2003年12月 1日 作成 「基準編第9章 (entity の種類)」 を読む >> 目次に もどる
2006年 9月 1日 更新  




 Entity を 「認知」 する際、小生が配慮した点は、「合意」 ということであった。
 1人の システム・エンジニア の価値観が データ 構造を形成する訳ではない。データ は、事業に関与する全員が使い、「意味」 を伝達している。そのために、データ 集合を生成する判断規準として、小生が使った前提は 「コード体系」 であった。

 従来のやりかたなら、データ 集合を生成したら、関係 (構造) を生成するという手順になるのだが、(20年ほど前に、コッド 正規形を日本に普及する仕事をしていて) 小生の頭のなかで、吹っ切れていなかった点が、「データ の並び」ということであった。この点に関しては、コッド 博士も、彼の論文のなかで、「関係 R のなかで、アトリビュート の並びは、全順序ではない (半順序になる)」 というふうに認めていらした。属性値集合 [ f (x) ] の代わりに主体集合 [ F (f)] を想像しても、関係 R の間に成立する並びは半順序である。

 [ 参考 ]
 全順序というのは、すべての データ が並べられることをいい、半順序とは、並べられる データ もあれば、そうでない データ もある、ということ。

 事業のなかで使われる データ のなかには、「並び」 が論点になる データ もあれば、そうでない データ もある。
 たとえば、出荷と請求では、(出荷、請求) という並びと (請求、出荷) という並びでは、「意味」 が違ってくる。(出荷、請求) は 「代金回収 (後払い)」 を意味し、(請求、出荷) は 「入金確認後、出荷 (前払い)」 を意味する。しかし、たとえば、従業員と部門では、(従業員、部門) という並びも、(部門、従業員) という並びも--並びを変えても--、意味は同じである (「配属」 という同じ意味である)。

 そのために、T字形 ER手法では、「データ構造」 を生成する際、「並び」 という点を論点にした。事業のなかで使われている データ を、「並び」 を判断規準にして、以下の 2種類に類別しなければならない。
 (1) 「並び」が論点になる データ (「並び」 が代わると、「意味」 が変わる データ)
 (2) 「並び」が論点にならない データ (「並び」 が変わっても、「意味」 が変わらない データ)

 T字形 ER手法では、「並び」 が論点になる データ を 「event」 として、それ以外の データ (つまり、「並び」 が論点にならない データ) を 「resource」 としている。つまり、entity は、以下の2つの種類に類別される。
 (1) event
 (2) resource

 さて、以上の点に気づいたまでは良かったのだが、この考えかた (entity は 2つの サブセット から構成される) が、それ以後、小生を苦しめることになった。まず、最初に、小生が苦しんだ点は、「event」と「resource」を類別する判断規準である。

 モノ は定義できない--あるいは、数理 モデル では、モノ は パラメータ として扱われる。
 モノ を類別するなら、まず、モノ が定義されていなければならない。幸い、T字形 ER手法は、モノ (entity) とは、コード 体系を前提にして、「認知番号を付与されていること」 としている。そのために、モノ を類別するなら、モノ の性質を判断規準にすれば良い。つまり、「event」 の性質と 「resource」 の性質を比較して、どちらかにしかない性質を判断規準にすれば良い。ところが、この性質を探すために、小生は 1年を費やすことになってしまった。今から振り返れば、無駄な探究をしていた、と笑い話として済ますことができるが、当時、「並び」 が論点になる データ と、そうでないデータ を類別するという着想を得て、有頂天になってしまい、証明を冷静に詰めるということができなくなっていたようです(苦笑)。なぜなら、小生は、「resource」 を、まず、「定義」 する作業に取り組んだから (苦笑)。
 起点を間違ったために、次第に、泥沼に陥って、ついには、1年間を棒にふることになってしまった。つまり、「resource (事物)」 は、モノ (entity) の サブセット だとしていながら、モノ (事物) を定義しようとして、まさに、「W = {W}」 の罠に陥ってしまったから。

 1年間の空虚な試みに疲れて、再度、起点にもどったとき、極めて単純なやりかたを、やっと、気づいた。
 極めて単純なやりかた というのは、(T字形 ER手法の定義によれば) entity は 2つの サブセット しかないのだから、「resource」 が定義しにくいのなら、もういっぽうの 「event」 を定義して、「resource」 は、「event」 以外というふうにすれば良いということです。

 このとき、小生が、かって、専攻していた財務会計が役立った。財務会計では、「流動」 と 「固定」 を類別する基準として、「正常営業循環基準」 が使われている。つまり、事業過程 (購買過程・生産過程・販売過程) のなかで認知 (測定・計上) される モノ を 「流動」 とする。
 「event (事象)」 は、事業過程のなかで起こった行為を記述する データ である。そして、行為であれば、それが起こった 「日付」--あるいは、終了した 「日付」--が記録される。「resource (事物)」 そのものには 「日付」 はない。なぜなら、「resource」 は、「event」 を実施する主体であるか、あるいは、「event」 のなかでやりとりされる対象だから。

