2005年 6月16日 作成 「多値の OR」 関係と 「多値の AND」 関係 >> 目次 (作成日順)
2009年 7月16日 補遺  


 
 「多値の OR」 関係と「多値の AND」 関係については、「データ 解析に関する FAQ」 のなかでも、述べた (417ページ を参照されたい)。

 ここでいう 「多値 (many-valued、multivalued)」 とは、1つの個体のなかで、個体指示子に対して──TMでは、認知番号に対して──、「一意 (single-valued) ではない」 対応という意味である。個体指示子がないときには、F-真 (あるいは、L-真) を指示する (R) も、それに準ずる。1つの記号が、多値となる現象のことを 「多義」 と云う。多義 (多値) のなかには、以下のように、2つの関係(のいずれか) が起こる。

 (1) 排他的 「選言 (OR)」 関係
 (2) 同時的 「連言 (AND)」関係

 まず、排他的 「選言 (OR)」 関係が、「性質 (性質の属性値)」 のなかで起こる現象として、以下を考えてみる。

 (1)商品番号を認知番号として、「商品」 entityを認知している。
 (2)商品の属性として、「商品単価」 が記録されている。
 (3)「商品単価」 の値として、100万円と 80万円が使われている。
  (3-1)100万円は、「正価格」 を指示する。
  (3-2)80万円は、「割引価格」 を指示する。

 「単価」 が多義 (多値) となっていて、2つの 「意味」──正価格と割引価格──として使われている。しかも、多値のあいだには、「OR」 関係が成立している。したがって、多義 (多値) を一義にするための構成を作らなければならない。一意にした構成を、「MO(Multi-value 「OR」)」 として記述する。つまり、単価を、1つずつ、ばらす。(参考)

 ┌─────────────────┐     ┌─────────────────┐
 │       商 品      R│     │     商品. 単価種別   MO│
 ├────────┬────────┤     ├────────┬────────┤
 │商品番号    │商品名称    │     │商品番号(R) │商品単価    │
 │        │        ├┼───<│        │単価種別コード │
 │        │        │     │        │        │
 │        │        │     │        │        │
 │        │        │     │         │        │
 └────────┴────────┘     └────────┴────────┘

 
 多義 (多値) の 「OR」 は、(R) の項目に対しても起こる。以下を考えてみる。

 (1) 「契約番号」 認知番号にして、「契約」 entityが認知されている。
 (2) 「契約」 entityには、「仮契約・本契約」 区分 コード が適用されている。
 (3) 「仮契約」 では、複数の候補を申請することができる。
 (4) 「本契約」 では、複数の候補に対して、1つが選択される。

 この点については、「データ に関する FAQ」 で示したので、参照されたい (417ページ)。
 多値の 「連言 (AND)」 関係は、「resource」 と 「event」 のあいだで、「複数-対-複数」 の関係が成立するときに起こることが多い。いわゆる 「HDR-DTL (one-header-many-details、あるいは one-parent-many-children)」 という現象である。たとえば、以下を考えてみる。

 (1) 受注番号を認知番号として、「受注」 entityを認知している。
 (2) 1つの 「受注」 には、複数の明細行が記載されている。
    それぞれの明細行には、それぞれ、(受注された) 「商品」 が記述されている。
 (3) 1つの明細行は、後続 「event」──たとえば、「出荷」──に対して、
    「1対1」 関係が成立していて、単独の 「event」 として作用する。

 この構成は、1つの 「商品」 entityが、複数の 「受注」 entityと関与して、しかも、1つの 「受注」 entityは、複数の 「商品」 を記述しているので、「resource」 (商品) と 「event」 (受注) のあいだには、「複数-対-複数」 の関係が成立している。そのうえ、明細行が、後続 「event」 に対して、あたかも、単独の 「event」 として作用している。言い換えれば、DTL の認知番号 (受注番号) が、後続 「event」 のなかに、複写 (re-used) される。この構成が、いわゆる「HDR-DTL」 構成である。

 「HDR-DTL」 という構成では、DTL のあいだに、多値の 「連言 (AND)」 関係が成立している。しかも、HDR と DTL は、それぞれ、対(a pair)として、1つの 「event」 を構成する。すなわち、HDR と DTL のあいだに成立する 「関係」 が、そのまま、1つの 「event」 を構成する。ただし、やっかいなことに、DTL が、後続 「event」 に対して、あたかも、単独の 「event」 として作用する。数学的に言えば、「カテゴリー と ファンクター」 という構成であるが、TM は、第1階 (個体と集合) のなかで対象を演算するので、「HDR-DTL」 の関係として記される 「受注」 entity そのものは、概念的 スーパーセット──集合値をもつ組 オブジェクト──として考える。

             ┌─────────────────┐
             │       受注       E│
             ├────────┬────────┤
             │受注番号    │        │
             │        │        │
             │        │        │
             └────────┼────────┘
                      |
                      ×
                      |
          ┌───────────┴───────────┐
          |                       |
 ┌────────┴────────┐     ┌────────┴────────┐
 │      受注HDR      │     │      受注DTL      │
 ├────────┬────────┤     ├────────┬────────┤
 │受注番号    │受注日     │     │受注番号    │受注数     │
 │顧客番号(R)   │        ├┼───<│明細行番号   │        │
 │        │        │     │商品番号(R)   │        │
 │        │        │     │        │        │
 │        │        │     │         │        │
 └────────┴────────┘     └────────┼────────┘
                                  │
                                  ─
                                  │
                       ┌───────────┘
                      │
                      ─
                      │
             ┌────────┴────────┐
             │       出 荷      E│
             ├────────┬────────┤
             │出荷番号     │出荷日     │
             │受注番号(R)   │        │
             │明細行番号(R)  │        │
             │        │        │
             │        │        │
             └────────┴────────┘

