2002年 1月31日 作成 制度会計の法体系と慣習規範 >> 目次に もどる
2006年 5月16日 補遺  

 

 日本の制度会計は、以下の法体系によって構成されている。


法律 商 法 証券取引法 税 法
省令 計算書類規則(*1)
商法施行規則
財務諸表規則(*2)
中間財務諸表規則
連結財務諸表規則
法人税法施行令
法人税法施行規則
耐用年数省令
通達  上記諸規則のガイドライン 上記法令の取扱通達
慣習規範  企業会計原則
企業会計原則注解(*3)
個別意見書
 
(*1) 通常、「計規」と略称される。
(*2) 通常、「財規」と略称される。
(*3) 通常、「注解」と略称される。


[ 補筆 ]
 なお、「計規」は、平成14年3月29日法務省令「商法施行規則」により廃止された。



 
 商法と証取法と税法は「法令」である。それぞれの法令は、以下の観点に立っている。
  (1)商法は「債権者保護」の観点に立っている
  (2)証取法は、「投資家保護」の観点に立っている
  (3)税法は、「課税の公平性」の観点に立っている

 企業会計原則は法令ではない。企業会計原則は、1949年に、経済安定本部企業会計制度対策調査会が作成して、以後、今日に至るまで、いくどかの修正がなされてきた。
 企業会計原則は、企業会計の実務のなかに慣習として成立してきた慣行のなかから「一般に公正妥当と認められた」慣行をまとめて作成された規準(実践規範)である。

 企業会計原則は、最近まで、旧・大蔵省の管轄下で--大蔵大臣の諮問機関として--、企業会計審議会が作成と修正をしてきたが、今後、民間団体である(財)財務会計基準機構が、その役割を継承して、会計基準を作成し公表することになった。
 企業会計原則が公表されてから50年以上が過ぎ、現代でも、その規範としての役割は高いけれど、近年の「会計ビッグバン」のなかで、「陳腐化」しつつあることは否めないのではないか。
 ただし、会計学を学ぼうとする人は、まず、企業会計原則を学ぶことから始めたほうがよい。
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 日本の制度会計は「三位一体」の交錯した構造になっていた
 例えば、税法は「確定決算主義」に立っていて、公正妥当な会計基準にしたがって計算された利益に対して課税をするのだが、「損金繰り入れ限度額」を定めているので--例えば、最近まで、退職給与引当金の繰り入れ限度額は40%とされていたので--、企業は損金の限度額までしか積み立てていなかったように、税法が企業会計に対して影響を及ぼしていた。あるいは、商法と証取法と税法の間では、「引当金」の範囲について、解釈がちがっているなど、それぞれの法令の間には、(前述したように、それぞれの法令の観点がちがうので)会計行為[ 会計取引の認知・測定・計上 ]に対する解釈の相違も起こっていた。

 さらに、企業の経営がグローバル化するにつれて、それぞれの国々の企業間の会計数値の比較性を保証しなければならないことが論点になってきた。
 そのために、国際会計基準が論点になってきた。一昔前なら、会計のグローバル化の規範はアメリカの会計規則であったし、事実、アメリカの会計規則は手本たりうるほどに充実している。
 会計基準のことを「一般に認められた会計原則(Generally Accepted Accounting Principles)」と呼ぶことがあり、「GAAP」と略称される。
 アメリカの「GAAP」の底辺にある規則は、以下の3つである。
  (1)会計研究公報
  (2)会計原則審議会意見書
  (3)財務会計基準書

 会計研究公報(Accounting Research Bulletins)は、通常、「ARB」と略称され、アメリカ公認会計士協会が設立した会計手続委員会(CAP:the Committee on Accounting Procedure)が作成して、1939年から1959年までの間にリリースされた51の公報である。
 会計原則審議会意見書(Accounting Principles Board Opinions)は、通常、「APB意見書」と略称され、アメリカ公認会計士協会が設置した会計原則審議会(APB:Accounting Principles Board)が作成して、1959年から1972年までの間にリリースされた31の意見書である。
 財務会計基準書(Statements of Financial Accounting Standards)は、通常、「FAS」と略称され、財務会計基準審議会(Financial Accounting Standards Board)が、1973年から今に至るまでに作成した基準書である。ちなみに、財務会計基準審議会は、通常、「FASB」と略称される。

 国際会計基準(International Accounting Standards)は、通常、「IAS」と略称され、国際会計基準委員会が作成している。国際会計基準委員会は、通常、「IASC」と略称される。
 IASCの本部はロンドンに設置されていて、多くの国々の公認会計士協会から構成されている民間機関である。
 この民間機関が公表する基準が強制力を得るようになったのは、公的機関である証券監督者国際機構(IOSCO)がIAS(の「コア・スタンダード」)を承認したからである。

 IASが日本の会計制度にも多大な影響を及ぼし、日本では、いわゆる「会計ビッグバン」と呼ばれる会計基準の大改訂が、近年、立て続けに公表されてきた。
 IASが日本の会計制度に及ぼした影響は、以下の諸点に類別できる。
  (1)連結会計
  (2)キャッシュフロー会計
  (3)研究開発費会計
  (4)退職給付会計
  (5)税効果会計
  (6)金融商品会計
  (7)減損会計[ 補筆、2002年8月 ]