 そこで、「event」 に帰属する性質のなかから 「日付」 を選んで、entity を類別する判断規準としている。
 つまり、性質として、「日付」 が帰属する モノ を 「event」 として、「resource」 は (排中律を使って) 「event以外のモノ」 としている。

 当初、T字形 ER手法は、コッド 正規形の弱点を回避することを目的として、「event」 概念と 「resource」 概念を導入したのだが、次第に、コッド 正規形から離れることになった。そして、「event」 概念と 「resource」 概念は、後々、小生を苦しめることになったし、逆に、T字形 ER手法が、データ 正規形を生成しながら、事業を解析できるという特徴を稼得することにもなった。小生を苦しめた点は、「性質として 『日付』 が帰属する」 という判断規準を導入したがために、「意味論」 のなかに足を踏み入れてしまった、という点です。なぜなら、小生は 「意味論」 を毛嫌いしていて、(コッド 正規形を信奉していたから) データ 構造は、だれでもが合意できる数理 モデル でなければならない、と思っていたから。

 [ 注意 ]
 コッド 正規形を小生は信奉していましたが、セット・アット・ア・タイム 法を実装技術として信頼していた訳ではない--少々、矛盾するような言いかたですが(笑)。ただ、セット・アット・ア・タイム 法が 「驚異的な」 パフォーマンス を実現できるような技術として、小生は 「INDEX-only」 を提示したのです。

 「Event」 の定義として、性質 「日付」 を使ったがために--entity を類別するために、「意味論」 を導入したがために--、T字形 ER手法は、体系のなかで矛盾を起こさないように、「みなし entity」 という補足的な技術を導入しなければならなくなった (後述)。 □

 



[ 補遺 ] (2006年 9月 1日)

 「Entity」 を 「event」 と 「resource」 に類別する判断規準として、財務会計論・経営学の 「正常営業循環」 概念が直接の誘因になったのは、上述したとおりですが、いっぽうで、モノ 概念に関して、「哲学」 を援用したことも追記しておきます。私が参考にした 「哲学」 は、ホワイトヘッド 氏の哲学です (本 ホームページ、308ページ・312ページ・324ページ を参照されたい)。

 自然科学が取り扱う論点として、ホワイトヘッド 氏は、以下の 4項目を示しています。

 (1) 持続する現実的な事物
 (2) 生起する現実的な事物
 (3) 反復する抽象的な事物
 (4) 自然の法則

 (1) は、たとえば、山だとか岩だとか、あるいは、人間でいえば、「魂」 とか。
 (2) は、たとえば、日々のなかで起こる出来事とか、人間のからだのなかで起こる出来事とか。
 (3) は、たとえば、色合いだとか、あるいは、なんらかの認知 パターンとか。
 (4) は、万有引力の法則とか、因果律とか。

 科学は、「自然の法則」 の考えかたを前提にしています。つまり、現実の世界のなかでは、つねに、或る「(固定的な) 規則」 を示す事物が数多くある、ということです。規則正しい反復が 「法則」 として示される、ということです。規則正しい反復 (つまり、「法則」) という考えかたは、技術および方法ならびに学問が成立するための不可欠な前提です。

 モノ を考える際、ホワイトヘッド 氏が提示した以下の 3つの概念が役立ちます。
 (1) 持続する現実的な事物
 (2) 生起する現実的な事物
 (3) 反復する抽象的な事物

 ホワイトヘッド 氏は、(1) および (2) を 「出来事」 のなかで考えています。ホワイトヘッド 氏が云う 「出来事」 は、「event」 ではなくて、「occasion (機会)」 です。ちなみに、(2) の 「生起」 は、occurrence です。
 そして、TM (T字形 ER手法) は、ホワイトヘッド 氏の哲学を参考にして、entity のあいだでは、「resource」 が 「event」 に関与するというふうに考えます。ちなみに、ホワイトヘッド 氏は、「関与」 という言いかたではなくて、「侵入 (ingression)」 という用語を使っていますが、小生は、事業過程を対象にした モノ 用語として、「関与」 という穏健な ことば を使いました。
 ホワイトヘッド 氏の考えかたは、以下の文献を参照してください。

      「科学的認識の基礎」、藤川吉美 訳、理想社、昭和45年

 事業のなかで使われている データ を対象にして言えば、従業員とか部門とか商品などが 「持続する現実的な事物」 であり、契約とか出荷とか請求などが 「生起する現実的な事物」 であり、色だとか単価などが 「反復する抽象的な事物」 でしょうね。

 





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