2002年 7月15日 作成 同値関係 >> 目次 (作成日順)
2007年 9月16日 補遺  


 
 さて、今回は、「同値関係」 を扱ってみましょう。

 集合 X を考えて、2つの元 (x と y) の間に関係 R が成立すれば、以下のように記述する。

  x 〜 y.

 関係 R が、以下の 3点を満たすとき、「同値関係」 という。

 (1) 任意の x ∈ X について、x 〜 x である。
 (2) 任意の x, y ∈ X について、x 〜 y ならば y 〜 x である。
 (3) 任意の x, y, z ∈ X について、x 〜 y, y 〜 z ならば x 〜 z である。

 以上の 3点は、反射性・対称性・移行性のことである。
 言い換えれば、反射性・対称性・移行性の 3つの法則を 「同値律」 という。

 x 〜 y になることを、x と y は 〜 について 「同値」 という。
 x ∈ X と同値な X の元全体の集合 A (x) を x の属する 「同値類」 という。
 したがって、部分集合は同値類である。

 集合 S の元 (a と b) の間に成立する同値関係に着目して、互いに同値な元同士を 1つの組にまとめれば、
S は、いくつかの組に 「類別」 される。

 (1) 同値律から判断すれば、べつべつの組のなかに同じ元は帰属しない。
 (2) 反射律から判断すれば、S の元は、きっと、どれかの組に帰属する。
 (3) それぞれの組を 「類」 という。「類」 を元にして、「類」 の集合を商集合という。

 以上の考えかたを 2つの集合 (A と B) に適用して、A と B の間に 「1対1」 の対応が成立するとき、A と B は 「同値」 または 「対等」 であるといい、「A 〜 B」 というふうに記述する。
 集合 A に同値な集合の 「類」 を |A| として記述して、|A| を集合 A の 「濃度」 という。

 (1) A が有限集合であるとき、|A| を有限であるという。
 (2) A が無限集合であるとき、|A| を無限または超限であるという。
 (3) 集合 A の濃度が自然数 n を使って記述されるとき--「同数」 な集合の値として、「基数」 (cardinal) を使えば--、
   A は 「n個」 の元から成るともいう。(以後、濃度を Card (n) と記述する。)

 「測定値 (実測値)」 と 「濃度」 の違いを比較するために、三角形を使った 2つの線分の対応関係を考えてみる。

 (1) 頂点を O として、底辺の端の 2点を、それぞれ、A と B とする。
 (2) 底辺 AB と平行になるように、OA 上と OB 上に、それぞれ、点 A' と点 B' をとる。
    (AB と A'B' は平行である。)
 (3) 頂点 O から底辺に対して直線 OP をとる。
 (4) 直線 OP と底辺 AB の交点を P とする。
 (5) 直線 OP と A'B' の交点を P'とする。

 さて、頂点 O を起点にして、P を AB 上に移動すれば、P と P' は 「1 対 1」 に対応する。
 したがって、AB 〜 A'B' なので、AB と A'B' は同値になる。

 測定値としては、AB > A'B' であるが、濃度としては、Card (AB) = Card (A'B') である。

 さて、「実線」 という概念のなかで使われている 「実 (real)」 は、実測値 (actual measurement) である。
 そして、量の測定値を表現する数として 「実数 (real number)」 が使われている。
 「濃度」 を論じるには、それと比較対照できる 「実数」 の定義を用意しなければならない。
 「実数」 の概念を厳密に定義した最初の人物が、デデキント と カントール である。

 デデキント は 「切断」 という概念を使って実数を定義して、カントール は 「基本数列 (正則数列、コーシー 数列)」 を使って実数を定義した。 □

 



[ 補遺 ] (2007年 9月16日)

 本 エッセー は、同値関係について、数学的に説明しているので、実際の仕事には関係がないと思われるかもしれないけれど、同値関係は、論理的思考の根底になっている考えかたです。歴史的に観れば、カントール が 「集合 (濃度)」 概念を導入する以前にも、数学 (論理的思考) は存在していました。ただ、ヒルベルト が 「なんぴとたりとも、カントール が創設してくれた楽園から、我々を放逐することはできない」 と言ったように、集合論は、次第に整えられて、ロジック (論理学) と相互作用しながら、数学のひとつの分野になって、いわゆる 「数学基礎論」 を形成しました。「数学基礎論」 には、以下の 4つの領域があると云われています。

