2002年12月16日 作成 年表の作成 >> 目次 (テーマ ごと)
2008年 1月16日 補遺  


 
 THさん、きょうは、年表の作成について お話しましょう。

 或る研究領域を勉強する際に、まず、入門書を 5冊ほど読んで サブノート を作成しながら、参考文献を増やす やりかたを、以前、述べましたが (98ページ)、いっぽうで、年表を作成することを お薦めします

 1970年代から 2000年以後までの年表を用意して──10年ごとに区切って、5つの欄 (1960年代、1970年代、1980年代、1990年代、2000年以後) を用意して──、入手した参考文献のなかから、「基本書」 (研究領域のなかで必読書とされている古典) の出版年度を調べて、年表のなかに著作の名称を記入すれば良いでしょう。
 そして、(もし、対象が専門領域なら、小生の年齢 [ 50歳 ] では、1980年代から、マーケット の流れの渦中にいますから、「一次 データ」 を直接に感知してきているので) 年表のなかに、マーケット の大きな流れを記述してみれば良いでしょう。

 そうすれば、年表のなかで、理論の流れと実態の流れと、それらの相関関係を 「見て取る」 ことができるでしょう。

 「ソフトウェア・エンジニアリング (Software Engineering)」 の歴史を振り返ってみれば、1960年代と 1970年代には、「構造化手法」 の理論 (それぞれの手法の論文) が提示さていますし、1970年代には、コッド 氏の論文や チェン 氏の論文が公にされ DOAData-Oriented) の芽生えがあったし、同時期には、OOObject-Oriented) の論文も提示されています。
 マーケット の流れとしては、(理論が公にされてから 10年ほど後になって) 1970年代、「構造化手法」 が実地に導入され、1980年代、DOA が流行になっています(注意)。そして、1990年代半ばには、(Java が マーケット に現れてから) OO が実地に使われるようになりました。
 Java が マーケット に導入される土壌となったのが、1980年代後半から 1990年代前半のあいだに、PC が普及したことでしょうね。1990年代になって、PC-LAN と C/S (クライアント・サーバ 形態) が導入され、PC-LAN は インターネット (the Internet) へと展開されて、C/S 形態が WWW (World Wide Web) の形に拡張され、それらが合流して、現代の ネット 社会になっています。

 さらに、経営学との関連のなかで 「ソフトウェア・エンジニアリング」 を振り返ってみれば、経営学では、1960年代から 1970年代に及んで、「戦略」 という概念が論点になって──興味深い点は、「長期経営計画」 の延長線として 「戦略論」 が論点になったのではなくて、「意思決定論」 のなかで、「環境に対する適用」 が論点になって 「戦略論」 が研究対象になったという点ですが──、1960年代には CSF (Critical Success Factor) という概念が提示され、1970年代になって、CSF を実地に使った成功事例が報告されて、1980年代には、我々の DP (Data Processing) 領域でも、(狭義の) ソフトウェア・エンジニアリング の弊害 (データ の 「重複」 と メンテナンス の困難性) が論点になって インフォメーション・エンジニアリング (Information Engineering) が提示され、「(CSF を加味した) トップダウン 手法の ビジネスモデル (Enterprise Business Model)」 が注目されるようになりました。

 そして、(1990年代半ばからの WWW の流れに呼応して) IT (Information Technology) を使った 「ビジネス・メソッド (Business Method、日本語では、ビジネスモデル とされていて、1980年代の ビジネスモデル と同じ呼称になってしまいましたが、べつべつの概念です)」 が競争手段となってきています。そして、「環境」 に適応するために、組織も、職能別組織から事業部制組織に移行し、さらに、(職能別と事業部別のそれぞれの長所を活かすために) マトリックス 組織を導入したり 「アライアンス」 を組む ネットワーク 組織へと移行しています。

