2008年 6月16日 「技術編-6 認知番号と一意性」 を読む >> 目次に もどる
2013年 8月23日 補遺  


 TM は、個体 (entity) を 「合意して認知する」 手段として、コード 体系のなかに定義されている個体指示子を 「個体指定子 (entity-setter)」 として扱っています。この 「個体指定子」 のことを 「認知番号」 と云っています。

 TM は、セマシオロジー (「モデル → 事実」) の接近法を使っているので、モデル (TM で構成された モデル) の正しさ──すなわち、モデル の無矛盾性・完全性──を証明する手続きとして、以下の手順を守っています。

    「合意」 (認知) → 「L-真」 (文法) → 「F-真」 (事実)

 つまり、TM は、事業過程・管理過程のなかで 「情報 (帳票、画面など)」 を使って伝達されている 「『意味』 を構成する」 という手続きです。そして、「意味」 概念を 「真」 概念に翻訳して、以下のように、「真理条件 (規約 T)」 を モデル の妥当性検証法としています。

    文 p が、話し手 u によって、時 t において、(対象言語として) 真であるのは、
    p の場合その場合に限る。(参考)

 この真理条件を 「T-文」 と云います。この真理条件は、タルスキー 氏の示した 「規約 T」 を、デイヴィドソン 氏が自然言語に拡張した条件文です。

 さて、「T-文」 を 「F-真」 の テスト 文としたとき、確かに、多くの文は、「真理条件」 を満たすのですが、「反復される抽象的概念」 は、「T-文」 を満たす訳ではないでしょうね。たとえば、「カラー・コード」 を個体指定子にして、「カラー (色)」 を単独で認知するとか、「サイズ・コード」 を個体指定子にして 「サイズ (寸法)」 を単独で認知するとき、それらの 「概念」 は、現実的事態のなかに 「実在」 している訳ではないから。したがって、これらの 「概念」 は──しかも、実 データ として扱われているので──、「合意」 された個体 (entity) として扱い、これらの 「概念」 を前提にして構成された管理対象 (構成物) に対して、「T-文」 を適用するという やりかた が legitimate でしょう。ちなみに、現実的事態に対して参与観察して事業過程を記述する接近法では、これらの概念を、いったい、どうやって認知するのかしら。

 なお、量化構造の一意性は、「T-文」 が充足されていれば──言い換えれば、「F-真」 が実現されていれば──、明らかに実現されています。すなわち、「個体」 として一意である、ということです。たとえば、「赤本」 59 ページ に示した 「営業所-契約書」 モデル では、「契約」 のなかの個体 (occurrence) は、それぞれ、すべて、一意です──たとえ、個体指定子の 「契約書番号」 の値が一意でないとしても。

 そして、もし、個体を直積集合として記述するなら──直積を 「関数」 として考えるなら──、関数の座標上、数の割り当ては一次変換の一意性をもつが、それ以上ではないということです。たとえば、1、2、3 という数 (自然数との対応) が、それぞれの事実 (個体) を記述する点では、「F-真」 と同じことになるでしょうが、それらは、基数としての 「列挙 (あるいは、枚挙)」 のために使われるのであって、数そのものに──あるいは、数の比較に──「意味」 があるのではない。「F-真」 が実現されている事実に対して、数を割り当てることによって表示する場合──すなわち、「index-key」、 しかも、一意性を実現した 「unique-key」 を使う場合──、「F-真」 を実現した個体の指示を効率的におこなうために用いられているのであって、用いられている数の値は、指示を効率的におこなうために任意に選ばれて良いのです。言い換えれば、同じ事実が、全然、ちがう数の割り当てによっても表示され得るのです。すなわち、数の割り当ては、「事実」 を観るひとの 「信念」 の対象であって、「F-真」 を問われる対象ではない、ということです。したがって、「文の意味」 のなかに──事業過程・管理過程のなかで、「合意」 された対象に対して──、個人の 「信念」 の対象を示すような・仮定された存在物を導入することは、「T-文」 に反するということです。しかし、個体指定子が、「実際には、その個体指定子では正当化されないような一意性を正当化しよう」 と SE たちは考えがちになるようですね。

 
(参考) 「真理と解釈」、ドナルド・デイヴィドソン 著、野本和幸・植木哲也・金子洋之・高橋 要 訳、勁草書房、43 ページ。

 



[ 補遺 ] (2013年 8月23日)

 現実的事態を写像する モデル では、「F-真」 を実現するために、次の 2つの規則を守らなければならない。

 (1) 文法的に正しい導出規則を適用して構成された記述は、すべて、実際上、或る対象を指示すること。

 (2) いかなる記号も、それに対する 「意味」 が保証されることなしに、新たに固有名 (記号) として導入
   されることはないこと。

 コード 体系の中に定義されている 「個体指示子」 (管理番号) には、適用区域があります。物理的には 2つの個体が同じであることは有り得ないのですが、管理番号には適用区域があるので、適用区域を越えれば必ずしも管理番号は一意にはならない。キー (index-key) の一意性は、「キー の定義表」──モデルを作成した後で用意する定義表──で考慮すればいい。





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