX もあれば NTもあれば WINDOWS もあるし、テ゛ータ 構造を例にすれば、それぞれ特徴あるテ゛ータヘ゛ース の フ゜ロタ゛クト があるし、テ゛ータ 設計の方法も多く提示されているし、アフ゜リケーション 構成を例にすれば、言語として、COBOL もあれば SQL もあれば Java もあれば HTML もあれば XML もあれば それぞれ特徴ある4GL もある、という選択肢が多い状況です。一人の SE が、それらの領域をすべて熟知することは不可能でしょう。

 最新の フ゜ロタ゛クト と最新の技術を使って構成した最新の IT ミックス が技術的には最良の構成である、というのは疑いのないことなのですが、その構成が 「経営の観点から判断して」 最良かどうか、という点は論点になるでしょう。われわれ システム・エンシ゛ニア の成績を判断する基準は、--IT は経営に役立つことを目的として導入される技術ですから--以下の点にあることは間違いないでしょうね。

    IT を使ったら経営成績が良くなった (IT が収益獲得に貢献した)

 ところが、これを測定する規準がない
 たとえば、システム を再構築して、納期が 2週間から 2日に短縮されたとしても、--システム を再構築するために 2年を費やしたとすれば--厳密に言えば、既に、環境が違うので、純粋に IT の効果なのかどうか、という点は、過去の成績との比較はできない (--ときには、在庫の削減を目的として システム を導入したのだが、環境が変わったので、逆に、在庫が増えることもあるでしょうし、販売管理 システム を再構築して 「収益が多くなった」 としても、ひょっとしたら、システム 再構築といっしょに導入された [ 広告などの ] フ゜レ・マーケッティンク゛ 政策が貢献したかもしれないし、おそらく、それぞれの部門が、自らの貢献である、と言い張るでしょう)。
 IT の導入効果を測定するには、不確実な ハ゜ラメータ が多い、というのが悩ましい点です。前提を同じにして ハ゜ラメータ を修正しながら実験する、ということができないのが経営です。経営には、マーケット および様々な利害関係者 (stakeholder) が関与していて、企業は マーケット および利害関係者に影響を及ぼすことはできても、支配 (コントロール) することはできないですから。

 ただ一つだけ確実な点は、経営の目標から外れた IT ミックス は意味がない、という点でしょう。
 とすれば、経営の コンテクスト (文脈) を SE がいかに習得しているか、という点が論点となるはずです。もっと詳しく言えば、経営の コンテクスト の理解は、「広がりの程度」 (習得の幅) と 「密度」 (習得の深さ) が論点になるでしょう。ハ゜ラタ゛イム や コンテクスト を無視して、広範な領域に関して多くの キーワート゛ を断片的に知っているということは、IT を実地に使うときには、皆目、役に立たない。

 これを べつの言いかたをすれば、(昔から今まで繰り返し言われてきたのですが) ヒ゛シ゛ネス の知識を習得した (ハ゜ラタ゛イム や コンテクスト を咀嚼して、習得の幅と習得の深さを実現した) 「問題解決型 SE」 を養成する、ということです。昔から今まで繰り返し言われてきたということは、そういう SE が少ない、ということを露呈しているのでしょうね。

 ここ数年の間に、企業は大きな環境の変化を浴びています。その環境の変化のなかでも、以下の2点は、「革命」 とか 「ヒ゛ック゛ハ゛ン」 と呼ばれるほどの変化です。
 (1) 経営手段の拡張 (インターネット を使った e-ヒ゛シ゛ネス)
 (2) 経営成績の測定手段の変更 (国際会計基準)

 これらの変化に対して、いちばん効率的な解決策は、SCM や CRM などの ハ゜ッケーシ゛ や財務会計 ハ゜ッケーシ゛ を導入することでしょう。小生 (佐藤正美) も、それらの導入を否定しませんが、ここで、大きな問題点となるのは、以下の 2点です。
 (1) コート゛ 体系
 (2) 数値の解析

 「コート゛ 体系」 というのは、たとえば、品目 コート゛ として 10桁を使ってきていたら--10桁と言えば、9,999,999,999個の品目を扱っているのかどうか、という極めて純朴な疑問を小生は抱くのですが--、ハ゜ッケーシ゛ 化できるかどうか、という論点です。そして、最大の論点となるのは、そういう ハ゜ッケーシ゛ から出力された数値を SE が解析できるかどうか、という点です。これができなければ、SE は エント゛ユーサ゛ に対して 「現状の問題点」 を抽出することも 「改善案」 を提言することもできない。つまり、これができなければ、SE (あるいは、IT 部門) は、いつまでたっても、「テ゛ータ の『後処理』部隊」 のままで終わる、ということです