 
(参考)
 「属性値の多義」 は、かって、「ER (Entity. Role)」 としていたが、最近、「MO (Multivalued 「OR」)」 というふうに変更した。



[ 補遺 ] (2009年 7月16日)

 本 エッセー に対して、取り立てて、補足説明はいらないでしょう。
 さて、補足説明ではなくて、舞台 ウラ の話を ひとつ披露します──これから披露する舞台 ウラ の話は、かつて、本 ホームページ のどこかに綴ったかもしれないのですが、MAND を TM の文法体系のなかで どこに入れるか 迷ったという話です。

 TM の前身であるT字形 ER手法では、MAND という概念は出ていなかった──単に、「HDR-DTL」 構成として扱っていました。そして、「HDR-DTL」 構成を文法体系の どこに入れるかを私は迷っていました。というのは、「HDR-DTL」 構成は、文法上、「event-対-resource」 が 「複数-対-複数」 のときに生じる現象なので、T字形 ER手法の 「関係文法」 のなかで記述すべきではないかという考えも持っていました。ただ、当時 (「論理 データベース 論考 (以下、「論考」)」 を出版した 2000年頃まで)、「HDR-DTL」 構成を整合的に説明できなかったので、「関係文法」 のなかに入れないで、「多義」 のなかで、「HDR-DTL」 構成の記法のみを記述していた次第です。

 「HDR-DTL」 構成が セット 概念のなかで サブセット として整合的に説明できないことは、「黒本」 で明記していました──すなわち、個体指定子を使って個体 (entity) を認知したときに、「『関係』 が そのまま 個体になる」 という現象を説明できなかった。「論考」 を執筆して、「HDR-DTL」 構成は、「合成関数」 (あるいは 「ファンクター」 概念) を使えば簡単に説明できることに気づいたのですが、T字形 ER手法は、セット 概念を前提にして体系を構成してあったので、その前提を修正しなければならなくなった次第です──すなわち、クラス 概念を導入する、と。「論考」 は、実は、もう一つの大前提を修正するために執筆したのですが、その修正作業のなかで、クラス 概念も ついでに導入したという次第です。「もつ一つの大前提」 というのは、「意味論」 の前提です。T字形 ER手法は、ウィトゲンシュタイン 氏の前期哲学 (「意味の対応説」) を前提にして作られたのですが、その前提を かれの後期哲学 (意味の使用説) に移すために執筆した著作でした [ と同時に、数学基礎論の技術を棚卸してみました ]。「論考」 を執筆していたときには、はっきりと意識していなかったのですが──だから、「論考」 の 「あとがき」 では、歯切れの悪い意見しか述べられなかったのですが──、今から振り返ってみれば、「論考」 が検討したかった点は、数学の 「完全性」 における 「意味論的恒真」 概念でしょうね。「完全性」 は、数学上、「F-真 ←→ L-真」 のことですが、私がこだわった点は、「F-真 → L-真」 です。自然言語で記述された 「情報」 において、意味論的恒真というのは どういうことを云うのか という疑問を私は抱いていました。この点に関して、私なりの結論を出した著作が 「モデル への いざない」 (2009年 2月出版) でした。この話は、きょうの テーマ ではないので、ここで割愛します。

 さて、T字形 ER手法は、「論考」 以後、「意味論」 を徹底的に検討して、「赤本」 において、TM という呼称に変わりました。「赤本」 を出版した年月は、2005年 9月ですが、本 エッセー は 2005年 6月に綴れていて、本文のなかで すでに TM という語を使っているので、この頃には、もう、現場では TM という言いかたを使っていたと思います。「赤本」 は、T字形 ER手法を 「意味論」 の観点から様々に検討していて、T字形 ER手法の いつくかの技術が修正されました。それらの修正点の ひとつが 「MOR と MAND」 でした。「赤本」 においても、MAND を 「関係文法」 のなかに入れるかどうかを迷っていたのですが、「多値」 として MOR と対にして説明したほうがわかりやすいので、TM の体系のなかで 「多値」 という範疇を立てて MOR と MAND を説明するようにしました。勿論、説明のしやすさのみで そういう体系にしたのではなくて、「HDR-DTL」 構成を検討してみたら、かならずしも、「event-対-resource」 が 「複数-対-複数」 のときのみに生じる現象ではなくて、「resource」 のなかでも生じるし、ほかにも様々な事態のなかで生じることがわかったので──それらの事態を 「データ 解析に関する FAQ」 のなかで いくども検討してきました──、「関係文法」 のなかに入れなかった次第です。

 ただ、「赤本」 は 「MOR と MAND」 を導入しましたが、説明が不足していたので、改めて、「いざない」 のなかで、「MOR と MAND」 を説明し直しています [ 第 12章 ]。





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