2022年 8月15日 「はじめに」 を読む >> 目次に もどる


 本書では、モデル を 「現実的事態 (事実) を写像した形式的構造」 であるという前提に立って、数学基礎論の基礎技術を使って モデル 作成の やりかた を記述しています。数学基礎論の技術を使っているので、「写像」 を 「関数」 として捉えて 「関数」 の技術を使って、形式的構造を作ります──「形式的」 というのは 「論理的」 と同値です。

 そして、「関係 (Relation)」 は 「関数」 と同値とみなして、「関係」 を 「関数」 を使って記述しています。また、モノ というのは、「関数」 のなかの パラメータ (変数) であるとして、「関数」 を使った法則的推論の体系を記述しています。

 本書で云う モデル 作成技術は、数学基礎論の技術を使っているので、「構文論が先で、意味論は後」 という手順になっていて、意味論とは 「論理的意味論」 のことを云います。本書で云う意味論は、論理的意味論なので、次の二つの 「正しさ (真)」 を完備していることを条件としています。

  1. 構文論的に妥当である (無矛盾な構造である [ L-真 ])。

  2. 意味論的に成り立つ (真とされる値が充足される [ F-真 ])。

 その前提に立って、本書では 「意味」 という語を多用していますが、「意味」 という語を 「真」 という語に置き替えたいというのが私の意図でした。

 写像というのは、原像 (写像の対象となる領域のなかに存る モノ) が いささかも逃れられない──すなわち、対象たる モノ が すべて 写像のなかに変数として ふくまれている──というのが鉄則です。それがゆえに、事業過程・管理過程を写像の対象とした モデル (形式的構造) では、原像は すべて 記号化されている [ 「情報」 (文字列) として記述されている ] ことを前提にしています。記号化されている モノ を対象にして 「関数」 を使って形式的構造を作るというのが 「論理的意味論」 なのです。したがって、形式的構造として記述された構造は、記号化された モノ (データ) が すべからく記述されています。そして、モノ として 「真とされる値」 が充足されるように モノ に対する制約束縛が すべて 記述されていなければならない。

 数学では、「...の条件を満たす」 というのは、言い替えれば 「...の モデル である」 ということなのです。だから、事業過程・管理過程を対象にして形式的構造を作れば、モノ (データ) が表す限界点 (境界線) を示すことができます。そのことを私は 「はじめに」 のなかで次のように記述したのです──「形式的構造 (データ) で ケリ がつくことを プログラム が請け負わなくていい」 「データ と プログラム の境界線を明らかにする」 と。

 事業過程・管理過程を対象にした モデル 作成について、私が常々不思議に思っていることは、「論理的意味論」 を述べた書物が ほとんどないということです。コンピュータ が数学基礎論から生まれたことを鑑みれば、そして モデル が事業と コンピュータ の接合点であることを鑑みれば──言い替えれば、モデル として記述された形式的構造が コンピュータ のなかに実装されることを鑑みれば──、「論理的意味論」 についての書物が もっと出版されていてもいいはずだと私は思っています。その意味では、本書は一石を投じたと自負しています。 □

 




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