2005年 9月16日 作成 文を綴るための辞典 (英語の口語辞典) >> 目次 (作成日順)
2010年 9月16日 補遺  


 
 TH さん、きょうは、「文を綴るための辞典 (英語の口語辞典)」 について考えてみましょう。

 
 公 (おおやけ) に示す文のなかで、口語体──広い意味で、informal、colloqual や slang など──を使うことは、まず、ないと思うのですが、 英文日記を綴るときなどには、口語体を多用するでしょう。
 私が常用している口語辞典は、以下の 3冊です。

 (1) 「最新 日米口語辞典」、エドワード G. サイデンステッカー・松本道弘 共著、朝日出版社
 (2) 「Beyond Polite Japanese (A Dictionary of Japanese Slang and Colloquaialisms)」、Akihiko Yonekawa、
     translated by Jeff Garrison、Kodansha International
 (3) 「Japanese Idioms」、Nobuo Akiyama and Carol Akiyama、BARRON'S

 
 以上の 3冊のほかに、ときどき、「Give Get 辞典」 (松本道弘、朝日出版社) を併用することもあります。

 (1) は、英語の専門家たちによれば、松本さんが単独で執筆したのではないか、ということです。そして、収録されている英訳は、かならずしも、口語体ばかりではない、とのことです。公に提示する英作文を綴る際、私は、「定番の」 研究社 和英大辞典・英和活用大辞典を使うのですが、英文日記を綴るときには、電子辞書として収録されている 「定番の」 辞典 (研究社 和英中辞典、小学館 プログレッシブ 和英辞典など) を使い、いっぽうで、上述した口語辞典を多用します。(1) は、最も多用してきた辞典です。

 たとえば、試合などで、鹿島 アントラーズ が、次々と、対戦相手を 「総なめ」 にしたことを記述するには、文語体であれば、以下のように英訳できるでしょう (小学館 プログレッシブ 和英辞典から引用しました)。

   We beat all the other teams./ We won a sweeping victory over the other teams.
   (口語) We licked all our opponents.

 「最新 日米口語辞典」 では、以下の例文が記載されています。

   The young unknown licked all comers in the recent judo tournament.

 Lick は、slang っぽいので、公的な文では使えないでしょうね。でも、英文日記では、「lick all comers」 は、生き生きとした記述として、「どんぴしゃ」 でしょう。(「総なめ (にする)」 が記載されている ページ の見開き反対 ページ には、) 「底抜けの」 が収録されていたのですが、以下の例文が記載されています。

   She's cheerful to the core.
   He's an out-and-out idiot.
   He's an idiot through and through.
   He's a complete idiot.
   They had the wildest time last night.
   He's an out-and-out snob, and his wife is just as bad.

 「底抜けの アホ」 とか 「底抜けに下衆 (げす) い奴」 という記述には、「どんぴしゃ」 な例文ですね。
 ちなみに、文語体では、以下のように綴るでしょう (小学館 プログレッシブ 和英辞典)。

   He is hopelessly good-naured.
   His optimism knows no bounds.
   They were on a noisy spree.

 不思議なことに、「最新 日米口語辞典」 では、「どんぴしゃ」 が収録されていない。
 小学館 プログレッシブ 和英辞典は、「どんぴしゃ」 に対して、以下のような見事な英訳を記載しています。

   My hunch was right on the nose.
   This will suit my needs to a T.
   Your answer is exactly right./ You've hit the mark.

 「Beyond Polite Japanese」 辞典を調べたら、以下の訳語が記載されていました。

   Look like the weather report was on the money today. It's beautiful day.

 この言いかたは、日本人には思い浮かばないでしょうし、また、使わないほうがいいでしょうね。
 「バカウケ」 は、「最新 日米口語辞典」 には収録されていなかったので、「Give Get 辞典」 を調べたら、以下の例文が記載されていました。

   Because you are getting a big laughs and they cannot top you?

 この例文は、「笑い」 が 「バカウケ」 したことを記述した文です。同じように、「笑いが、バカウケ する」 ことを、「Beyond Polite Japanese」 では、以下の例文を記載しています。

   He's stories are such a crack-up that he's always got everybody rolling in the aisles.

 この英文は、「話が、まわりに人たちに バカウケ する」 という意味ですね──ただ、この達意な文は、ふつうの日本人には綴れないでしょうし、綴らなくてもいいでしょう。
 もし、「バカ 当たり」 であれば、以下のような訳になるでしょう。

   The film was a smash hit. (小学館 プログレッシブ 和英辞典)

 
 以上に述べてきた口語辞典を使わないで、口語体 (slang) を調べる他のやりかたは、英語の slang 辞典を使えばよいでしょう。たとえば、以下に記載する有用な辞典が市販されています。

 (1) THE RANDOM HOUSE THESAURUS OF SLANG、Esther Lewin & Albert E. Lewin、RANDOM HOUSE
 (2) SLANG THESAURUS (2nd)、Jonathon Green、PENGUIN

 これらの辞典は、formal な単語を 「見出し」 にして、formal な単語に対応する slang を記載しています。
 たとえば、Green's を使って、「sleep」 を調べたら、多数の slang が記載されています。それらのなかで、以下の句例は、日本人でも使えそうですね。

   to go to bed: get one's head down, go beddy-bye, ...
   to sleep: get some shuteye, pile up some Zs, ...