 そこで、次回から、この ヘ゜ーシ゛ (「Advanced Learner's」) では、以上の 2点 (e-ヒ゛シ゛ネス と国際会計基準) を経営の観点からまとめることを試してみます。まず、国際会計基準を扱ってみます。



[ 補遺 ] (2006年 5月 1日)

 本 ヘ゜ーシ゛ を、いま、読み返してみたら、「『e-ヒ゛シ゛ネス と国際会計基準』 を経営の観点からまとめる」 と言っていながら、それらを無視して、「Advanced Learner's」 は、会計学・経営学・マーケッティンク゛・生産管理 (MRP) の基礎知識を語ってきましたね (苦笑)。それらの基礎知識は、「経営の コンテクスト (文脈)」 を理解するためには役立つので、当初の目的から離れてしまったけれど、ご了承のほどを。

 さて、本 ヘ゜ーシ゛ を綴り始めた時点 (2002年 1月) から、「補遺」 を綴る今 (2006年 5月) までの約 3年半のあいだ、コンヒ゜ュータ 業界では--正確に言えば、経営過程を対象にした システム 作りの分析工程では (以下、Ma と略称)--、「奇怪な」 現象として、「モテ゛ル (modeling)」 がもてはやされていました。「奇怪な」 という語を、私は、「近頃以て奇怪至極ぢや」 (芥川竜之介、「邪宗門」) という用法と同じ使いかたをしています。すなわち、「けしからぬさま、不思議なさま」 を指示しています。

 「『モテ゛ル (modeling)』 を重視することは、科学的手法を導入することであって、仕事の品質を高めるし、かつ、『モテ゛ル (modeling)』 を使った作図は、ものごとを 『可視化 (give visibility)』 して、多数の人たちが同じ 『意味』 を共有できる」 などという大雑把な言いかたがされていますが、私は、そういう大雑把な見かたを認めるつもりなぞない。こういう大雑把な見かたを認めない理由として、以下のように反証しましょう。

 (1) 「モテ゛ル (modeling)」 は、「語彙と文法」 を具 (そな) えていなければならない。
 (2) 事業過程に関与している人たちが 「共有」 している 「意味」 構造を記述しなければならない。

 (1) は、Ma 向けとして世間で提示されている ほとんどの 「モテ゛ル (modeling)」 が 「文法」 を具えていないことに対する反証であり、(2) は、Ma 向けの 「モテ゛ル (modeling)」 が対象を間違えていることに対する反証です。

 「ユーサ゛ 要件を定義する」 なら、いかような図法でも良いが、それらの要件と対比される 「事実」 が 「正確に」 記述されていなければ、要件の有効性を判断できない。「モテ゛ル (modeling)」 の対象となる 「事実のあつまり」 を domain (あるいは、universe) と云いますが、Ma では、domain は管理過程であって事業過程そのものではない。そもそも、ひとり (あるいは、数人の) システム・エンシ゛ニア が (事業を計画・管理している management 構造を無視して、) 事業過程のなかで起こっている すべての事態を観ながら、事業過程を domain として、「構造」 を記述できる訳がない。というのは、「構造」 は 「個体と関係」 の記述であるが、実際に営まれている事業を観て、どのような事態を 「個体」 として認知するのかを判断できる訳がない。いま営まれている事業のやりかたを改良するために提示された 「要件」 は、その事業を制度化している--計画・管理している--管理のやりかたと対比しなければならないのであって、「事実を正確に記述する」 というのは 「管理過程を正確に記述する」 ということと同値です。
 すなわち、管理過程のなかで使われている語彙 (事業に関与している人たちのあいだで伝達される 「情報」 のなかに記述されている語彙) を対象にして、「事業過程に関与している人たちのあいだで、『意味』 が どのように共有されているかを示す 『構造』」 を記述するのが Ma 向けの 「モテ゛ル (modeling)」 です。たとえば、以下の事態を考えてみて下さい。

    要件: 顧客は、いままで、地域ごとに管理していたが、今後、商品ごとに管理したい。

 この要件に対比する 「事実」 として、以下の諸点を調べることになるでしょう。
  (1) 顧客に関して、どのような管理をしていたのか。
  (2) 地域に関して、どのような管理をしていたのか。
  (3) 商品に関して、どのような管理をしていたのか。
  (4) 受注に関して、どのような管理をしていたのか。

 そして、上述した 「文」 は、以下の 「文」 と同値でしょう。
  (1) 顧客に関して、どのような テ゛ータ を記録していたのか。
  (2) 地域に関して、どのような テ゛ータ を記録していたのか。
  (3) 商品に関して、どのような テ゛ータ を記録していたのか。
  (4) 受注に関して、どのような テ゛ータ を記録していたのか。