 さらに、以上の歴史のなかに会計学を加味すれば、1970年代から 1980年代には、「動態論」 (「資産=収益獲得能力」 として、資産を費用化の観点から評価する考えかた) が主流だったのですが、リース 取引や デリバティブ 取引などの新しい取引形態が実地に使われるようになってきて、(「動態論」 では対応できないので) 「資産=収益獲得能力」 は 「キャッシュフロー」 の観点から考えられるようになりました。「キャッシュフロー」 概念は、純粋な割引現価主義のなかで使われるだけではなくて、取得原価主義のなかでも、「(投下資金の) 回収可能性」 の判断規準として使われ、取得原価も 「減損」 の対象になりました。つまり、資産を 「持っている」 だけでは評価されないのであって、資産を有効活用 (キャッシュ を生む活用) をしているかどうかという点が評価の対象になります。

 経営の観点から言えば、貸借対照表の貸方 (右側) は資金源泉を記述してあり、借方 (左側) は資金が投下された資産を記述しているので、貸方から借方への転換が 「経営 (management)」 の能力であるとされます。したがって、価値 (キャッシュ) を生まない資産を多く所有していても──それらが担保力になるとしても、──経営の観点からは評価されないので、それらを 「オフバランス 化 (貸借対照表から外すこと)」 して、得意な領域に集中して価値 (キャッシュ) を得るというのが経営努力になります。
 また、(企業 グループ としての 「アライアンス」──「系列化」 というだけの意味ではない──のなかで) 法的実体である 「個別の」 経営成績に比べて、経済的実態として 「連結の」 経営成績を重視するようになりました。

 そして、生産管理を以上の歴史のなかに反映してみれば、1970年代には、「クローズド・ループ(closed loop)」 として MRP (Manufacturing Resource Planning) の体系が完成されていたのですが、1990年代、PC-LAN を使って、生産管理は CIM (Computer Integrated Manufacturing) へと拡張して、さらに、「ネットワーク 組織 (あるいは、アライアンス)」 のなかで、SCM (Supply Chain Management) を導入して、「エシェロン 在庫 (Echelon、個々の在庫拠点の在庫ではなくて、「製・卸・販の一体」 のなかでの流通在庫)」 を削減することが論点になっています。

 以上にようにして歴史の流れを観れば、「ネットワーク」 とか 「アライアンス、アウトソーシング」 とか 「SCM」 とか 「集中と選択」 とか 「キャッシュフロー」 というのが 1990年代半ば以後の キーワード になっているようですね。
 以上にようにして年表を作成して歴史を観れば、それぞれの領域の個々の概念が全体として相関関係として成立していることがわかるでしょうし、断片的に習得していた知識を体系化することができます。
 年表の作成を習慣にしましょう。

 
(注意) DOA という言いかたは、和製英語 (a Japanese coinage from English) です。
    海外では、ふつう、Information Engineering という言いかたを使っています。

 



[ 読みかた ] (2008年 1月16日)

 本 エッセー のなかで、「年表 (a chronological table)」 の作りかたを具体的に記述しているので、取り立てて、補遺はいらないでしょう。

 本 エッセー のなかで概説した 「(歴史の) 流れ」 は、あくまで、「それぞれの時代の主思潮 (the ruling idea of a generation)」 であって、年表を実際に作成する際には、もっと、詳細な 「歴史的事実」 が、多数、記入されます。

 私は、荻生徂徠を愛読してきました。徂徠は、儒学者だったので、「道」 を学習・実践することを目的にしていましたが、「道」 を学習する際に、歴史を重視して以下のように述べています。

      まして 「道」 の理は精微なもので、初学の者には適当でない。つかみどころのないことから、
      憶測も生まれやすくなる。歴史は事実に跡づけられているので、拠 (よ) りどころがある。
      だから まず歴史を読ませ、(以下、略)

      されば、見聞広く事実に行わたり候を、学問と申事に候故、学問は歴史に極まり候事に候。
      古今和漢へ通じ申さず候へば、此国今世の風俗之内 (うち) より、目を見出し居り候事にて、
      誠に井の内の蛙に候。

 蓋し、至言ですね。




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  佐藤正美の問わず語り