2010年 2月 1日 「実践編-17 『null--key』 と 『ADD-only』」 を読む >> 目次にもどる
2018年11月15日 補遺  


 

 本編では、具体例を示しておいたので、取り立てて、補足説明はいらないでしょう。

 さて、本編で実践編が終了しました。
 実践編に続いて応用編が構成されているのですが、応用編で記述されている例のほとんどは、本 ホームページ の 「データ 解析に関する FAQ」 のなかから流用した例なので、応用編の補足説明はいらないでしょう──「データ 解析に関する FAQ」 を参考にしてください。したがって、本 ページ で 「『赤本』 を読む」 を終了します。

 次回から、拙著 「T字形 ER データベース 設計技法」 (1998年出版) に対して 「補遺」 を綴ってみます。「T字形 ER データベース 設計技法」 は、TM の前身となった T字形 ER手法を まとまった体系として公にした最初の著作です。拙著新刊 「モデル への いざない」 のなかで述べた TM の考えかたと対比してみれば、T字形 ER手法と TM では、モデル 観が非常に変化しています。その変化を織り込みながら TM と対比して T字形 ER手法が どのようにして TM に変化していったのかを振り返ってみたいと思います。 □

 



[ 補遺 ] (2018年11月15日)

 「黒本 (『T字形 ER データベース 設計技法』)」 は 1998年の出版です、「赤本 (『データベース 設計論--T字形ER』)」 は 2005年の出版です。その二つの著作は、モデル の記法として 「T之字」 記法を使っていますが──したがって、見た目には大きな違いがないように思われますが──、モデル 論の前提が大きく変わっています。その変更の動因になったのが、2000年に出版した 「論考 (『論理 データベース 論考』) です。

 「論考」 は、出版当時、とても評判が悪かった──出版社に送られてきた 「読者 カード」 には、怒りに満ちた意見もありました。そして、T字形 ER 法の ファン たちすら 「論考」 を どのように扱えばいいのかという戸惑いが広がっていました。ただ、私は、「論考」 を書かねばならなかった──私は、当時、書かねばならないという さし迫った状態に陥っていたのです。「論考」 を執筆した理由は、一言でいえば、「黒本」 を否定することでした。「黒本」 を出版して僅か 2年後に、「黒本」 を否定する著作を認めなければならなかった私の苦しみを わかってほしいとは言わないけれど、少なくとも 僅か 2年後に否定しなければならなかった理由を わかっていただきたい──「黒本」 は世間 ウケ がよかったけれど、モデル としての 「完備性」 が証明されていなかった [ というよりも、「完備性」 に対する配慮がなされていなかった ]。

 「黒本」 は、当時、実地に使っていた モデル (らしき?) 技術を体系化した著作です──理論的な検証はしていなかった。「黒本」 を執筆中、私には 「T字形 ER法」 について幾つか納得のいかない点があった。納得のいかない点は、特に、サブセット 構造の或る現象と、いわゆる one-header-many-details (HDR-DTL) 構造です。サブセット 構造の或る現象というのは、サブセット の上下の偕が入れ替わっても 「意味」 が通じるという現象です (「多重継承」 問題)。当時、私は構文論と意味論の確たる意識を持っていなかったので、サブセット の上下の偕が入れ替わっても 「意味」 が通じる現象を 構文論上 検証しないで、意味論のみで説明していました (苦笑)。また、HDR-DTL については、「関係がそのまま モノ になる」 現象──HDR と DTL が揃ってひとつの 「意味」 を成す現象──を 皆目 説明できなかった。HDR-DTL 構造は、構文論的には、合成関数 (あるいは、ファンクター) なのですが、構文論と意味論という意識のなかった私には、そして 「T字形 ER法」 は 当初 命題論理を前提にして体系化されていたので、「関係がそのまま モノ になる」 という現象が説明できなかった。

 「T字形 ER法」 について幾つか疑義を抱いたまま、それでも実地に使っている技術を体系化して出版しました。そして、私は疑義を晴らすために、数学 (数学基礎論、離散数学) と哲学を学習していました。その学習の成果が 「論考」 です。「論考」 を執筆していて私が痛感したのは、私が構文論・意味論を意識しないで、構文論で説明できない点を安直に意味論に逃げて説明していたということです。「論考」 を執筆して私が得た最大の恩恵は、(数学基礎論・離散数学の基礎技術を学習して) 構文論と意味論を強く意識したことです──特に、構文論に対する私の意識は とても強くなりました (それが、以後、「T字形 ER法」 を見直して、TM を作る強い動因になりました)。「論考」 を執筆しなければ、TM は生まれていなかったでしょう。

 私は数学基礎論・離散数学を学習して構文論・意味論を意識するようになったのですが、「論考」 では数学基礎論の基本技術を棚卸しするのに精一杯だったので、「論考」 は結果的には構文論が強く意味論が弱いという格好になってしまいました。そこで、「T字形 ER法」 を数学基礎論の観点から見直して、さらに意味論にも配慮して改良をくわえて体系化して出版したのが 「赤本」 です。「赤本」 で初めて、L-真と F-真という考えかたが導入されました。「黒本」 と 「赤本」 では、「T字形 ER法」 の技術そのものは それほど変わっていないように見えますが、「黒本」 で懸案だった 「多重継承」 問題や HDR-DTL 構造について、「赤本」 では構文論的 ソリューション を提示しています──ただ、HDR-DTL については、「合成関数」 (あるいは、ファンクター) として説明していない、その説明は 「いざない」 で初めて明記しました。

 私は、今まで、単行本として 9冊 執筆しています。今振り返れば、それらの著作は、そのまま、私の成長を記録した書物となっています──後続の著作が先行の著作の間違いを正して、新たな考えかたを取り入れています。ですから、「いざない」 が私の モデル についての考えかたを最終的に示していると言っていいでしょう。次回 (2018年12月 1日) から、「いざない」 を註釈していきます。






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