2003年 2月 1日 作成 財務過程 (資金収支過程と一株当たりの利益) >> 目次に もどる
2007年 5月 1日 補遺  

 

 「財務過程」 そのものは、購買過程・生産過程・販売過程の それぞれのなかに組み込まれる過程であるが、資本 (経済的情報) を対象としているので、単独の管理過程として扱われる。

1. 資本収支過程

 財務過程は資金調達と資金運用を対応する資金収支過程である。
 財務過程は、資金収支過程として、以下の 3つの キャッシュ・フロー を把握しなければならない。

  (1) 事業活動に起因する キャッシュ・フロー
  (2) 投資活動に起因する キャッシュ・フロー
  (3) 財務活動に起因する キャッシュ・フロー

[ 参考 ]
 これらの キャッシュ・フロー については、Advanced Learner's 財務会計論 「キャッシュフロー 会計」 を参照されたい。
 なお、事業に供する資産 (設備など) は長期設備投資 (資本支出) によって形成されるが、現代の財務管理では、これを資本予算管理 (capital budgeting) として扱っている。

 財務能率性の観点からすれば、財務過程の基本原理は 「株主の富の極大化」 である。
 財務有効性の観点からすれば、「利益」 は経営の基本的な資金源泉である。

 
2. 一株当たりの利益

 投資家志向的観点 (investor-oriented)では、「利益」 は報酬 (配当金) の基礎である。
 株価は企業の経済価値に対する (あるいは、株主の投下資本に対する) マーケット の評価である。
 株価収益率は、以下のように計算される。

  株価収益率 = 株価 ÷ 一株当たりの利益

 一株当たりの利益 (EPS、Earning Per Share) には以下の 3つがある。

  (1) 基本一株当たり利益 (Basic Earning Per Share)
  (2) 部分希薄化一株当たり利益 (Primary Earning Per Share)
  (3) 完全希薄化一株当たり利益 (Fully Diluted Earning Per Share)

 希薄化とは 「潜在株式」 を計算のなかに加味することをいう。「潜在株式」 とは転換社債・ワラント・転換優先株式・ストックオプション などの 「普通株式相当証券」 のことをいう。部分希薄化された一株当たり利益の計算は非常にむずかしいので、計算式については専門書を参照されたい。



[ 補遺 ] (2007年 5月 1日)

 前回 (「現代経営の基礎構造 (企業と事業)」)、企業と事業との関係を 「貸借対照表」 を使って説明したので--企業として調達した資金を資産に投下して事業を営むというふうに説明したので--、今回、経営学の体系を 「財務過程」 から始めた次第です。経営学の体系を こういう進めかたにした理由は、私が会計学に慣れているからでしょうね。したがって、当然ながら、ほかの進めかたもあるので、本 ホームページ の 「読書案内」 で記載している経営学の書物を読んで下さい。本 エッセー に先立って述べてきた会計学にしても、これから述べる経営学にしても、私が みずからの知識を増やすために、みずからが理解しやすいように組んできた体系なので、あくまで、1つの視点にすぎない。本 ホームページ の 「ベーシックス」 では、会計学・経営学の専門家でない システム・エンジニア (私のこと) が、会計学・経営学を どのようにして学習したかという道筋を述べているにすぎないのであって、本 ホームページ を読まれたら、かならず、会計学・経営学の専門書を読んで下さい。

 「利益」 が、マスコミ の報道上、 「株主の富の極大化」 の観点からのみ論じられる傾向にあることを私は ひどく嫌っています。私自身のことを言えば、「利益」 という概念を 「稼得資本」 というふうに言いたい。すなわち、「利益」 に関して、財務有効性を もっと強調したい。その理由は、たぶん、私が 「資本家 = 経営者 (owner = manager)」 の立場にいるからかもしれない (私は、株式会社 SDI の最大株主であり、かつ、代表権をもった経営者です)。
 もっとも、株式会社 SDI を、そもそも、上場するつもりもないし--したがって、「閉鎖会社」 ですが--、事業を拡大して 「利益」 を増やすつもりもないのですが。したがって、「株式会社」 形態から判断すれば、特殊な事業形態なのかもしれない。企業は 「going concern」 ですので、私の企業経営の狙いは、縮小再生産に陥らない程度に、単純再生産を続けて、「データベース 設計法」 の研究を続けることとしています。私が株式会社 SDI を 1991年に設立したとき、「新・会社法」 で言う LLC (Limited Liability Company) 形態としたかったのですが、当然ながら、当時、「新・会社法」 がなかったので、私は株式会社の形態をとらざるを得なかった。したがって、LLC に近い形態である株式会社が、「一株当たりの利益」 に興味がないのも当然でしょうね。

 「投資家」 という ことばに対応して 「投機家」 という ことばがあるようですが、株の売買が 「制度」 として違法でないならば、当然ながら、株の売買が 「投機」 であっても、それを どうこう言うのは、「信念」 の論点でしょうし、あるいは、「一株当たりの富の極大化」 を目的として企業を経営することも 1つの経営理念であって、私自身は、そういう経営を嫌っていますが、「株式会社」 の財務能率性の観点から言えば、当然な経営目的でしょうね。そして、それぞれの企業には、それぞれの経営理念があるという当然のことを忖度していれば良いということです。




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