2003年12月 1日 作成 源氏物語 >> 目次 (作成日順)
2008年 5月 1日 更新  


 以下に掲載する書物は、源氏物語を、単独に 「研究」 しようとして所蔵しているのではなくて、文学史のなかで、日本人の 「考えかた」 を知りたいために所蔵している。
 それが目的なので、文献を、源氏物語研究のために、網羅的に収集しているのではないことを御了承ください。


[ 読みかた ] (2008年 5月 1日)

 「源氏物語」 は、たぶん、日本文学史上、もっとも数多い研究書を生んだ書物の一つでしょうね。そういう壮大な書物と対座して、文学の シロート にすぎない私が、なんらかの批評を述べてみたとしても、まるで、小学生が ウィトゲンシュタイン の書物を読んで、「むずかしい」 と言っている様と同じになるでしょう。実際、私は、「源氏物語」 の 54 帖を、すべて、原文で読んではいないから──「枕草子」 を (原文で) 精読してから、「源氏物語」 の原文を通読しようと計画していて、いまだ、その計画を実施に移していない状態です。私は、「源氏物語」 を現代語訳で読んでも、登場人物の関係 (人物系図) が、こんがらがってしまいます──逆に言えば、人物系図を側 (そば) に置いて読まないと、「人間関係」 の生々しさ (懸想・苦悩・悲嘆などの、精緻な心理描写) を追跡することができない。

 十世紀に入った頃、男性貴族が仮名文字の文学作品を作りました。それらの作品は、「伝奇物語」 「歌物語」 が多かった。「伝奇物語」 とは、上代からの伝承や中国から伝わってきた話を題材にして、空想的なできごとを認めた物語で──たとえば、「竹取物語」 「宇津保物語」 「落窪物語」 など──、「歌物語」 とは、歌に関わる伝記・逸話 (「歌語り [ うたがたり ]」 と云います) や、できごとを歌に託して抒情を記した物語です──たとえば、「伊勢物語」 「大和物語」 「平中物語」 など──。

 いっぽうで、それらの物語を読んでいた女性たち (宮廷・摂関家に仕えた女房たち) が、私的な体験を随想として仮名で綴るようになって、──「源氏物語」 と ほぼ同時期に作成された日記を列挙すれば、たとえば、「蜻蛉日記」 「枕草子」 「和泉式部日記」 「紫式部日記」 など──、後 (のち) に、「女流日記文学」 と総括される文芸が生まれました。「枕草子」 に、以下の記述があります。

    ひとつには御手 (習字のこと) をならひ給へ。次には琴の御琴を人より殊に弾ひまさらんとおぼせ。
    さては古今の歌二十巻をみな浮かべさせ (暗記すること) 給ふを御学問にはせさせ給へ。

 この文は、「清涼殿の丑寅の角の段」 に綴られています。藤原師尹が娘の芳子 (後に、村上天皇女御) に言った ことば です。女御・女房の教養は、きわめて高かったと想像して良いでしょうね。そして、彼女たちは、和歌を詠み、物語を読んで文学体験を重ねてゆき、さらに、みずからの体験を仮名で記す表現力も身につけました。その時代のなかで、女房の教養が結実した最高点として、紫式部という希有な女流文学者が生まれたのでしょうね。文学史を眺めれば、「伝記物語」 「歌物語」 「女流日記」 のながれが、「源氏物語」 に集成されたと観て良いでしょう。
 なお、「伝奇物語」 および 「歌物語」 を、「源氏物語」 以後の物語作品と対比して、「初期物語」 とよぶそうです。

 さて、「源氏物語」 54 帖のなかで、「桐壺」 から 「雲隠」 までが、光源氏を主人公にして、「匂宮」 「紅梅」 「竹河」 の三帖は、後編へのつなぎになって、後編の 「橋姫」 以降の十帖は、薫・匂宮 (におうのみや)・宇治八宮たちが織りなす人間関係を綴っています──これらの十帖は、特に、「宇治十帖」 と称されています。薫は、女三宮 (光源氏と夫婦関係にあった) の子ですが、実は、柏木 (光源氏の弟) と女三宮のあいだに生まれた子です。匂宮は、明石中宮の第三皇子で、宇治八宮は、源氏の弟宮です──宇治八宮は、「椎本 (しいがもと)」 編で亡くなるので、宇治十帖は、薫・匂宮と (宇治八宮の三人の) 娘たち [ 大君、中君、そして異母の娘 浮舟 ] が織りなす物語です。