 日本の「会計ビッグバン」の流れの根底には、以下の3点の特徴が観られる。
  (1)「単体」決算から「連結」決算への移行
  (2)「国内」基準から「国際」基準への移行
  (3)「原理・原則」から「個別」現象への対応

 それらの会計基準を理解するためには、まず、会計学の基礎を知っていなければならないので、次回から、会計学の基礎概念についてまとめてみる。□

 

略語のまとめ
略語 正式名称 日本語名称
 APB Accounting Principles Board  会計原則審議会
 ARB Accounting Research Bulletines  会計研究公報
 FAS Financial Accounting Standards  財務会計基準
 FASB Financial Accounting Standards Board  財務会計基準審議会
 IAS International Accounting Standards  国際会計基準
 IASC International Accounting Standards Committee  国際会計基準委員会
 IOSCO International Organization for Securities Commissions  証券監督者国際機構
 GAAP Generally Accepted Accounting Principles  一般に認められた会計原則


[ 補遺 ] (2006年 5月16日)

 IASC という言いかたは、その後、組織変更があって、IASB (International Accounting Standards Board) になった。IASB の ホームページ を参照されたい。

 本 エッセー を綴ったあとで、平成 16年 6月に、新会社法が公表され、さらに、平成 18年 2月には、(新会社法を補足するための) 会社法施行規則・計算規則・電子公告規則が省令として公表された。新会社法に対応するように、「内部統制」 に関する基準 (「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」)が金融庁から平成 17年 7月に公開草案として公表され、今後 (施行後に)、内部監査報告書が監査の対象になる。

 新会社法では、「計算書類」 が変わった。新会社法では、以下が 「計算書類」 とされる。

 (1) 貸借対照表
 (2) 損益計算書
 (3) 株主資本等変動計算書
 (4) 個別注記表

 従来の営業報告および附属明細書は、「計算書類」 ではなくなった。
 株主資本等変動計算書が計算書類の 1つとなった理由は、新会社法では、「利益の分配」 という概念を止めて、「剰余金の分配」 という概念を導入して、かつ、最低資本金制度を廃止して、資本金の減額を認め、減少した資本金は、原則として、剰余金に計上されるからである (なお、準備金に計上することもできる)。ただし、剰余金の分配には規制があって、分配可能額を超えて分配することはできないし、純資産額が 300万円以下であれば剰余金を分配できない。いずれにしても、損益計算書を介在しないで、貸借対照表のなかで直接に剰余金が増減するので、(剰余金の増減を開示する) 株主資本等変動計算書が導入された。
 さらに、「剰余金の分配」 は、--期末および中間配当のほかに--「臨時計算書」 を作成すれば、いつでも できるようになった--つまり、たとえば、四半期配当もできるようになった。

 新会社法の特徴の 1つは、「会社」 概念の変更にある。有限会社法に定められていた有限会社および商法特例法に定められていた委員会等設置会社が、新会社法に統合された。従来の株式会社・有限会社・委員会等設置企業は、「株式会社」 として統合された。それらの 「会社」 は、株式譲渡基準 (非譲渡制限・譲渡制限) および規模基準 (大会社および中小会社)を前提にして、4つのカテゴリーに分類できる。
 なお、特例法の 「委員会等設置」 会社は、新法では、「委員会設置」 会社とされ、「等」 が削除された。

 (1) 大会社で、株式が非譲渡制限
 (2) 大会社で、株式が譲渡制限付
 (3) 中小会社で、株式が非譲渡制限
 (4) 中小会社で、株式が譲渡制限付

 (1) および (3) を 「公開会社」 という--「公開」 という意味は、「株式の譲渡制限がない」 ということであって、「上場」 ということではない点に注意されたい。(2) および (4) では、株式が譲渡制限付きなので、「譲渡制限会社」 あるいは 「閉鎖会社」 と云われる。
 さらに、LLC (Limited Liability Company、合同会社) が新たに導入された。

 新会社法の全貌を、この 「補遺」 のなかで語ることは (文の量制限があるので、) できないが、いずれ、本 ホームページ のなかで、新会社法の特徴をまとめたいと思う。
 新会社法の計算規則を証取法の財務規則と対比してみれば、以下の諸点を配慮していなければならない。

 (1) 子会社の概念
 (2) 現物出資の評価
 (3) 剰余金の分配と分配可能額

 新会社法では、「子会社」 は、持株比率基準のほかに、(会計基準に対応するように、) 「支配力基準」 を導入している。「現物出資」 の評価は、会計基準と、やや、ズレがあるようで、「簿価」 を採用している。「剰余金の分配」 では、前述したように、「利益の分配」 という言いかたを止めて、従来の 「配当可能限度額」 と言いかたは、「分配可能額」 という言いかたに変わった。そして、会計上、計算された 「分配可能額」 は、「剰余金の分配」 を規制する役割になっている--剰余金は、いつでも、分配できるが、臨時計算書を作成すれば、その時点で、「分配可能額」 が計算されるので、「剰余金の分配」 に対して影響を与える。




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