 
 日本人が、欧米人と話しているときに、さほど、親しい間柄ではないにもかかわらず、「くだけた」 言いかたを平気でしている人たちを観ることが多い。たとえば、「げり (Get it?)」 とか 「うおなべっ (Wanna bet [ Want to bet ])」 という 「くずれた」 言いかたを平然と言い放って、あたかも、英語が得意であるかのようにしゃべっているようです (苦笑)。
 英語を母国語としていない日本人が、たまに、海外出張 (米国出張) したとき、「くだけた」 言いかたをしなくてもいいし、固め (formal) の言いかたであっても、礼節を尽くした コミュニケーション のほうがいいのではないでしょうか。

 私は、かつて、来日した米国人が講演したときに、通訳を請け負ったことがあります。私は、プロ の通訳者ではない。でも、かれ (米国人) が講演した中身を、私は、すべて、聞き取ることができたし、通訳することができました。というのは、内情をばらせば、かれは、私に、データベース 設計技術を、直接に指導してくれた恩師だったから。
 講演の終わりのほうで、Q&A が設けられていたのですが、一人の日本人が、英語を使って、直接に、恩師に対して質問しました。こう言うのは申し訳ないのですが、その日本人がしゃべっている英語を、私は、全然、理解できなかったし、恩師も理解できなかった。そしたら、その日本人は、(ほかの言いかたにして、通訳してほしい、と懇願するように、) 私のほうを観たのですが、かれの英語を、私は理解できなかった。したがって、通訳できない。

 英語を使って、意味を伝達できないのならば、その日本人は、どうして、英語で質問するなどという馬鹿げたことをしたのか──通訳者がいるにもかかわらず──、私には理解できなかった。その講演は、「英会話初級向け」 の練習ではないし、「(最新の) 情報」 を入手するための場であったはずです。英語を通して、「情報」 を入手する場です。

 口語的な言いかたや、slang は、当然ながら、「使用される適切な場」 を考えなければならないし、英語を母国語としない日本人は、当然ながら、そういう informal や colloqiual や slang などの膨大な使用例を知らないのだから、辞典を調べて、少々、口語的な言いかたを覚えても、適切に使用するのは、非常に、むずかしい。

 ちなみに、恩師が講演を終えたあとで、或る日本人が──さきほどの日本人とは違う人ですが──、恩師に紹介してほしい、と依頼してきたので、かれを、恩師に紹介したら、かれは、開口一番、以下のように言いました。

    Your method is not powerful, I think.

 私は、それを聞いて、「目が点になった」。
 こういう不躾 (ぶしつけ) な態度は、英語をしゃべる以前に、礼節・知性の欠如ですね。



[ 読みかた ] (2010年 9月16日)

 Slang については、「読書案内」 の 「英語 (俗語辞典)」 において コメント したので参照してください (本 ホームページ の 335 ページ)。

 本 エッセー のなかで例にした 「総なめにする」 について、私が、もし、会話で使うとすれば、以下のように言うかもしれない。

   beat them all, and come out best in あるいは、come out more strongly とか come out on top

 Informal な会話では、私は、たぶん、そういうふうに、Basic English を使った 「記述的な」 言いかたをするでしょうね──というのは、会話中では、口語辞典を使って 「洒落た」 言いかたを探している暇などないから。
 「バカウケ」 については、以下のように言うかもしれない。

   go down well with あるいは make its mark on、そして get big laughs

 ほどほどの英語をしゃべっているひとが、突如、或る文だけを洒落た表現で言っても──口語辞典を丸暗記した文を使っても──チグハグ した変な会話になるでしょう (笑)。じぶんの運用語彙を使って的確に表現することを心掛ければいいのであって、いくつかの洒落た表現を丸暗記して使っても かっこいい訳じゃない。勿論、口語辞典を読んで、口語表現を学習することは良いことです──だから、本 エッセー を綴りました。ただ、そういう学習では、口語表現なる語彙・措辞には どのような表現があるのかを 「総体」 として──或る程度、全体的に──判断できるまでの量を学ぶべきであって、口語辞典のなかから、洒落た文を たまに借用する程度の学習では実地の運用において埒があかないでしょうね。





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  佐藤正美の問わず語り