 「源氏物語」 の あらすじ は、だいたい、三部に分けられるようです──第一部は、「桐壺」 から 「藤裏葉」 までで、光源氏の出生・栄光・挫折・復帰が描かれ、第二部は、「若菜 (上)」 から 「幻」 までで、女三宮を正妻に迎えた光源氏の苦悩 (女三宮と柏木の密通、そして、女三宮を正妻に迎えたがために紫上 [ 光源氏と夫婦関係 ] が苦悩して病死)が描かれて、光源氏が、かつて、義母であった藤壺と犯した罪が蘇り、栄華を極めたなかでの苦悩が描かれ、第三部は、「匂宮」 から 「夢浮橋」 までで、薫・匂宮・浮舟の 「三角関係」 が描かれ、浮舟が入水自殺するのですが、一命を取りとめ出家します [ 今風に言えば、「ドロドロ の恋愛劇」 ですね ]。

 「源氏物語」 は、短編を集成して長編物語になっています。現代の 「小説」 という観点からみれば、「小説」 の命は 「構成力」 だと云われていますが──「構成」 とは、だれが (人物)、いつ (時間)、どこで (場所)、なにをしたか (事件) ということですが──、「源氏物語」 の構成力は、すごい としか言いようがないですね。構成が確実であれば、テーマ も確実に浮き彫りになるのでしょうが、「源氏物語」 のなかに(私は、原文を すべて 読んでいないので、現代語訳に立った感想しか言えないのですが)、現代で云う 「テーマ (『源氏物語』 の テーマ)」 を私は掴みかねています、、、。

 「源氏物語」 と ほぼ同時代の人たちは、「源氏物語」 を以下のように評しています。

    この 「源氏」 作り出たることこそ、思へど思へど、この世一つならずめずらかに思ほゆれ。まことに、
    仏に申し請ひたりける験 (しるし) にやとこそおぼゆれ。それよりのちの物語は、思へばいとやすかりぬ
    べきものなり。かれを才覚にて作らむに、「源氏」 にまさりたらむことを作りいたす人ありなむ。
    (無名草子)

    紫式部なり。そらごとをのみおほくしあつめて、人の心をまどはすゆゑに、地獄におちて、苦をうくる事
    いとたへがたし。 (今物語)

 後世、本居宣長は、以下のように評しています。

    もののあはれのふかきかたを、かへすがへす書のべて、源氏ノ君をば、むねとよき人の本として、
    よき事のかぎりを、此君のうへに、とりあつめたる、これ物語の大むねにして、そのよきあしきは、
    儒仏などの善悪と、かはりあるけぢめ也 (玉の小櫛)

 「源氏物語」 は、(「枕草子」 が 「『をかし』 の文学」 と云われるのに対比して、) 「『あはれ』 の文学」 と云われています──「をかし」 は、源氏物語では、660 回ほど使われ、それに対比して、「あはれ」 が、1000 回ほど使われて、枕草子では、「をかし」 が 400 回ほど使われ、「あはれ」 が、なんと、たったの 70 回ほどしか使われていない。源氏物語が 「あはれ」 の文学であり、枕草子が 「をかし」 の文学である、と云われる所以でしょうね。「あはれ」 の語感は、古語辞典を参照してもらうとして、古語辞典 (「重要古語小辞典」、明治書院) によれば、「あはれ」 は、「奈良時代では生活に直結した具体的な感情を表わすものであったが、平安時代にはいると、自然や人生に対する詠嘆的な感情を表わすようになり、精神的なものにまで高められ深められて来る。『あはれ』 は平安時代の文学において中心となる理念として大きな位置を占めており、とくに源氏物語は 『あはれ』 の文学といわれている。『もののあはれ』 は、外界のさまざまなものごとにふれることによって起こるしみじみとした情感をいうが、『ものあはれ』 は もっと漠然とした感傷的な気分をいい、前者の方が より精神的で観念化の度合いが大きい。」 (以下の例文は、「重要古語小辞典」 から引用しました。)

