2001年10月15日 作成 日本的表現の英訳 >> 目次 (作成日順)
2006年 4月 1日 更新  


 英語と日本語の [ 発想の ] 違い (意識構造) を際だって認知するためには、日本語慣用表現を英語の表現と対比してみるのが最も近道である。以下の記載する書籍は、単語単位に記述されているので、興味ある単語 (あるいは、英訳を調べたい単語) を 「拾い読み」 すればよい


 

 ▼ 以下の 4冊は座右に備えておけば極めて役立つ。

 ● 最新 日米口語辞典、Seidensticker、松本道弘 共著、朝日出版社

 ● 日英語表現辞典、最所 フミ 編著、研究社

 ● 英語ことわざ辞典、大塚高信・高瀬省三 共編、三省堂

 ● BEYOND POLITE JAPANESE (A Dictionary of Japanese Slang and Colloqualisms)
  Akihiko Yonekawa 著、 Jeff Garrison 翻訳、KODANSHA INTERNATIONAL

 



[ 読みかた ] (2006年 4月 1日)

 この 4冊と、「日本紹介のために」 ヘ゜ーシ゛ のなかで記載した 「日本紹介のための 英語会話辞典」 (旺文社) を てもとに置いておけば、英作文の際、非常に役立ちます。ぼくは、英文日記を綴る際に、これらの辞典を、多々、参照しています。

 日本で育って、英語を学習する際、「日本語の表現力」 のほうが強いのは当然であって、母国語として自然に体得している 「日本語の表現」 を、いかにして、英語の 「自然な」 記述として翻訳するかという点が、英語学習の中核になるでしょう。英語学習では、「think in English」 を謳っている人たちもいますが、日本語の運用力と同じ程度の英語運用力を 「think in English」 で実現できることなど、どだい、無理な話です。たとえば、小説や哲学辞典・数学辞典などに記述されている日本語を、日本語運用力と同じ程度で、英語で考えて記述できますか [ できないでしょう ]。

 さて、以下の日本語を英訳してみて下さい。

  一徹/ 枯れた芸/ 腹芸/ 自主性/ 人脈/ 誠心誠意/ 包容力/ 問題意識

 英訳しにくい日本語ばかりを、わざと、示したのですが (笑)、これらの単語を、われわれは、ふだんの会話 (文脈) のなかで、自然に使っていますが、英訳するとなれば、これらの単語が使われている日本語の文を すべて 英訳しても、なかなか、「意味」 を伝えるのが難しい概念ですね。逆に言えば、英語文化の独自な概念もあって、日本語に翻訳できない語もあります。たとえば、justice という概念は、英語文化と日本語文化では、微妙に ス゛レ ているようです。

 日本で育っている日本人が、日本人であることを捨てて、英語を英語文化の文脈のなかで話すようになることが英語学習ではないでしょう。言い換えれば、日本人が英語を学習するということは、(当然ながら、コミュニケーション のためなのですが、) いっぽうで、ふたつの文化を学習することでしょうね。すなわち、日本文化を確認することにもなりますし、ほかの文化を知ることにもなります。その意味では、外国語を 1つ (以上) 学習することは、益する所が大ですね。

 言語は、そもそも、コミュニケーション の手段ですから、英語を学習するのであれば、英語を使った コミュニケーション が最大の目的ですが、(小学校から英語を習っている日本人の すべて が英語を使って コミュニケーション するような機会はないですから、) 上述したように、みずからの文化・思考法を確認するための手段として英語学習を考えても良いのではないでしょうか。
 ぼく自身のことを言えば、40歳代前半までは、英語を使って仕事することが、ときどき、あったのですが--ちなみに、ぼくの専門技術である テ゛ータヘ゛ース 技術は、すべて、欧米人から教わったので、英語で習得したのですが--、それ以後は、そういう状態は、ほとんど、無くなって、英語で綴られた ウェッフ゛・ヘ゜ーシ゛ や英語文献から情報を入手するために英語を学習しているというのが現状です。そして、ぼくは、いま、日本語の思考法と英語の思考法を対比しながら、それぞれの思考法の特徴を確認しています。そういう学習であっても、英語に接していますので、欧米人と たまに会談することがあったときに、英語は、自然としゃべることができます。たとえば、本 ホームヘ゜ーシ゛ の 「T字形 ER手法の英訳」 は、たまたま、2週間に 1回の頻度で、7回ほど、T字形 ER手法の技術を (日本に単身赴任していた) 米国人に教えたときに綴った 「軽い読み物」 として英作しました。「技術」 そのものを説明するために英作することは、それほど難しいことではないのですが--というのは、技術の立脚点になっている数式を綴って、それらを片言の英語で説明しても、数式さえあれば、数学を知っている欧米人なら理解できますから--、日本語の思考を際立って示している概念を英語で説明するのは非常に難しいでしょう。

