2002年 3月31日 作成 量化の練習問題 (その 2) >> 目次 (作成日順)
2007年 6月 1日 補遺  


 
 さて、今回は、「関係の論理」 の量化の練習問題をやってみましょう。

 まず、てはじめに、以下の文章を記号化することをやってみましょう。
 (以下の文章は「ぎこちない」文章ではあるが、記号化しやすいように綴ってあることを了承されたい。)

 (1) 複数の営業所の少なくとも 1つには、少なくとも 1人の正社員がいる
 (2) すべての営業所の社員は、すべて正社員である
 (3) 複数の営業所のなかに、正社員ばかりの営業所が、多くとも、3つある

 以上の文章は、いずれも、営業所と正社員の 2項関係 (関係の論理) である。
 したがって、営業所を x として正社員を y とすれば、2つの関係は P (x, y) として記述できる。

 まず、(1) から考えてみましょう。
 「少なくとも〜ある」 は 「いくつか存在する」 ということだから 「存在化」 (∃) として扱う。
 「営業所が少なくとも 1つある」 ということは ∃x として記述できる。
 「少なくとも 1人の正社員がいる」 ということは ∃y として記述できる。
 P(x, y) の関係において、「少なくとも 1人の正社員がいる」 ということは∃y P(x, y)として記述できる。
 ∃y P(x, y) は、(x が束縛変数にはなっていないので) まだ、「判断」 にはなっていない。

 ∃y P(x, y) を 「判断」にするためには、そういう営業所が少なくとも 1つある、という量化記号を附与して、
 ∃x {∃y P(x, y)} とすれば、「判断」 になる。

 では、(2) をやってみましょう。
 「すべての」 は 「全称化」 (∀) として扱う。
 P(x, y) の関係において、「すべて正社員である」 ということは ∀y P(x, y) として記述できる。
 ∀y P(x, y) は、(x が束縛変数にはなっていないので) まだ、「判断」 にはなっていない。そこで、「すべての」 営業所がそうであるという量化記号を附与して、∀x {∀yP(x, y)} とすれば、「判断」 になる。

 さて、(3) は、まず、「多くとも」 という概念を理解しておかなければならない。
 「多くとも (at most)」 という概念は、数学では、「高々 (たかだか)」 と言います。「高々」 は、(「多くとも」 という意味ですから) 全然、存在しないこともある (ゼロ 個でもいい) という点に注意してください。
 「高々」 の記号は 「!」 を使います
。例えば、「高々 2つ」というときには、「多くとも 2つ存在する」 ということですから、「∃2 (x)!」 として記述します。
 また、「ちょうどいくつ」 というときには 「!!」 というふうに記述します。例えば、自然数のなかで、「x − 1 = 0」 の ソリューション は 「ちょうど 1つしかない」 ということですから 「∃1 (x)!! (x − 1 = 0)」 というふうに記述します。
 「高々いくつ」 とか 「ちょうどいくつ」 とかのように数値を附与された記号のことを数値量記号と言います。

 では、「高々 3つ」 を記述してみましょう。「∃3 (x)!」 です。
 P(x, y) の関係において、「すべて正社員である」 ということは ∀y P(x, y) として記述できる。
 ∀y P(x, y) は、(x が束縛変数にはなっていないので) まだ、「判断」 にはなっていない。そこで、「高々 3つの」 営業所がそうであるという数値量記号を附与して、∃3 (x)! {∀y P(x, y)} とすれば、「判断」 になる。

 次に、記号操作の練習をやってみましょう。
 以下の論理式の 「否定形」 を作ってみてください。
 (4) ∀x {∀y P(x, y)}
 (5) ∃x {∀y P(x, y)}

 まず、(4) からやってみましょう。
 ¬{∀x [ ∀y P(x, y) ] }.
 ¬∀x は ∃x と同値であることを思い出してください。
 ¬{∀x [∀y P(x, y) ] } ≡ ∃x {∃y ¬P(x, y) }.

 (5) は、¬∃x が ∀x と同値であることを思い出してください。
 ¬{∃x [ ∀y P(x, y) ] } ≡ ∀x {∃y ¬P(x, y)}.

 では、最後に、論理式の 「真偽」 を判断する問題を 1題やってみましょう。
 以下の 2つの 「関係の論理」 を前提にします。
 (6) x Ry x は y の兄である。
 (7) x Ry x は y よりも年上である。

 以下の論理式の 「真偽」 を判断してください。
 (8)∀x {∀y [ R(x, y) ⇒ ¬R(x, y) ] }.

 この論理式を、ちゃんと 「読めますか」? この論理式は以下の意味です。
 「すべての x について、そして、すべての y について、x が y の兄ならば、『x は y よりも年上である』 ことはない」。
 したがって、「偽」 である。

 次回は、「反射性・対称性・移行性」 を説明します。□

 



[ 補遺 ] (2007年 6月 1日)

 前回 (108 ページ) の 「量化の練習問題」 をやっていれば、今回の問題は、それほど難しい問題ではないでしょう。記号列を観て、なんだか難しそうだなあと感じたとすれば、その感じというのは、たんなる 「慣れ」 の度合いで起こったにすぎないでしょうね。実際、記号列の演算に 「慣れたら」、記号列の演算のほうが、論法の妥当性を調べるのが簡単ですし、楽 (らく) です。というのは、記号列の演算では、論理の妥当性を検証するための法則 (推論の法則) が、数学・論理学・哲学の長い歴史のなかで、いくつも用意されているから。

 本 エッセー のなかで示した (8) の 「真偽」 について、ほかの やりかた を考えてみましょうか。
 以下の法則を思い出して下さい。

   p ⇒ q ≡ ¬ p ∨ q.

 この式を使えば、(8) ∀x {∀y [ R(x, y) ⇒ ¬R(x, y) ] } を以下のように記述できます。

  ∀x {∀y [ ¬ R1(x,y) ∨ ¬ R2(x, y) ].

 すなわち、「『x は y の兄である』 でないか、あるいは、『x は y よりも年上である』 でない」。
 ¬ R1(x, y) も ¬ R2(x, y) も、いずれも、前提に反しますね。したがって、「偽」 です。




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