  (1) 証明論 (形式的公理系の無矛盾性を証明する)
  (2) モデル の理論 (形式的公理系の解釈を扱う)
  (3) 帰納的関数の理論 (計算可能関数を扱う)
  (4) 公理的集合論 (集合論を形式的公理系として扱う)

 「数学基礎論」 は、数学の 1つの分野であって、数学の すべて を包括する メタ 数学ではない。数学の専門家は、それぞれ、多様な数学を研究なさっていらっしゃいます。ただ、われわれ 数学の シロート が論理的思考を養うのであれば、「論理と集合」 を学習することになるので、「数学基礎論」 を、まず、学習することが役立つでしょう。

 さて、本 エッセー のなかで、同値関係を前提にして 「類別」 を記述しています。「類別」 について、簡単に、数学的な説明をしていますが、「類別」 は、われわれが 「概念」 を整理するために、とても大切な技術です。

 「同値」 を数学的正確性を犠牲にして簡単に記述すれば、「論理的に等しい」 という意味です。だから、「同値」 である メンバー から構成された集合を前提にすれば、ひとつの集合のなかから、「任意の」 メンバー を選ぶことができるのです。また、ひとつの集合のなかで、「同値」 な メンバー どうしを 1つの 「組」 にまとめることができますし、ひとつの集合を いくつかの 「組」 に分けることができます--言い換えれば、ひとつの集合を分割して、細分できます [ 本 ホームページ 「分割と細分」 参照、432 ページ ]。このとき、同値律に従えば、それぞれの 「組」 には、共通にふくまれる メンバー は存在しないし、(同値律の) 反射律のよれば、それそれの メンバー は、かならず、どれかの 「組」 に入るから、メンバー 全体が完全に組み分けされます。それぞれの 「組」 を 「類」 と云い、組み分けすることを 「類別」 と云います。「セット」 という用語を使えば、「類別」 は、「セット と サブセット」 という同値関係です。そして、この考えかたを、TM (T字形 ER手法) は、「データ の周延」 のなかで使っています。「分割と細分」 を、TM 風に記述すれば、以下の記述になります。

                     ┌─────┐
                     │     │
                     │     │
                     └──┬──┘
                        │
                    ┌───┴───┐
                    │       │
            分割   ┌──┴──┐ ┌──┴──┐
           ──────┼─────┼─┼─────┼──→
          │      │     │ │     │
          │      └──┬──┘ └─────┘
        細分│         │
          │     ┌───┴───┐
          │     │       │
          │  ┌──┴──┐ ┌──┴──┐
          │  │     │ │     │
          │  │     │ │     │
          │  └─────┘ └─────┘
          ↓

 同値関係は、ふつう、「〜」 という記号を使って記述します。同値関係は、数学のそれぞれの領域で、いろいろな形で現れます。たとえば、図形の集合のなかで、2つの図形が 「合同」 であるという関係とか、2つの図形が 「相似」 であるという関係は、いずれも、同値関係です。

 「濃度」 は、「基数 (カージナル 数)」 とも云います。自然数の体系 N は、無限集合ですが、それぞれの自然数は、有限の濃度を表します。というのは、それぞれの自然数を集合的に記述することができるので。
 「数」 を 「基数」 と 「序数」 という概念として考えれば、「ペアノ の公理」 は 「序数」 の性質を重視していますね。いっぽう、「基数」 の性質を応用して、0 を空集合 φ として考えて、自然数を集合論的に構成することもできます。

     0 = φ.
     1 = {φ}.
     2 = {φ, {φ}} = {0, 1}.

 したがって、

     0 = |φ|.
     1 = |{φ}|.
     2 = |{φ, {φ}}| .

 ただし、自然数全体の濃度は、無限な濃度です。自然数全体の濃度を 「可付番の濃度」 と云います。いっぽう、実数全体の濃度を考えることができます。実数全体の濃度を 「連続体の濃度」 と云います。濃度も、自然数のように、大小を考えたり--たとえば、「可付番の濃度 < 連続対の濃度」 とか--、演算を定義することができます。




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