 たとえば、「いままで、地域ごとに管理してきた」 と言っても、ひょっとしたら、地域は、顧客住所のことを意味しているかもしれないし、営業所の所在地を意味しているかもしれないし、あるいは、地域は、JIS の体系とはべつの体系として戦略的に分割して、それぞれの地域に対して管理番号を付与して、地域と営業所と対応して、しかも、それぞれの営業所のあいだには、「営業 (受注を担当する営業所)」 と 「管轄 (受注営業所を統轄する営業所)」 という組織体制が導入されているかもしれない。「いままで、地域ごとに管理してきた」 という 「意味」 は、管理情報を調べなければ、「正確な意味」 を理解できないでしょう。

 したがって、「事実を正確に記述する」 ということは、管理情報に対して、「構造」 を与えるということと同義です。さらに、管理情報に対して 「構造」 を与えて、「事実」 を正確に記述したら、「事実」 に照らしてみて、要件が有効なのかどうかを再検討しなければならないでしょう。たとえば、ほどんどの地域で、年々、売上高が減少してきているという理由から要件が提示されたのであれば、地域の管理 テ゛ータ が足らないために、そうなったのかもしれないという点を調べたほうが良いでしょう--もし、ほとんどの地域で、ほとんどの商品の売上高が減少していれば、商品ごとの管理体制に変更しても、目立った ききめ はないでしょうし、そもそも、地域を管理する体制そのもの あるいは商品そのものに問題点があったのかもしれないから。

 「ユーサ゛ 要件を定義する」 という言いかたには、以下の 3つの 「意味」 があります。
  (1) 要件を作成する。
  (2) 要件の妥当性・有効性を検証する。
  (3) 要件を具体的な手続きとして導入する。

 はたして、(1) は、システム・エンシ゛ニア の仕事なのかしら [ 否、それは、エント゛ユーサ゛ の仕事です ]。システム・エンシ゛ニア の仕事は、(2) および (3) です--ただし、ユーサ゛ が提示した要件に対して、システム・エンシ゛ニア が代替案を提示することを排除しない。さて、システム・エンシ゛ニア は、(2) として、どのような検証手続きをもっているのかしら。要件の妥当性・有効性を検証するためには、「事実」 のなかで、問題点が 「具体的に・確実に」 示されていなければならない。こういう手続きは、「issue/problem-solution」 型の手続きです。

 さらに、事業過程を マーケット の変化に適応するように、管理過程を変更することもあります。そういう事態では、要件は、「戦略 (環境適応のための調整力)」 として提示されます。こういう要件は、「strategic planning」 型の要件です。
 はたして、「strategic planning」 型の要件を定義することは、システム・エンシ゛ニア の仕事なのかしら [ 否、それは、top-management の仕事です ]。要件を実現するためには、いまの 「構造」 を、どのように変更しなければならないのかを調べて、変更の影響度を計量しなければならない。

 したがって、「issue/problem-solution」 型であれ、「strategic planning」 型であれ、「事実」 を正確に把握していなければならないでしょうね。「事実」 とは、さきほど言いましたように、管理過程の 「構造」 を記述することです。したがって、ひとり (あるいは、数人の) システム・エンシ゛ニア の理解力 (認知力) に頼って記述する対象ではない。言い換えれば、「管理過程の 『構造』 を記述する文法」 を与えるのが 「モテ゛ル (modeling)」 の目的です。しかし、いま、世間でもてはやされている 「モテ゛ル (modeling)」 は、文法と図法を混同しています。文法とは、「構造」 を生成する規則であって、語彙を使って文を組み立てる規則です。どのような語彙に対して、どのような文型を与えるかという規則です。その文法は、以下の 4点に関する文法です。
  (1) 個体の認知
  (2) 個体の性質
  (3) 関係の認知
  (4) 関係の性質

 この 4点に関する文法が 「構造」 を作ります。逆に言えば、管理過程を記述できる文法が 「モテ゛ル (modeling)」 ということです。そして、管理過程のなかで伝達されている 「意味」 を記述できるほど豊富な--「豊富」 という意味は、数が多いということではなくて、「できるかぎり数少ない文法で、管理過程の 『構造』 を記述できる」 という意味ですが--文法を提示することこそ、「モテ゛ル (modeling)」 の主題です。

 そして、或る 「構造」 の 「意味」 を読み取るためには、管理過程に関する知識がなければならないでしょう。その 「管理過程に関する知識」 を与えるのが 「Advanced Learner's」 の役目でした。次回から、いままで綴ってきた 「Advanced Learner's」 の エッセー に対して、「補遺」 を与えて、読解の手引きとします。




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