  (1) 「あはれ」 の例文

    昔かやうにあひおぼし、あはれをも見せ給はましかば、(「須磨」、愛情の意)
    いといたう思ひわびたるを、いとどあはれと御覧じて、(「桐壺」、「ふびんだ」 の意味)

  (2) 「ものあはれ」 の例文

    年ごろさもならひ給はぬ心地に、しのぶれどなほものあはれなり (「若菜 上」)





 ▼ [ 史料、資料 ]

 ● 源氏物語用語索引 (上・下)、木之下正雄 著、国書刊行会

 ● 源氏物語古註 (影印巻子本)、七海兵吉氏蔵 無外題、大塚巧藝社
  [ 紫明抄・河海抄の種本となった ]

 ● 紫明抄・河海抄、玉上琢彌 編、角川書店

 ● 湖月抄 (上・下)、北村季吟 編、吉澤義則・宮田和一郎 校合、平樂寺書店

 ● 源氏物語 玉の小櫛 寛政11年刊、北小路 健・早坂禮吾 解題翻刻、版本文庫

 ● 宇治十帖新抄 影印 (手習巻)付、山田清市 校註、白帝社

 ● 源氏物語 全、和泉忠義・森 昇一・岡崎正継 編、桜楓社

 ● 完本 源氏物語、阿部秋生 校訂、小学館

 ● 源氏物語 (1 〜 6)、日本文学全集、小学館

 ● 絵本源氏物語、日向一雅・篠原昭二・鈴木日出男 梗概挿絵説明、(財)日本古典文学 貴重本刊行会
  [ 絵は、慶安 3 年跋承応 3 年版 60 巻 60 冊本 を底本にしている。]

 




 ▼ [ 現代語訳、英訳 ]

 ● 源氏物語、吉澤義則・加藤順三・宮田和一郎・島田退蔵 訳、山岸徳兵監修、フランクリン・ライブラリー

 ● 源氏物語 全 54 帖、与謝野晶子 訳、河出書房新社

 ● 源氏物語 全、谷崎潤一郎 訳、中央公論社

 ● The Tale of Genji、translated by Edward G. Seidensticker、Tuttle

 




 ▼ [ 概説書、解説書 ]

 ● 梗概源氏物語、阿部秋生 監修、(財)日本古典文学会 貴重本刊行会

 ● 源氏物語研究、島津久基・山岸徳平・池田亀鑑 著、有精堂選書

 ● 源氏物語鑑賞 男のすきと女心のあはれ、塩田良平、新潮社

 ● 源氏物語の <物の怪> 古典 ライブラリー 1、藤本勝義 著、笠間書院

 ● 源氏物語、窪田空穂、春秋社版

 ● 源氏物語 古典を読む 14、大野 晋 編、岩波書店

 ● 新選源氏物語 54 帖、森 一郎 編、和泉書院

 ● 「國文學」 特集 源氏物語総合探究 (1 〜 4)、學燈社

 ● 日本の古典 (一) 源氏物語挿絵、清水覚次郎、大成印刷

 ● 源氏物語の引き歌 (解釈と鑑賞)、玉上琢彌 著、中央公論社

 ● 服装から見た源氏物語、近藤富枝、文化出版社

 ● 見ながら読む日本のこころ 源氏物語、実用特選 シリーズ、学研

 ● 源氏物語詳細--その語法と評釈-- (上・下)、保坂弘司 著、學燈社

 ● 源氏物語の新解釈、北山谿太 著、塙書房刊

 ● 源氏物語の語義の研究、山崎良幸 著、風間書房

 ● 源氏物語の 「表記」 を読む、藤田加代 著、風間書房

 ● 源氏物語形容詞類語彙の研究、進藤義治 著、風間書房

 




 ▼ [ 辞典、事典 ]

 ● 源氏物語必携、秋山 虔 編、學燈社

 ● 源氏物語必携事典、秋山 虔・室伏信助 編、角川書店

 ● 別冊 「國文學」 源氏物語事典、秋山 虔 編、學燈社

 ● 源氏物語辭典、北山谿太 著、平凡社

 ● 源氏物語事典、林田孝和 他編、大和書房

 ● 源氏物語 ハンドブック、鈴木日出男 編、三省堂

 ● 源氏物語図典、秋山 虔・小町谷照彦 編、小学館

 



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