 たとえば、「人脈が広い」 という言いかたは、あちこちの つきあいに出ていって社交的 (a social mixer) で 「コネ」 が多数ある (He has pull all over) ことを意味しているので--He を使った理由は、sexual discrimination として使ったのではないのであって、日本では、「宴会」 (a banquet や dinner party とはちがい、「身内」 があつまって、「一家、一族郎党」 であることを 「酒の席」 で確認する会だとぼくは思っているのですが) に出ていって、顔が広い (He has extensive contacts) ようにふるまうのは、ほとんど、男性であることを示しているのであって--、欧米の through the old-boy network に近い networks/ access を多数 もっていることではないでしょうか。そうかといって、欧米の クラフ゛ (club) 的な形態 [ 意図的に閉鎖した 「選ばれた」 つきあい ] とも違うでしょうね。

 「日本を紹介するための英語会話辞典」 では、「宴会」 に関して、的確な補足情報を記述しています。以下に引用します。

    In Japan, having drinks together is a way of establishing closeness and trust. So if you turn down invitations,
    not just to enkai but even for drinks after work, too often, you'll be considered a person who's hard to
    get along with.

 ちなみに、この辞典では、「宴会」 を An enkai is a Japanese-style party と英訳していますが、的確に配慮した訳ですね。

 俗語は、日本語でも、ぼくには、わからない意味が多い。たとえば、「キモ かわいい」 という言いかたは、日本語でも、ぼくには意味がわからない。日本語の俗語を、英語の対応する俗語に翻訳して、欧米人と語る機会などは、まず、ないと思うのですが、"What do you call/say this in English?" と問われたら、"The English for kimo-kawaii is..." ちょっと、困ってしまいますね (苦笑)。ぼくは 「お高くとまっている (so stuck-up)」 訳じゃないのであって、日本語で意味のわからない語は英訳できない。 "I don't know. It's young guys' slang." しか言いようがない。一時的な・流行語の俗語ではなくて、一般化して口語のなかで使われている俗語であれば--たとえば、「ちゃちな」 とか 「フ゜ータロー」 など--、「Beyond Polite Japanese」 辞典を使えば、英訳できます。

 




 

 ▼ 以下に記載する本は通読されたい (「拾い読み」 でもよい)。

 ● 日本人の発想から英語の表現へ、国際交流基金 編、研究社

 ● 日本語と英語 その発想と表現、長谷川 潔、サイマル 出版会

 ● 英訳 日本語らしい表現 660、中村保男 編著、(財)日本英語教育協会

 ● 日本語と英語 (その発想と表現)、長谷川潔 著、サイマル 出版会

 ● 現代日英表現辞典 (英語でどういうか)、三枝幸夫 編、研究社出版

 ● この日本的表現を英語で何という、ヒ゜ーワイ・ス 監修、松下文男 編、中経出版

 ● 英語でなんて言うの? (見つけた! ス゛ハ゛リ この表現)、西田武寛 著、タ゛イヤモント゛ 社

 ● これを英語で言いたかった!、田所メアリー 監修、シ゛ェームス゛・カ゛イカ゛ー 執筆、朝日出版社

 ● もっと これを英語で言いたかった!、田所メアリー 監修、ランス・A・リントナー 執筆、朝日出版社

 ● どうしても これを英語で言いたかった!、田所メアリー 監修、シ゛ェームス゛・カ゛イカ゛ー 執筆、朝日出版社

 ● 言えそうで言えない英語表現、山岸勝榮 著、研究社出版

 ● 広辞苑の新語を英語で何という?、岩村圭南、フ゛レーフ゛ン・スマイリー 共著、朝日出版社

 ● こんなに英語で表現できる (英語使い分け事典)、石橋眞知子、明日香出版社

 ● 2001 JAPANESE AND ENGLISH IDIOMS,
  Nobuo Akiyama and Carol Akiyama, Barron's Educational Series, Inc.

 ● 和英 日本ことわざ成語辞典、山口百々男、研究社


 以下に記載する本は Kodansha International が出版している 「POWER JAPANESE」 シリース゛ のなかに収められている (前述した 「BEYOND POLITE JAPANESE」 も、この シリース゛ のなかに収録されている)。
 
 ● LOVE, HATE AND EVERYTHING IN BETWEEN
  村上真美子 著、Ernest Reiss 翻訳、KODANSHA INTERNATIONAL

 ● KANJI IDIOMS, George Wallace, Kayoko Kimiya, KODANSHA INTERNATIONAL

 ● "BODY" LANGUAGE, Jeffrey G. Garrison, KODANSHA INTERNATIONAL

 ● COMMUNICATING WITH KI: THE "SPIRIT" IN JAPANESE IDIOMS,
  Jeffrey G. Garrison, Kayoko Kiyama, KODANSHA INTERNATIONAL

 ● ANIMAL IDIOMS, Jeffrey G. Garrison, Masahiko Goshi, KODANSHA INTERNATIONAL

 



[ 読みかた ] (2006年 4月 1日)

 以上に記載した書物と同じ書物を購入することを薦めているのではなくて、こういう類の書物が てもとにあれば、英語学習を進めやすいことを言いたいのです。たとえば、一覧表の最初にほうに記載した書物 (「日本人の発想から英語の表現へ」 (国際交流基金 編、研究社) や 「英訳 日本語らしい表現 660」 (中村保男 編著、(財)日本英語教育協会) は、もう 20年くらい前に出版されたので入手できないと思います。

 日本語の 「独特な」 表現法を英訳した書物を読んで--あるいは、逆に、英語の 「独特な」 表現法を和訳して--、日本語の思考法と英語の思考法のちがいを学習するのが英語学習の 1つのやりかただと思います。「ことわざ」 は、民族の知恵を凝縮した言い伝えですが、同じ現象を観ても、民族ごとに 「解釈」 が違ってきます。たとえば、「Rolling stone gathers no moss. 」 は、日本では、「転がる石に苔生さず」 と言い、「たびたび商売を替える人は金持ちになれない」 という意味だそうですが、米国では、逆に、「苔生さず」 を良い意味に解釈して、転職などを是とする人たちが多いようです。そして、興味深いことに、日本でも、最近では、「苔生さず」 を 「苔のような厭な物が生じない」 というふうに解釈する若い人たちが多いそうです。ちなみに、小生は、52歳ですが、「苔生さず」 を 「苔のような厭な物が生じない」 というふうに解釈するほうです。

 あるいは、「月 (the moon)」 を観て、虫の鳴き声を聴いて、「風流だ」 と感じる風習は欧米にはないでしょう。蛙・虫の鳴き声は騒音でしかないし、「lunatic (= mad, extremely foolish)」 という語が示すように、欧米人が 「Luna (= the goddess of the moon)」 に対して抱いている像は悪い。源氏物語の英訳が、欧米で、どのように読まれたのかを、小生は、日本人として、知りたい。月明かりのなか、光源氏が笛を吹きながら、たんぼを歩いている光景は、日本人にとって 「しっとりとした風流」 を感じても、欧米人にとっては、「幻想的な感じ (an air of fantasy)」 なのでしょうね。

 小生は、「禅」 を信奉していますが、仏教で云う 「空の空なるかな、すべて、空なり」 は、英訳しにくいですね。「禅」 の和英辞典は、読書案内 「仏教」 のなかに記載したのですが、民族の思考に影響を及ぼしている宗教の考えかたを英訳するのは、キリスト 教の考えかたと、皆目、相違するので、なかなか、伝達しにくい。社交の ルール では、宗教・政治に関する話題は避けるのが賢明であるとされています。「空の空なるかな、すべて、空なり」 を下手に英訳すれば、「神」 を否認することになりますから。「仏」 と 「神」 のちがいを英訳するとなれば、非常に難しいでしょう。そういう英訳では、文を英訳したあとで、そうとうな量の補足説明を添えなければ誤解を生じるでしょうね。
 したがって、日本語の 「独特な」 言いかたに対応する英文を暗記しても危険であるということです。

 海外出張 (欧米への出張) を数多く体験した人たちのなかには、欧米人の 「砕けた発音」 を真似して、「ケ゛リ (Get it?)」 とか 「ウォナヘ゛ (Wanna bet)」 という言いかたを覚えて、あたかも、英語を上手に話しているような錯覚に陥っている人たちもいますが、そういう真似は、日本人が英語を使うことにはならないでしょう--もっとも、英語を学習していて、そういう錯覚に陥る時期があることを小生は否定はしないけれど、、、(なぜなら、小生も、そういう時期があったから--苦笑)。
 英語学習の目的の 1つに、「国際人になる」 (cosmopolitan とか go internationl ということかしら) という点が云われていますが、欧米人を真似ることが国際人ではないでしょう。われわれが英語を学習するのは、英語が国際的に コミュニケーション の手段として使われているからであって、みずからの identity を喪って、欧米人を真似ることは go international にはならないでしょうね。逆に言えば、みずからが帰属する国の文化・言語表現・思考法に対して、ちゃんとした知識を習得して、その知識を的確に述べるだけの力がなければならないということです。

 




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